Harumichi Yuasa's Blog

明治大学専門職大学院ガバナンス研究科(公共政策大学院)教授・湯淺墾道のウェブサイトです

公職選挙法の改正

2015年06月17日 | 選挙制度
 公職選挙法等の一部を改正する法律案が可決され、選挙権の年齢が18歳に引き下げられることになった。
 今回の改正では、国会議員の選挙権年齢の18歳引き下げだけではなく、地方自治体の長・地方議会の議員の選挙や、公職選挙法上の選挙ではない選挙(海区漁業調整委員会委員、農業委員会委員)の選挙権年齢も引き下げられた。
 また、選挙運動等にも関連するところがあるので、簡単に確認しておくことにする。

第一条 
公職選挙法(昭和二十五年法律第百号)の一部を次のように改正する。
第九条第一項及び第二項、第二十一条第一項、第三十条の四並びに第三十条の五第一項中「満二十年」を「満十八年」に改める。
第百三十七条の二の見出し中「未成年者」を「年齢満十八年未満の者」に改め、同条第一項中「満二十年」を「満十八年」に改め、同条第二項中「満二十年」を「満十八年」に改め、同項ただし書中「但し」を「ただし」に改める。

 この改正によって、引き下げられることになったのは、次の通り。

第9条第1項 日本国民で年齢満二十年以上の者は、衆議院議員及び参議院議員の選挙権を有する。 」
同 第2項 日本国民たる年齢満二十年以上の者で引き続き三箇月以上市町村の区域内に住所を有する者は、その属する地方公共団体の議会の議員及び長の選挙権を有する。
第21条第1項 選挙人名簿の登録は、当該市町村の区域内に住所を有する年齢満二十年以上の日本国民(第十一条第一項若しくは第二百五十二条又は政治資金規正法 (昭和二十三年法律第百九十四号)第二十八条 の規定により選挙権を有しない者を除く。)で、その者に係る登録市町村等(当該市町村及び消滅市町村(その区域の全部又は一部が廃置分合により当該市町村 の区域の全部又は一部となつた市町村であつて、当該廃置分合により消滅した市町村をいう。次項において同じ。)をいう。以下この項において同じ。)の住民 票が作成された日(他の市町村から登録市町村等の区域内に住所を移した者で住民基本台帳法 (昭和四十二年法律第八十一号)第二十二条 の規定により届出をしたものについては、当該届出をした日)から引き続き三箇月以上登録市町村等の住民基本台帳に記録されている者について行う。
第30条の4 在外選挙人名簿の登録は、在外選挙人名簿に登録されていない年齢満二十年以上の日本国民(第十一条第一項若しくは第二百五十二条又は政治資金規正法第二十八条 の規定により選挙権を有しない者を除く。次条第一項において同じ。)で、在外選挙人名簿の登録の申請に関しその者の住所を管轄する領事官(領事官の職務を 行う大使館若しくは公使館の長又はその事務を代理する者を含む。以下同じ。)の管轄区域(在外選挙人名簿の登録の申請に関する領事官の管轄区域として総務 省令・外務省令で定める区域をいう。同条第一項 及び第三項 において同じ。)内に引き続き三箇月以上住所を有するものについて行う。
第30条の5 第三十条の五  在外選挙人名簿に登録されていない年齢満二十年以上の日本国民で、在外選挙人名簿の登録の申請に関しその者の住所を管轄する領事官の管轄区域内に住所を 有するものは、政令で定めるところにより、文書で、最終住所の所在地の市町村の選挙管理委員会(その者が、いずれの市町村の住民基本台帳にも記録されたこ とがない者である場合には、申請の時におけるその者の本籍地の市町村の選挙管理委員会)に在外選挙人名簿の登録の申請をすることができる。


 以上の通り、衆議院議員選挙と参議院議員選挙については、在外選挙の分も含めて、選挙権年齢が18歳に引き下げられた。
 なお、最高裁判所裁判官の国民審査についても、最高裁判所裁判官国民審査法第4条が「衆議院議員の選挙権を有する者は、審査権を有する。 」と規定しているから、今回の公職選挙法の改正によって、連動して引き下げられることになる。

