acc-j茨城 山岳会日記

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山でのあれこれ、便りにのせて


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八ヶ岳・天狗岳

2002年03月15日 14時32分58秒 | 山行速報(雪山・アイス)

2002/3中旬 八ヶ岳・天狗岳

系譜 

はたして私の奥底に堆積する自然回帰や放浪の系譜は いつの頃からであったか。 
そんなことを思うたび少年時代に読んだ 一冊の本を思い出す 
今はもう記憶の断片になってしまった物語ではあるが、 ただひとつの場面が鮮明に今の私の脳裏によぎる。

「パパは山だってぇ」 
攻撃的ではないこの一言がかえってココロに突き刺さる 
スマナイ、という心の負い目は時に 頂まで引きずることさえある 
それでも山に行く私を、ただただ許していただきたい 
山に行く、それは私の生きる道 
そう、私はいつでも山を欲しているのである

だって空を見上げてごらんよ 
木々のささやきを聞いてごらんよ 
雪のぬくもりに抱かれながら自分の命を感じてごらんよ 
その偉大さに結局は観念してしまうのだよ

山貴族はそんな言い訳を導き出しながら山に行く 
少年時代の記憶の断片を懐に 
読みかけの本をザックに忍ばせ、 静寂なる一夜を目指す

山岳リゾ-ト 

あれやこれやと小賢しい理屈はザックに入れ忘れた 
「お気楽ゴクラク」 
本当の目的はそこにあった 
歩きたければ歩くし、登りたければ登る 
のほほんと小屋で読書に更けるも良し、日がな一日ボケッとするも良し 
あとは出湯につかることだけに尽力する 
”山岳リゾ-ト”そんな山旅、もちろんアリだ

わずかな春の日差しが風と共に遠のいて行く。 
次第にほのかなランプの明りが私たちを包み込む。 
そうして、しらびそ小屋犬のラッキ- と共に夜は更けていった

愉快

不思議なもので、いつもはあれだけ寝坊助な私も山では夜明けと共に 目がさめる。 
真っ暗な屋根裏部屋にひとつだけある硝子窓からのぞくダケカンバ のシルエットが刻々とその輪郭を露わにしてゆく 
そして私は微笑んだ 
ダケカンバの幹の向こうに青い空を見上げて

山貴族たちの朝は、どこか愉快でもある 
落ち着き払っているようで昂揚しているのが端々に見てとれる 
口に運ぶ箸を持つ手にどこかぎこちなさを感じてしまう 
窓の外で餌をほおばる栗鼠のほうがよほど落ち着いて見える 
私にしても例外ではない 
それは初めて恋が叶ったときにも似る想い 
嬉し笑いを精一杯誤魔化そうとするような純真さでもあった

分岐

昨日降りつもった乾いた雪は足を踏み出すたびにまるで羽毛のように ふんわりと舞い上がる 
それに気を良くして出湯を目指す予定であった分岐では峠を目指す事にした

山貴族は歩くことを苦としない 
むしろそれを喜んでいる輩である 
自分にとって喜ばしいか否かは自分で決める 
いたって単純、簡単なものなのだ 
歩きたければ歩く 
片意地張ることなんてない。面倒になったら挫けたってかまわない 
それこそが自分で決めるということなのであるから

流儀

静かな森にただ一人息をはずませ雪と戯れる 
足下の綿毛のように柔らかな雪、シラビソの幹から降り落ちるやんちゃな雪、 風に舞う美しく輝く雪、そして稜線に望む緊張感あふれる雪 
最後の急斜面、もうひと登りのところで見晴らしが良いのをいいことに 大休止

うららかな日差しとは裏腹に次第に強くなってくる冷たい風は ここがまだまだ冬の領域であると、そう言っている 
お気楽といえどそのあたりの流儀は心得ているよと防寒と堅雪 装備の出番となる

鉄の爪

カリコリと食い込む鉄の爪は、お気楽な山旅には少し 荷の重い道具である 
しかし今まで以上に乾いた風の鋭さや フリ-ズした木々、舞い上がる雪煙は山旅に少しだけ緊張感を与えてくれる

山貴族はどうしても行かねばならなかった 
それは頂があるからではない 
悲願があるからでもない 
ただ、今よりももっと青い空が見たかったから 
山の向こうの世界を知りたかったからに他ならない

確信 

私は鞍部から出湯目指して雪と共に転がり落ちていった 
山杖で制動を利かせながら自分でも驚くほど上手に 木々の間をすり抜けていく 
雪中のせせらぎを渡る頃になると目指してきた 山中の温泉宿は目前である

石楠花の湯に独り、安楽時間をゆったりと愉しむ 
今のためにココまでやってきた 
自分の想うままにココにやってきた 
一息、大きなため息をついて天井を仰く 
やがて天井は真っ白な湯気に覆い隠されてしまう 
私はそっと目を閉じた

思い出すのは、視界にひとつの灯火も映らない場所を探し続ける男の 物語であった。 
他愛もない記憶の断片はなぜか私を突き動かす 
山貴族はそんな確信を導き出しながらまた山に行くはずである

 

sak