acc-j茨城 山岳会日記

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山でのあれこれ、便りにのせて


ただいま、acc-jでは新しい山の仲間を募集中です。

安達太良山

2000年02月02日 18時37分57秒 | 山行速報(雪山・アイス)

2000/2/上旬 安達太良山

風雪の 勢至平。

ここには今までの林道のように風を遮るものはない。 
荒れ狂う風雪に身を委ね、その間隙を縫って一歩一歩、 淡々と歩を進めるしかない。

ゴ-グルは凍り付き視界が悪い。 
かといって、 それを外そうものなら眼すら開けてはいられないのだ。

同行者の背負う赤旗がかすかに見える。 
それを追いかけるのが精一杯である。

ああ、けれども 
それは遊びぢゃない 
暇つぶしぢゃない 
充ちあふれた我等の余儀ない命である 
生である 
力である 


 ここが私の正念場であった。


90分後 、私達はダルマスト-ブの恩恵を体一杯に受けていた。

轟々と燃え盛るスト-ブの中の黒炭は、まるで魔法の石ころだ。 
そしてその後には「くろがね温泉」が待ち受ける。

零下の世界と熱い温泉との間には 異空間が夢空言のように浮遊する。

窓の外にある雪を温泉に入れてみると不思議とちょうど良く中和され 
ビ-ルが美味しく飲める湯温となった。


こころよ、こころよ 
わがこころよ、めざめよ 
君がこころよ、めざめよ 
今、自分が望んでいるのは、こういう事なのだ。


くろがね小屋での夕食はカレ-ライスであった。


本日の泊りは我々のみであった事もあり、 米を磨ぐ時に「沢山食べますよ」と暗にリクエストしておいた。 
その甲斐あって、たっぷり2人前ほどいただいた。


心身ともに満たされた後は友情を深める会話が続くのが常というもの。


私は今何かに囲まれている 
ある雰囲気に 
ある不思議な調節を司る無形な力に 
そして最も貴重な平衡を得ている 
私の魂は永遠をおもひ 
私の肉眼は万物に無限の価値を見る 
しづかに、しづかに 


 この静寂なる小屋の一夜に駆け巡る懐旧。 
天気が悪くても、最高に贅沢な山行である。


夜が明けた。 
とはいえ、内も外も未だ暗闇に包まれている。 
かすかに聞こえる物音は 厨房で朝食の準備が始まった事を物語る。

こっそりと食堂に降りるとスト-ブが火を灯していた。 
手をかざしそれに近づくと顔が段々とオレンジ色に染まってゆく。

わたくしの心は賑わい、 
山林孤棲とひとのいふ 
小さな山小屋の囲炉裏に居て 
ここを地上のメトロポオルとひとり思ふ。

灯したばかりのスト-ブは灯油の匂いと共に ほんの少しずつ温かさが増してきた。


くろがね小屋を後にしてさあ、出発だ。 
ガスはかかっていたが、幸い風はない。

今日はテッペン立てるかな? 
一夜の想い出を胸にくろがね小屋を後にする。

そして私のいきり立つ魂は 
私を乗り超え私を脱れて 
づんづんと私を作ってゆくのです 
いま死んでいま生まれるのです


一晩で生まれ変わった汚れなき雪面は、一歩踏み出す毎に気落ちよく音を鳴らした。


真っ白な世界に佇む白い道標稜線に出た。 
道標も岩も雪面も一面の「エビのシッポ」。

正直ホッとした。この稜線を南に進めば山頂があるのは 間違いない。


実はここまでの登りで何度となく道を失った。 
斜面のトラバ-スでは真っ白な雪と真っ白なガスがあいまって、 一面真っ白。私の平衡感覚をも狂わせた。

風のふくやうに、雲の飛ぶやうに 
必然の理法と、内心の要求と、 
叡智の暗示とに嘘がなければいい 
自然は賢明である 
自然は細心である


エビのシッポ一掴みを、噛んだ。 
サクサクカリリ、 音を立てながら舌に溶けた。 
突然、現われた安達太良山の乳首一瞬の出来事だった。

視線の先に山頂が見えた。 
ガスに消えてしまう事を恐れながらカメラの準備をした。

幸いガスは流れ、新鮮で強烈な光が網膜を刺激した。 
一面の銀世界に突然現われたそれは、 まるで私達を待っていたかのようでもあった。

あれが阿多多羅山、 
あの光るのが阿武隈川。 


 私と安達太良山の乳首との出逢いは鮮烈なものだった。


紺碧の空、智恵子の空山頂直下 好展望のもとシャッタ-を押し続ける。

ふと、見あげると紺碧の空が雪の山頂を際立たせている。 
何という「青さ」そして何という「白さ」であろう。 
言葉も忘れ、ただただ眺める。

阿多多羅山の山の上に 
毎日出ている青い空が 
智恵子のほんとの空だといふ。 


智恵子の空はなんと素晴らしい事だろう。

快適そうな山スキ-ヤ-下山は気持ちの良い 雪原を歩く。

所々に樹氷が突き出している。 
それを縫うように向こうから山スキ-ヤ-が登ってくる。

つぼ足の我々に比べていかにも快適そうである。 
実際、ここ安達太良山は山スキ-が本流のようである。

われらは雪に温かく埋もれ 
天然の素中にとろけて 
果てしのない地上の愛をむさぼり 
はるかにわれらの生を讃めたたへる

この天然劇場はこの瞬間ここに居る者しか味わう事のできない 感動のワンシ-ン。 
すれ違いざまの会話も弾むわけだ。


樹氷と雪原山スキ-ヤ-と入れ違いに我々が 樹氷帯に入る。

振り返ると雪原にトレ-ルが延々と続く。 
もうすぐでゴンドラの山頂駅だ。


一寸、「セックンもどき」をして雪と戯れ 雪山の名残を惜しんだ。


山頂を見ると先のスキ-ヤ-のトレ-ルが 雪原に滑らかに黒い線をひいていた。

仕事が出来たらすぐに山へ帰りませう、 
あの清潔なモラルの天地で 
も一度新鮮無比なあなたに会ひませう。

山には私の求めるものがある。 
この道の先でそれらが私を待っている。 
それだから、何度も何度も私は山に行くのです。


*一部「智恵子抄」高村光太郎 著(新潮文庫)より抜粋


sak