 次に、第137条の選挙運動の年齢に関する規定も、今回の改正法によって改められることになる。第137条は次の通り。

第137条の2 年齢満二十年未満の者は、選挙運動をすることができない。
2  何人も、年齢満二十年未満の者を使用して選挙運動をすることができない。但し、選挙運動のための労務に使用する場合は、この限りでない。


 今回の改正の重要なポイントは、選挙権だけではなく、選挙運動を行ってよい年齢も引き下げられたことである。
 従来、選挙運動は20歳以上の者だけが行ってよいこととされており、違反した場合には、未成年者にもかかわらず本人に刑事罰が課せられることになっていた。このため、同じ大学生でも、選挙運動を行ってよい学生と行ってはいけない学生が混在しており、選挙事務所に大学生がアルバイトに行き、未成年の大学生だけが公職選挙法違反で検挙されるという場合もあった。
 またインターネット選挙運動についても、未成年者は行うことができないとされていた。
 今回の改正によって、少なくとも大学生については、飛び級で18歳にならないうちに大学に入学したというようなケースを除いて、1年生から選挙運動を行うことができるようになったわけである。

 (地方自治法の一部改正)

第二条 地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)の一部を次のように改正する。
第十八条中「満二十年」を「満十八年」に改める。


 この改正によって、引き下げられることになったのは、次の通り。

第18条  日本国民たる年齢満二十年以上の者で引き続き三箇月以上市町村の区域内に住所を有するものは、別に法律の定めるところにより、その属する普通地方公共団体の議会の議員及び長の選挙権を有する。


 これによって、地方自治体の長・地方議会の議員の選挙の選挙権も、18歳に引き下げられた。
 
 (漁業法の一部改正)

第三条 漁業法(昭和二十四年法律第二百六十七号)の一部を次のように改正する。
第八十七条第一項中「左の各号の一」を「次の各号のいずれか」に改め、同項第一号中「二十年」を「年齢満十八年」に改める。


 この改正によって、引き下げられることになったのは、次の通り。

第87条第1項 左の各号の一に該当する者は、選挙権及び被選挙権を有しない。
一  二十年未満の者
二  公職選挙法 (昭和二十五年法律第百号)第十一条第一項 (選挙権及び被選挙権を有しない者)に規定する者


 これによって、海区漁業調整委員会委員の選挙の選挙権が18歳に引き下げられた。

 (農業委員会等に関する法律の一部改正)
第四条 農業委員会等に関する法律(昭和二十六年法律第八十八号)の一部を次のように改正する。
第八条第一項中「二十年」を「満十八年」に改める。


 この改正によって、引き下げられることになったのは、次の通り。

第8条第1項 農業委員会の区域内に住所を有する次に掲げる者で年齢二十年以上のものは、当該農業委員会の選挙による委員の選挙権及び被選挙権を有する。


 これによって、農業委員会の選挙の選挙権が18歳に引き下げられた。
 従来、公職選挙法によらない選挙については、ほとんど一般の関心が向けられることがなかったと思われるが、農業従事者などが高齢化する中で、海区漁業調整委員会委員、農業委員会委員の選挙の選挙権も同時に引き下げられることになったわけである。

 なお、各地で制定されている自治基本条例や住民投票条例の中には、投票権を公職選挙法の選挙権と同じように20歳としているものがある。住民投票については選挙権年齢を18歳や16歳に設定している例もあるが、20歳としている自治体は、公職選挙法の選挙権年齢に歩調を揃えたものと解される。このため、今後、年齢要件を改正するべきかどうかが論点となってくるであろう。

 また、大学入学に伴って転居したのに、住民票を移していない学生をどうするかという問題が浮上することも予想される。
 京都のように大学が多いところでは、住民基本台帳上の若者の人口よりも、国勢調査上の若者の人口のほうが多いという。住民票を移していない学生が多いためであると推測される。この問題の背景には、住民票を移してしまうと郷里で幼なじみと一緒に成人式を迎えることができなくなるという誤解があるためともいわれているが、生活の実態が郷里にはないのに、選挙の時にだけぞろぞろと大学生が郷里に戻って投票を済ませるというのも奇妙な話である。生活の実態がどこにあるのかという問題は、被選挙権との関係で話題になったり訴訟沙汰になったりすることが多いが、今後は選挙権をめぐって再燃する可能性がある。
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