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ロバート.P.パーカー著 スペンサーシリーズ第1作「ゴッドウルフの行方」

2021年02月14日 | 斜読

book525 ゴッドウルフの行方 ロバート・B・パーカー ハヤカワ文庫 1986   斜読 海外の作家一覧>  
 図書館でたまたま手にしたR.P.パーカー(1932-2010)著2003年出版の「真相」(book524)は、私立探偵スペンサーが積極的な行動で真相を解き明かし、思い切った戦術で解決する展開だった。
 スペンサーシリーズ第1作は1973年出版の「ゴッドウルフの行方」で、スペンサーシリーズは著者没までに40作も出版されているから、第1作から好評だったことがうかがえる。
 第1作は「真相」より30年前の出版、パーカーは41歳ぐらい、主人公スペンサーは37歳の設定、著者も主人公も血気盛ん、働き盛りだから、第1作ではスペンサーはどんな活躍をしたのか興味を持ち、「ゴッドウルフの行方」を読んだ。
 原題のThe Godwulf Manuscriptはゲルマン神話を描いた彩飾写本を意味するらしい。彩飾写本は海外の教会博物館で何度か見たことがある。壮麗な体裁で、風格のある文字で手書きされ、彩色の図版が挿入されていた。ゴッドウルフ写本は、p9・・14世紀の貴重な彩飾写本、p10・・ラテン語で書かれ、p11・・歴史的、文学的価値しかない、そうだ。
 その写本が大学の図書館稀覯書室から盗まれ、大学内組織代表者と名乗る者から10万ドルが要求された。その写本探しがスペンサーに依頼され、物語が始まる。

 「真相」では数ページずつで区切られた65節のシーンが展開したが、「ゴッドウルフ」では10ページ前後の複数のシーンが含まれた25節で構成されている。「真相」は会話形式を主体に物語が展開したが、「ゴッドウルフ」は会話を主体にしながらスペンサーの心理や行動の描写が少なくない。30年・30作のあいだに、読み手を楽しませる物語構成が工夫されたようだ。
 「真相」、「ゴッドウルフ」ともに建物デザイン、室内の調度、登場人物の服装や体型、街や通りの様子、レストランやカフェなどが、細かに描写されている。パーカーの観察眼は鋭い。
 舞台はボストンで、私は訪ねたことがないが、本を読むだけで街の雰囲気、人々の階層、暮らしぶりが想像できる。
 どちらにもギャング、麻薬、ヒッピー、銃器、自由な男女関係が描かれている。パーカーは現実の社会を忠実に描こうとしたようだ。

 大学警備主任タワーは、容疑者は極左的革命主義組織SCACEとにらんでいて、組織の書記はテリイ・オーチャドで、テリイは以前友人のキャザリン・コネリイと一緒に住んでいたが、いまはSCACEの役員デニス・パウエルと同棲している、とスペンサーに話す。
 スペンサーはテリイの授業の終わったあと、パブで話しを聞く。
 その日の深夜、テリイから助けを求める電話があり、スペンサーがアパートに駆けつけるとデニスが銃で殺されていた。薬を飲まされていたテリイは、2人組がテリイの銃でデニスを撃ったあと、テリイに銃を握らせデニスを撃たせた、と話す。スペンサーはプロの仕業と直感する。

 スペンサーからの連絡で、ボストン市警察殺人課長マーティン・クワーク警部補・・「真相」では警部に昇進していた・・、ベルソン刑事部長たちが到着する。ベルソンはクワークに、スペンサーはサフォク郡地方検事の下で働いていたがくびになったと話す・・あとでスペンサーの命令不服従が原因と分かる・・。
 警察の事情聴取でテリイはデニスと教授の誰かが写本の盗難に関係しているらしい、と話す。・・写本盗難で殺される?、まだ事件が見えない。

 スペンサーにテリイの父で会社経営のロゥランド・オーチャドから電話があり、金持ちが住む住宅街の屋敷に向かう。マリオン夫人が迎える。ロゥランドはスペンサーに真相の捜査を依頼する。
 スペンサーは、仮釈放されたテリイからチョーサーの講義のある月曜の朝、デニスが電話で相手に休講したらいい、おれは必ずやる、と話していたこと、デニスはSCACEの政治顧問マーク・ティパーと仲がよかったことを聞く。
 
 スペンサーは、デニスと同じ部屋に2年住んでいたマークのアパートを訪ねる。マークはとぼけて何も知らないと言う。スペンサーは腕ずくで聞くのは後回しにして引き下がる。
 次に、学生新聞編集者アイリス・ミルフォドに会い、SCACEは麻薬売買の噂があること、変わり者の英文学教授ロゥエル・ヘイドンがチョーサーを教えていたことなどを知る。
 家に戻ったスペンサーはこれまでの捜査を整理し、作業仮説を立てる。
 ・・スペンサーは向こう見ずで荒っぽいが、疑問を一つ一つ訪ね歩き、点と点をつなぐ糸を推理しようとする。そうした展開が読み手に共感を覚えさせるようだ。料理も得意そうで、しばしば手料理を楽しんでいる。これも読み手に親しみを感じさせる。

