acc-j茨城 山岳会日記

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只見をめぐる沢旅(小戸沢そそろ沢~芦安沢~丸山岳)

2022年09月24日 12時57分43秒 | 山行速報(沢)

2022/9/14~17 只見をめぐる沢旅


只見に初めて訪れたのは、会津朝日から丸山岳を目指した時のことだった。
「南会津アルプス縦走路構想」が頓挫し、藪に帰りつつあるという「未開の縦走路」に興味を抱いた。

結局は猛烈な藪に歯が立たず途中敗退をするわけだが、今思えば、まるで実力と研究が足りていなかった。
しかし思い通りに行かなかった無念にこそ、価値はある。

あれから、23年。
歳月の流れの中には、苦難もあった。
それでも只見は只見であり続け、私はこの山と谷に癒しを求めた。


-只見をめぐる沢旅-


好きな場所は自分で決めていい。
素晴らしき哉、沢旅。

只見湖から小戸沢西の沢そそろ沢。山越えして洗戸川前沢下降。
芦安沢を詰めて、丸山岳。下降は葦ノ沢から大幽東ノ沢、そして黒谷。

独奏の四日間が始まる。

 

2022/9/14

起点は只見駅。
車中泊の後、只見湖尻・万代橋の右岸袂の園地へ。
田子倉ダムを見ながら小戸沢林道へと入る。

小戸沢は以前から興味があった。
黒谷川、楢戸と遡行した者なら、並び流れるそれが気にならないわけはない。
上流の「そそろ沢」というネーミングにも惹かれたし、記録も少なく琴線に触れた。

小戸沢林道終点で東と西に流れを分け、西の沢へ入る。
下流部は穏やかに流れる西の沢も中流部で峡谷となり時に胸まで浸かる。
いくつか滝場もあるが、空身+荷揚げなどを駆使すれば突破できる。

上流部に入ると10mほどの滝が現れ、巻きを模索するが結局は直登するほかなかった。
しばらくゴーロが続き、高倉沢との二俣は高倉沢のトイ状を突っ張りで越えてから、そそろ沢へとトラバースする。

そそろ沢に入ると側壁は高く角度のある草付き。
威圧感が重い。
峡谷ではあるが、沢床はゴーロが多く意外と捗る。
途中でトイ状10m滝。これは左岸のルンゼから高巻く。

そろそろ幕場を求めたいが、峡谷に安息の幕場は少ない。
雨がないとは思っても、万が一を考えると安易に物件を決められない。
左岸に突き出た大岩上に1畳ほどの台地を見つけて今宵はここに根を張る。

昨晩は1時間ほどの仮眠だったこともあり、睡魔に勝てそうもない。
食事を済ませてすぐに床に就く。
あとは、今宵の眠りに日常の悪夢が現れないことを祈るばかりだ。

 

2022/9/15

幕場からは巨石をいくつか超える。
とはいえ、突破に困難はない。
流れがS字に屈曲した所で雪渓の残骸を見る。

その少し先で洗戸川前沢に繋げるため高倉山東のコルへ向かう左岸の支流に入る。
本流にも興味はあったが、それはまた今度。
そそろ沢から長須が玉経由で東の沢へ繋げるものいいだろう。

支流は急登で高度を上げる。
懸念していた絶望的な滝はなく、直登でこなしていける。

最後は藪を強引に登りきると高倉山東のコル。
稜線の藪は濃く、石楠花やツゲなどを交えた厄介なヤブコギだ。
たまらず、降りやすそうな場所を探し、少しだけ移動したら前沢側へ下降開始。

沢筋までは灌木を繋げていくが、それでも懸垂下降を強いられる場面もある。
前沢の沢床に着くまでに4回、そこから洗戸川出合まで4回の懸垂を要した。

洗戸川と合流し2年前を思い出す。
ここからの下降、芦安沢出合までに悪場はない。
時に滝場はあるが、軽い巻きやヘツリでかわせる。
この安心感は大きい。

幕場は前回同様に芦安沢出合から少し下流の左岸、小沢出合の段丘に求めた。
このあたりには山葵があるのが嬉しい。
そうして、楽しい沢の一夜が始まるのである。

薪には炎を。
山葵には肴を。
そして月。

傍らに、国権てふ。
美味し。

 

2022/9/16

芦安沢は中流部から滝が続く。
絶望感を抱くようなものはなく、軽く巻いたり、直登も険しくもやさしさを湛える南会津らしさがそこある。

入山前夜の只見駅で、Nさんが数日前に芦安を遡ったとツイートで知った。
面識なき彼の痕跡を感じながら遡るのも、何かの縁か。
おそらくこれは偶然でないのだろう。

意外と早く水は枯れ、今宵の水を確保しておく。
沢型は続き、手入れの良くない登山道のよう。
次第に背後の視界が開けて、これまでの道程がよく見える。

深山に独り。
畏れ、和ぎ、そして胸は高鳴る。

詰めは草付きの急傾斜。
灌木目指してバイルを振るう。
丸山岳から北西の1736峰。さらに100mほど西の尾根に詰めあがる。
ここからが苦難の歩となる。

待ち受ける、密藪の刺客。
笹藪はもちろん、石楠花、栂、ナナカマド。
そして密藪に絡まる、つる性植物。

容易ならざるヤブコギに、私は23年前を思い出していた。
とかく力任せだった、あの時。
それは若さの証明でもあったか。

時を経て想うのは、それでも楽しかったと、充実した、高揚したと感じた山行後感。
思い通りに行かなかった無念にこそ、価値はあった。
それは、あのころの日常でも同じではなかったか。

今はどうだろう。
はたして、同じと言えるだろうか。
藪を漕ぎながら考える。
そして夜の帳が降りる頃、丸山岳に至る。

 

2022/9/17

朝の草原に立つ。
控えめに言って、最高だ。

山頂から葦ノ沢下降点までは時に藪を漕ぎ、草原を繋ぐ。
あたりを決めて笹藪に入ると沢型はすぐに現れる。

葦ノ沢の下降は、岩がとても滑るので要注意。
懸垂下降2回。

大幽東ノ沢はゆったりと流れる。
サブウリのゴルジュでは流木が流れをせき止めて、いくつも滝場と化している。
たしか、前回下降したのは6年前
その時の印象からずいぶん変わっている。
下降はともかく、水線遡上は困難そうだった。

只見をめぐる沢旅。
フィナーレはやはり黒谷の森だ。
この森は「歩く」のではない。
「味わう」のだ。

取水堰を通過し、水色の大幽橋をくぐればこの旅も終わる。
黒谷林道の車止めにデポしておいた自転車に跨る。

薄暮の黒谷川沿いを自転車で疾走する。
家々の窓に明かりが灯り始める。
ふんわり香る稲わらの匂いに、秋を感じる。

暗がりの国道を只見駅に向かう。
道すがら10月1日の只見線全線再開を祝う幟がはためいていた。

もう少しだ。
がんばれ、俺。
がんばれ、只見。


sak

 

 

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