5522の眼

ゆうぜんの電子日記、2021年版です。

雁、鴨、鴛鴦

2018-11-08 21:42:53 | 自然

「初雁の旅の空なる声きけばわが身をおきてあはれとぞ思ふ」

平安中期の女流歌人、中務の歌だが、これは古本屋の棚でみつけた丸谷才一の「新々百人一首」という文庫本の「秋の歌」に入っているものだ。もちろん「小倉百人一首」の向こうをはって選んだ百首の和歌集である。丸谷は藤原定家のつもりだったわけだ。

雁は渡り鳥だから旅の象徴であり、「旅の空」という成句さえできる。流浪の鳥と旅する人とは、鳥が人間の霊魂だという古代信仰によっていっそう密接に結びつけられた。旅が人生の比喩として働いているのは言うまでもない。歌人は「わが身をおきて」(自分のことは別にして)と言い添えることで、渡り鳥と旅人の二重写しを強調した。洗練の極地ともいうべき芸であろう。と丸谷は書いている。

我が家は、水場も近くにはなく緑もすくない住宅地のこと、渡り鳥が羽を休める場所なぞないから、雁の渡りを目撃することはないが、いまごろからは、寒さを避けてシベリア辺から渡ってくる雁の群れが北日本でなら観察できることだろう。

雁は鴨の仲間だが、鴛鴦もやはりカモの仲間だ。しばらく前のNYからのツイートに、セントラルパークの池に(東アジアが生息地でアメリカにはいない筈の)鴛鴦が一羽、羽を休めていて、その容姿の美しさがインスタグラムで広まるや、ニューヨーカーたちが一斉に池の周りでスマホを掲げるようになったとあった。

ところが、今日のツイートには、今やNYCのセレブとなったハンサムな鴛鴦が突然池からいなくなった。偶然、同じ日に(トランプに首にされて)いなくなったセッションズ司法長官の話題が霞んでしまうほどだと書いていある。いなくなった原因についてはツイートでいろいろと憶測が飛び交っているが、脚に環がはまっていたところからこの鴛鴦は野生ではなく飼い鳥だということらしいから、野生の渡りのように遠くへいってはいまいという。

折しも、ポーラーヴォルテックスと呼ばれる北極から吹き下る寒気団がアメリカ東部を襲うという天気予報が出ている。セントラルパークも気温マイナスの厳寒になるかもしれない。敏感に大気の冷化を感じ取った鴛鴦は、耐寒ができるところまで渡っていったというのが自分の推量だ。

ペアで生きるのが当たり前の鴛鴦も冬空に一羽だけというのでは切ない。わが身を置きてあわれとぞ思うのである。



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