acc-j茨城 山岳会日記

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山でのあれこれ、便りにのせて


ただいま、acc-jでは新しい山の仲間を募集中です。

錫杖岳・見張り塔からずっと

2008年06月26日 18時59分16秒 | 山行速報(アルパイン)

2008/6月下旬 錫杖岳・見張り塔からずっと

宿命

「見張り塔からずっと」

それは見張り塔からずっと、終始しなければならない。 
その時の永さといったら気が遠くなるほどで、時に目眩を覚える。 
宿命。それは、ただただ、塔の上から終始しなければならない事であった。

本峰フェ-ス末端のフリ-ル-ト「見張り塔からずっと」は、北沢フランケを望む北沢大滝から登攀が始まる。 
1P・リ-ド 
北沢大滝の左、階段状~ルンゼ。 
どうやらこれがル-トミス。 
2P目を伸ばすも手がかりのないスラブに行く手を阻まれ、そこからロワ-ダウン+懸垂下降。 
 

不安 


2P・リ-ド 
少し戻ってカンテを乗り越え、北沢大滝の右岸を行く。 
意外と支点は豊富。

3P・フォロ- 
大滝上部のスラブ。 
Ⅱ、Ⅲ級で簡単だが、支点はほとんどない。

4P・リ-ド 
スラブを左上。中間支点なし。あと5になって漸く支点を発見。

5P・フォロ- 
特徴のない緩傾斜スラブ。

6P・コンテ 
緩い傾斜の草付きスラブを中央稜まで。 
これから登るル-トの全容が見渡せる。 
かなり立って見える。少々不安。道読みと確認も含めて小休止。 
ロ-プを出したが、ここまではアプロ-チといっても過言ではない。

醍醐味

7P・コンテ 
中央稜から沢筋をトラバ-ス。

8P・リ-ド 
下部のルンゼをつめ上げ、大洞穴まで。

9P・リ-ド 
このル-トの実質がここから始まる。 
オリジナルは大洞穴に少し入ってから行くらしいが、少々濡れているので入り口左のカンテル-トをとる。 
一段上がって少しカブったところにカムで支点がとれる。 
上の隠れたカチを拾って、角度を殺した足裁きでそれを越え、時に甘めのホ-ルドも含めたフェ-スを行く。

この高度感。既にフォロ-が見えないので、やはり結構な角度があるのであろう。 
ここで、一つ後悔。相棒のストッパ-を借りるのを忘れてしまったことに気付く。 
しかたなく岩溝にスリングのコブを食い込ませ支点とする。 
ほぼ中間にある松の木で支点とレストができる。

そこから上のクラックがこのピッチのハイライト。 
カムで支点を得ながら、ハンドジャムやステミングでの登攀。 
NPクライミングの醍醐味といったところか。 
緑のテラスにあるハ-ケンと、岩でビレイ。 

 

展望台

10P・リ-ド 
核心とされるピッチ。 
凹角を直上。チョックストン上にたてば右のフェ-スに外傾スタンス。ここをトラバ-スが正解だ。 
左のクラックにカムで支点。一歩を踏みだす。

「いやあ、ここかあ。」思わず声が出る。 
これは確かに技術的というよりは心理的に辛い。 
何しろ支点が取れないので、ここで落ちれば、かなり左に振られ、壁に激突は免れない。 
ようやく中間にあるクラックにストッパ-で支点は取れるが、決して信頼に足るものではない。 
そこから左上するが、ここも甘めの外傾ホ-ルドに一時、行き詰まる。 
普段の研鑽の賜物、忍耐とレストを繰り返し、この難局を乗り越える。 
上部スラブに出たらチョット左にチョコンと突き出た展望台がある。 
これが見張り塔。このル-ト名の由来なのであろう。支点は丁度そこにある。眺めが最高。 
フォロ-を迎えて、小休止とする。 

 

スラブ

「見張り塔からずっと」

時に見たくもない事象をも見守る他はない。 
介入する術もなく無声映画を観るように、ただただ、そこから終始しなければならない。 
そこに立つ哨兵は哀れだ。

11P・フォロ- 
スラブを岩壁まで。ロ-プの流れによっては落石に注意が必要。

12P・リ-ド 
ルンゼを一段上がれば、草付きルンゼ。途中の潅木でピッチを切る。


 
クライマックス 

13P・フォロ- 
最終ピッチ。 
草付を詰めて、最後のフェ-ス。

最後のフェ-スはクラックにハンドとフットを捻じ込んでいく。 
その先の青空に、その向こうの山並みが開ける。そして歓喜。 
はたして終了点が錫杖岳の山頂。これほどのクライマックスは、そうない。