 スペンサーは、直接ヘイドンに会ってテリイ、デニス、写本を話題にするが手がかりはつかめない。
 オフィスに戻ると、ギャングのジョウ・ブロズの手下であるソニイとフィルが待ち構えていて、ブロズのオフィスに連れて行かれる。ソニイがスペンサーを痛めつけようとするが、スペンサーは逆にフック2発、ジャブ3発で倒す。
 ブロズは、写本から手を引けと脅し、写本は戻っていると話す。
 スペンサーがオフィスに戻り、誰がブロズに連絡したのか、そもそもギャングが写本を盗むはずがない、SCACEの麻薬とギャングはつながりそうだが写本は?などを推理していると、マリオン夫人からテリイがいなくなったと電話がかかる。
 スペンサーはオーチャドの屋敷に向かう。部屋着の夫人の誘惑に乗り関係をもったあと、テリイはモレクの儀式のグループにいることを夫人から聞く。・・夫人はスペンサーを誘惑したかったようだ。

 翌日、スペンサーはモレクの儀式のグループのアパートに向かい、全裸で縛られたテリイを救い出す。スペンサーの部屋で元気を取り戻したテリイはスペンサーがもっとも信頼できると言いながら、愛してとしがみついてくる。・・テリイには信頼できる家族、友人がいなかったようだ。アメリカ上流社会の断片であろう。・・母の次に娘と関係する第1作のスペンサーは、独身で37歳のせいか奔放である。これもアメリカ社会の断片か?。

 スペンサーはキャザリン・コネリイのアパートを訪ねる、呼び鈴に応答がない。
 オフィスに戻るとクワーク警部補が待ち構えていて、上からの圧力でクワークは事件から外され、直接指揮を執ることになったイエイツ警部がテリイを犯人と断定したこと、写本が戻ったことを伝える。・・スペンサーは市民を守るには上からの圧力に屈するのではなく事実を積み重ねることと話し、クワークは賛同し、証拠が必要と応える。
 ・・「真相」でもクワークが担当を外され、スペンサーが事件解明に奔走した。パターンは似ている。・・圧力で担当を外されるのもアメリカ社会の断片らしい。

 スペンサーはキャザリンのアパートの裏口から侵入する。キャザリンの部屋のドアを蹴破ると、キャザリンは頭から血を流し、浴槽で死んでいた。不自然なことが多すぎるとスペンサーは駆けつけたクワーク、イエイツ、ベルソンに話すが、イエイツは事故死と断定する。
 夜になってスペンサーはキャザリンの部屋に忍び込み、タンスの引き出しからモーテルの便せんを使った「愛する君よ・・君はクラスを休んでも欠席にしない・・」と書かれた手紙を見つける。
 手紙にはサインがないが、筆跡を調べるとヘイドンと一致した。

 ヘイドンの家を訪ねると、夫人のジュディ・ヘイドンがスペンサーを冷たく追い返す。
 家の外で見張っていると、ヘイドンが出てきて、「おまえを殺させてやる」と脅す。・・ブロズのことか?。ブロズとヘイドンをつなぐのは何か?。
 スペンサーはマークを訪ね、力尽くで話しを聞く。・・ヘイドンとデニス、写本がつながる・・。
 スペンサーは連日ヘイドンを見張っていて、男2人がヘイドンの車に乗り込むのを見つけ、尾行する。2人がヘイドンに銃を突きつけたので助けようとしてスペンサーは撃たれるが、二人の男を倒す。
 スペンサーは重傷を負って病院に運ばれたが抜けだし、ヘイドンの家に行く。ヒステリー状態のヘイドン夫人を説得し、ヘイドンの隠れているホテルに向かう。
 この先で私の予想しなかった結末になり、事件の全容が判明する。
 パーカーが仕掛けた結末は読んでのお楽しみに。

 著者パーカーは大学で英文学博士を取得していて、たぶん彩飾写本に詳しかったのではないだろうか。偏執狂気味の英文学教授や彩飾写本の盗難、ボストンの街の細かな描写はパーカーの体験から構想されたと思える。
 スペンサーの積極的な疑問解明の行動が積み重なり、点と点が結びついて事件が解決される展開は読み手を十分に楽しませる。スペンサーシリーズ40作まで続いたのも納得できる。ただ「真相」が出版されたのは30年後、単純計算ではスペンサーは67歳になるが、「真相」のスペンサーは40代、50代に感じる。パーカーは活躍しやすい年代を設定したようだ。  (2021.2)

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