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『マリア様がみてる レイニーブルー』と『マリア様がみてる パラソルをさして』感想

2004-08-20 19:24:25 | マリみて
久々のマリみて感想です。
今回はたぶん自分史上最長の感想になってしまいました。
#お急ぎの方はご注意を。お時間が少しある方はお付き合い頂ければ幸いです。

現在『涼風さつさつ』まで読了なのですが、『レイニーブルー』から『パラソルをさして』は現時点で最も好きなシリーズとして自分の中に位置付けされています。

■今回は読後の感想から書いてみる。
お互いを想うが故に、次のステップに進むために立ちふさがる壁「誤解」「すれ違い」を乗り越えて手繰り寄せた「絆」は、以前とは比べ物にならない程強くしなやかなものでした。
この「絆」を紡ぐプロセスを主人公である祐巳-祥子ラインの紅薔薇ラインはもちろん、黄・白にも並行して歩ませ、紡ぎあがった紅・黄・白のラインは本当に美しく、この作者に対して尊敬の念を抱かずにはいられません。
いずれは通らなければならない「扉」を最高の形で描いてくれたと思います。
以下、白・黄・紅の順で感想を。

●ロザリオの滴
白薔薇姉妹はつくづく似ているなと。
お互いを想うが故に重荷を背負わせたくない。
でもこの二人にとって本当に必要なのは、重荷を一人で抱えることではなく、肩の荷を一緒に背負える相手なんですよね。
二人の想いがここに辿り着いて重なる時、一読者としても晴れ間を見た思いでした。

「世界は二人だけで構成されているわけじゃないよ」
と乃梨子は言ったけれど、肩の荷を背負い合える二人の世界がこの二人には必要だったと思いますし、乃梨子を通じて発せられた作者のこの言葉はきっと、この後に続く黄薔薇姉妹そして紅薔薇姉妹にも贈られた言葉ではないかと思ったりもするのです。

こんなに雨が降っているのに、志摩子の心の中は見事に晴れあがっていた。

ロザリオの滴のラストシーン、イラストも美しく何度読んでも美しいシーン・・・。
白薔薇姉妹に幸多からんことを。

●黄薔薇注意報
由乃視点で描かれる黄薔薇注意報ですが、ここで描かれたプロセスは実は令ちゃんにこそ必要なプロセスだったと思うのです。

■一つのことに
依存しないように、どこかでバランスを取るということは通常大切なことだし、誰しもやっていることだと思います。
ただ、この二人はあまりに距離が近く、外にバランスを求めるよりは内側(自分自身)に折り合いをつけることが必要なんでしょうね。
それが由乃の言う修行なのかも。

■特に
外科手術を受けてパワーアップしたスーパー由乃になってからは令ちゃんとのパワーバランスが崩れていたので、この修行で是非スーパー令ちゃん2くらいになって欲しいものです。
黄薔薇注意報というより、中型で強力な台風「ヨシノ」注意報だった気もします。

●レイニーブルー ~ 青空の下で
■近づくほどに見えなくなる、
またその人しか見えなくなる。そこに生まれる「依存」。
乃梨子の「世界は二人だけで構成されているわけではない」という言葉は実はここにもかかっていて「二人だけの世界」から「世界の中の二人」になれるかどうか、「レイニーブルー ~ 青空の下で」はそれが試される祐巳視点での成長ステップなんですよね。
これが「相互理解」と「相互依存」の決定的な違いになってくるんだろうな。

■この成長のプロセスを
丁寧に描いてくれているのが嬉しいところ。
大きく分けて祐巳には3つのステップを踏ませているのですが、
・周りにある「絆」の再確認
・自分の心との折り合い
・相手の気持ちの再確認
まあ、最後は再確認というよりは「本当の気持ち」の再発見といった方がいいかもしれませんね。
こういうステップを踏ませるあたり、作者の各キャラへ対する愛情が伝わって来るというもの。

■周りにある「絆」と世界の再確認

目の前にはまだたくさんの絆があったというのに。
そしてどれもが、かけがえのない人につながっているものなのに。

由乃と祐巳の会話を通じて語られるこのフレーズ。
まるで「君が築いてきた絆はそれだけじゃないんだよ」と作者が祐巳に語りかけているようで、祐巳に心の余裕を回復させる力を与えているんですね。

私はもともと涙腺が緩い方ですが、この後青い傘が帰ってきた(敢えてこう書く)くだりではもう・・・(涙)。
この表現は「もっと視野を広げなきゃ」という確信を祐巳に与えるためのツールだったのですが、一読者としても本当に吹っ切れる想いがしたものです。
これで立ち向かえる、みたいな。

■自分の心との折り合い
祐巳の心に余裕が出来たからこそ、しがらみとなっている山百合会と瞳子に向き合う余裕ができる。
自分自身の折り合いをつけるために、苦手意識のあるものに立ち向かうというプロセスは人の成長にとって非常に重要な部分だと思うのです。
祐巳の心の成長を考えて、こういうイベントを用意している作者の愛情を感じます。

仕事でもね、嫌だなと感じたもの(リスクイベントの温床)をコントロール下から外すもしくはノーアクションでいたとき、必ず後工程になって何倍にもなって痛手をこうむるものだと思うのです。
こんなとき、お腹の底にある嫌な感じをぐっと握りつぶしてリスクに突っ込んで考えるようにしています。
(大抵しんどい思いをするので)結構勇気のいることなんですが、このアクションを取ることで何度救われたことか。
だからこそ祐巳にシンパシーを感じるし、頑張って欲しいと思うのです。

■相手への気持ちの再確認

「あなたが好きなの」

祥子さまからこの言葉が出た時点で全ての答えは出ているんですよね。
#この言葉で私は軽い衝撃と大きな感動を受けましたよ。ほんと。

悲しいことは多かったけど、距離を置くことでどれだけ相手のことを必要としているか、そして必要とされているかを確認できた。
悲しいことは多かったけど、この「壁」を超えたことでこの先紅薔薇姉妹はどんなことがあっても大丈夫だと確信できたと思うのです。
紅薔薇最強姉妹誕生の瞬間、みたいな。

■あとがきにもあるのですが
レイニーブルーは「雨傘」
パラソルは「日傘」
こういう書き分けをしてくれることが読者としても非常に分かりやすく、読後感も壮快なものにしてくれていると感じます。

祐巳の心の成長過程と、紅・黄・白のそれぞれの「絆」が出来上がるプロセスをここまで丁寧に描いてくれている。
だからこそ僕はこの2作が既刊シリーズの中で最も好きなシリーズだと思っています。

マリみて、既にライトノベルの域を越えていますよ、確実に。
#長文にお付き合い頂き感謝です。