「見張り塔からずっと」

そこに、善や悪など意味があるはずもない。 
見えるのは事実だけだ。 
明と暗、光と影。クライマックスはいつも同じとは限らない。 
見張り塔からずっと、いままでもこれからも。 
 

sak


錫杖岳・左方カンテ

2008年06月25日 18時57分34秒 | 山行速報(アルパイン)

2008/6月下旬 錫杖岳・左方カンテ

殿堂

槍が見えた。 
思い起こせば槍を拝したのは何年ぶりか。 
久しぶりに槍穂といいたいところだが、今回はクライミングの殿堂、錫杖がタ-ゲットなのである。

槍見温泉からボトボト歩きで渡渉点。いくらか歩くと前衛壁が広がる。 
こりゃあ見栄えがいいなあ。 
錫杖沢出合の幕場を通過し錫杖沢を詰めあがる。僅かで錫杖沢の岩舎。 
幕なら2.3張、多少の雨では濡れないし、傍らに沢がある。 
クライミングといいながら、まるで沢登りのような快適な幕場にしばし満足。

幕を張り、身支度を整えたなら本日のメニュ-は「左方カンテ」 
錫杖の一番人気ル-トである。 

 

衝動

取付きでジャンケン。勝ったほうが先行でツルベ。最近はこの方式。 
でもって、負けたさかぼうはフォロ-スタ-ト。

1P・フォロ- 
ルンゼを適当に。 
岩は乾いており、最高のコンディション。 
背後には槍穂のロケ-ション。 
安定した岩に「いやあ、サイコ-っす。」

2P・リ-ド 
継続してルンゼからリッジのテラスまで。


3P・フォロ- 
下の核心。 
フェ-スを一段登り、ノッペリしたスラブの細かいスタンスに立ちこみ、 小ハング上のガバに届けばあとは豪快に体を上げる。 
うお-っ!と叫びたくなる衝動が体を貫く。

感触

4P・リ-ド 
どうってコトのない凹状を、立ち木まで。

5P・フォロ- 
すっきりとしたフェ-スを快適に。 
このル-トの白眉。最高に楽しいピッチ。 
このカッチリとした感触にこのフリクション。そしてこの直線的なル-トはそうはない。 
いやあ、本当にクライミングっていいですね。楽しいですね。って感じだ。

 
核心 

6P・リ-ド 
ル-トの核心。 
左の細かいホ-ルドを手がかりに、右手を岩の裂け目、肩まで入れ込む。 
徐々に体を上げたら、最後はバックアンドフットで、チョックストン上のガバに手が届く。 
さらに左のフェ-スを右上。縦に入るクラックを三本ほどつないでリッジ。 
そこからノッペリしたフェースをひと登りでピッチを切る。

7P・フォロ- 
フェ-スを直上。 
がたつきの気になるフレ-クをだましだまし使って、徐々に藪が多くなってくる。 
ほどなくヤブが気になりだしたら終了点。

見回せば、翌日のメニュ-本峰フェ-スの大洞穴も見える。 
そこから北沢まで四ピッチの懸垂下降で北沢に降り立つ。 
 

青春

最高の天気に最高のクライミング。 
カッチリ感とフリクションに酔いしれたそれは、もはや麻薬である。

カイテキな登攀の余韻に浸りながら、明日の登攀に胸を膨らます。 
青春とはこんな日々であったか。 
今となっては、もはや思い出すにも微かな記憶。 
でもこうやって、錫杖沢岩舎から暮れ行く前衛壁を見上げていれば、たしかにそんな日々であったようにも想う。

ただいま青春真っ盛りのパ-トナ-。 少々、羨ましくもあるが、それもこれもなにかの縁。 
君がいたからこそ、一杯傾けながらの郷愁に想い耽る。 
そして盛大な焚火は夜空を照らす。


sak


谷川岳・凹状岩壁(中退)

2008年06月05日 18時55分47秒 | 山行速報(アルパイン)

2008/6月上旬 谷川岳・凹状岩壁(中退)

顛末

一ノ倉・凹状岩壁に行った。 
結果は落石によるロ-プの破断で敗退。人的被害なし。 
無事が何よりであった。

起床、外は弱い雨。コレではと、二度寝を決める。 
霧雨。しばらくゴロゴロして過す。 
雨上がる。太陽が出るが一の倉はガスに包まれている。 
ガスが上がり始め、衝立の頭が見えてきた。道端の石や舗装も幾分乾いてきたので出発を決める。 
出発・テ-ルリッジは乾いていたり、濡れていたり。 
中央稜取りつき・装備の装着 
凹状取りつき。登攀開始。

