2005/9月下旬 虎毛山塊の沢旅
進路を北に
「いいねえ。このナメ。このキラメキ。」
前夜、仕事をたたんで一路進路を北にとる。目的地は秋田・虎毛山塊
言うまでもなく、その計画は確信的な安息であったか。
最高の秋晴れに気を良くして輝きを放つ水面をゆっくりと歩く。
役内川、ツブレ沢を遡り左にナメ滝を望む沢が三滝沢である。
出合の滝は少々手強いが、まぁなんとなく強引に登ってしまえば、あとは気分のよいナメタイム。
時に延々と廊下のように続き、時に滑り台のごとき滝が出現する。
そのとき、この言葉が頭をよぎる。
この三滝沢、ナメはその規模を縮小しつつも源頭付近まで続くのである。
安息の休日
流れはか細くなり水線を勘に任せて右に左に入り込む。なんとル-トファインディングはズバリで稜線へ。
今度はこの反対側へ適当にブッシュを掴んで下降を始め、わずかで赤湯又沢左俣の川床に降り立つ。
ここも小規模ながらナメがしばらくは続く。
右俣と出合い、途端に沢床は赤く染まる。この先に安息の休日が待っている。
最近覚えた流行歌のサビの部分を繰り返しハミングしてしまう程、期待は高まる。
ふと行く先に煙が見える。
「見えた!」
そここそが赤湯又沢の地熱地帯であった。
緑川の吟醸
安息の幕場にて。
地熱を噴する河原には白濁の出湯が丁度いい湯加減で待っている。
幕の準備ができたらあとは温泉。
緑川の吟醸と肴をもって湯に浸かりながら酒をいただく。
暗くなる前から酔っ払いの出来上がり。
湯に浸かり、酒を飲み、時に昼寝。暗くなるまでにひとしきり気分良くすごす。
今日は焚き火はしないつもりだったけど、夜はやはり息が白くなるほどに冷える。
控えめな薪でとろとろと、星空を眺めながらうとうとと、断片的な夢にハッとする場面も。
つり時々ナメ
本日の天気は”つり時々ナメ”でしょう。それでは皆さん、さようなら。
赤湯又沢を下降し虎毛沢に入る。
赤湯又沢は温泉混じりで”濁り”が玉に瑕だが虎毛沢のキラメキには息吹がある。
は。は。は。
突き抜けた空、あとは独り日がなにつりとナメ。
気分はもはや、秋風のごとき。おもいのままに歩き出す。
大漁かい?まぁまぁだね。
なぁに、今が過ごせりゃいいんだからよ。
岩の紋様
不可思議な縞模様は虎毛か亀甲か。ともかくしばらく魅入る紋様にヒラメく。
虎毛沢の見所の一つにいわゆる「亀甲模様」と言うのがある。
開けたナメに走り書きされたかのような紋様。きれいな亀甲もあれば幾何学的であったり毛筆書体の模様もあったりする。 紛れもない天然の岩の紋様なんだけどとてもそうは思えない。
それを観てはじめはとてもびっくりしたさ。自然の不思議?モチロンそれはそうなんだけどね。
でもボクはこう考えたんだ。「トロルはホントに居たんだ!」ってね。
自然のリズム
闇夜に小さな焚火の明かりは幕場を照らし煙は夜空へと消えていく。 見上げる空には”山の星空”が広がる。 パチパチと時に火の粉が立ち昇り、小さなとろ火は自然のリズムで強くそして弱くを繰り返す。
そんなさまを暗闇の出湯に浸かり、ほろ酔い気分で眺めていると今までで最高の夜に思えてならない。
「おぅい、夜空をいく飛行機よ。おまえは一体この世界のどこへ行くというのだ?」
「おぅい、おまえには今の俺が見えるかい?俺にはおまえがよ~く見えるぞぅ。」
今宵も吟醸、肴は焼きあがりをひと串。
一飯一肴一汁、そして一献。極上の一膳は今宵を彩るにふさわしい。
水の息吹
最終日は赤湯又右又を詰めるはずが支沢に入ってしまい思わぬヤブを漕ぐ事になってしまったがドンマイ。 稜線を跨いで今度は湯の又沢へと降り立つ。
これはこれは。どうもどうも。
旅も終わりのこの切なさにコレデモカというばかりのナメナメナメ・・・。
「さて、今までに”ナメ”と何回言ったでしょう?」とお約束のクイズを出したくなるほど、ダメのダメ押しで 秀麗なナメが展開される。
ほろほろと余計なものは落っこちて今ではスッカリ誰でもなくなった。
空はずいぶん高くってどうにかすれば届くのかもしれないけど、 足元にきらめく水の息吹があるから、それでイイんだとおもう。
そうして誰でもないボクは今、気持ちいい風を胸いっぱいに。
sak