5522の眼

ゆうぜんの電子日記、2021年版です。

六月は黴の月

2011-06-14 22:18:46 | 環境
「六月は黴の月である」とは、坪内稔典の「季語集」の夏の項。

嫌われる黴だが近代の俳人たちは好んでこれを素材として取り上げた。詩からは遠いかびに積極的に詩情をさがし、俳句の世界を広げようとしたとあって、山口誓子の以下の句が引用されている。

「としよりの 咀嚼つづくや 黴の家」

日本の私小説を確立させた徳田秋声の「黴」や口語自由詩の始まりは川路柳紅の「塵溜」からだと、かびに注目した作品を紹介して、久保田万太郎の句が続く。

「黴の宿 寝過ごすくせの つきにけり」

麹かびの働きで味噌や醤油が出来るのだし、ペニシリンやチーズもそうだから、一概に黴は厭うべきものでもないわけだが、「やはり黴には気をつけないと」と思わせるようなニュースがアメリカの新聞に載った。「ジョプリンの竜巻生き残りにこんどは毒黴の攻撃」というリードだ。

ミズーリ州の保健局の発表だと、竜巻被害に逢った地域の複数の病院ではジゴミコシス(zygomycosis)と呼ばれる真菌感染症(肺などの細胞壊死を起す)の発生が竜巻負傷者の中から少なくとも9例報告されており、普通なら快癒するはずの怪我から、すでに3~4名の死者を出しているというのだ。腕や脚に菌が留まった場合は患部切断で患者を救う余地はあるが、深く侵攻して脳が犯された場合は致命的になるのだそうだ。

保健局では、竜巻被災ゴミの片付け時には、毒性黴菌を媒介するゴミ類で手足を傷付けぬように充分注意せよという警告を発して住民に注意を喚起している。発症すると、発熱、頭痛、鼻腔炎、腫脹 などの症状が現れ、重症の場合は、神経障害、視覚障害、脳血栓、肺血栓などを併発し、死亡することもあるという。糖尿病の持病がある場合は特に注意が必要だ。

ここまで書けば当然のこと、東北大震災と津波の被災地はどうだろうかと心配になる。幸いニュース報道になる感染症の報告はないようだが、ひょっとすると病院内では、ミズーリと同じような症例の患者が見つかっているのかもしれない。アメリカのニュースには、2004年のインドネシア沖津波の折にも、同様のジゴミコシス症の発生があったと書かれているからだ。

延べ何万何十万という人々が復興作業に携わるのだろうから油断はならない。梅雨が過ぎれば暑い夏。適当な湿気と気温は黴菌の増殖には絶好の環境ではないか。これからも「ちょっとした擦り傷、切り傷」でも気をつけて治療することが大事だ。




















最新の画像もっと見る

コメントを投稿