 
核心

①ピッチ・フォロ-・特に問題なし。 
②ピッチ・リ-ド・特に問題なし。 
③ピッチ・フォロ-・特に問題なし。

④ピッチ・<凹状の核心とされるピッチ>リ-ド 
この辺りから染み出しが多く、快適とはいいがたい。しかし、フリクションはまずまず。 
浮き石が多いとの情報もあり、慎重に。相方にはラクの危険があるからと注意。 登攀中にガスが出てくる。

切断

④ピッチ。フォロ-を向かえる。 
次が迷いやすいとあったので、休憩がてらに道読み。 
正面の立った凹状に古いフィックスロ-プ。これが迷い込みやすいところだろう。 右目のチッコイ凸。あれが右のカンテだろうとあたりをつける。 もし、そのカンテを超えて右上にハングがあれば間違いないねと送り出す。 
ガスは晴れない。

⑤ピッチ・フォロ- 
相方のリ-ド中、カンテのところで、その先にハングが見えるか確認。ガスで不明瞭だが、「多分、あります」との言。 そこから先、姿は見えないが、ロ-プは伸びる。

25m(半分の印)を送り出すころ、急にロ-プが伸びなくなる。急かすのもなんだからと、しばらく耐える。 
しびれを切らし、状況確認。「浮いてて悪いです」との回答。 「無理そうだったら途中で切っていいよ」と伝える。

その後、いくつか小さな落石。いずれもフォ-ルラインが幾分ずれており、跳ね返りだけ気をつけて落石には 背を向ける。 
再度、状況確認。「何とか右にトラバ-スでいけそうです。支点もあります」との回答 
その直後、大きな落石。 
フォ-ルラインは判っていたので壁に身を寄せ落石に背を向ける。 
相方もバランスを崩すことなく無事。直前にランナ-も取れていたらしい。

落石が落ち着いた後、おそらくル-トが違うからそこでピッチを切って、セルフビレイをとるよう指示、確認。 
直後、青ロ-プがダランとしているのを発見。手元の青ロ-プを手繰り、切断を確認。 
そのとき、ココロは決まった。 

 

撤退 

相方に「ロ-プが切れたので撤退」を伝える。 
ここからは脱出行となる。頭を切り替えていかねばならない。 
相方から、赤ロ-プをフィックスし下降するとの申し出。しかし、撤退を考えると、ロ-プは出来る限り回収 したい。お互いの距離はロ-プの中間印から約25~6mと捕捉出来ていたので、 まずはそこから切れていない赤ロ-プを使って懸垂下降を指示。 
そのため、さかぼうはスリングでセルフをとって、赤ロ-プを解き、ザイルアップ。 
しかし、赤ロ-プも破損が発覚。中心付近なのでこれを切断し、結んで懸垂するとの申し出。 
支点がリングのみなので、ハ-ケンをいくつか打つ。 
ここで落ちると互いに致命的なので、お互い声をかけながら時間は掛かっても安全確実を心がける。 
支点工作後、ザイルダウン。何とかギリギリ届く。24mと26mといったところ。 
相方、懸垂下降。⑤ピッチスタ-トまで戻る。お互いの無事を確認。ここまでの健闘をねぎらう。 切断確認からこの瞬間までが特に緊迫した時間であった。

互いのロ-プを確認。赤は約26mと24m、青は約30mと20m。お互い長いほうを懸垂下降セット。 使わないのはザックにしまう。 

 

帰着 


ロ-プの長さが判れば、ル-ト図を見ながら下降が出来る。 長めのピッチは途中で支点を作れば良い。 
核心の④ピッチは25mなので、安心して降りる。実際には30cmくらい赤が短かった。

③ピッチは2ピッチに分ける。この頃からガスが晴れる。途中のピナクルに良い支点があったので利用。 
②ピッチも2ピッチに分ける。途中に古いスリング支点。スリングを足す。 
①ピッチも2ピッチに分ける。取りつきへのトラバ-スをせずに屈曲点にハ-ケンで支点工作。 烏帽子スラブのバンドまで懸垂下降。

バンドでザイルをしまいながら行動食。 
中央稜取りつきまでいって一休み。クレッタ-のまま下降。 
テ-ルリッジ末端で靴とアイゼン。 
出合着

自他共に人的被害がなかった幸運に感謝したい。 
 


sak