goo

会議の思い出

 現在の私の半ばフリーの仕事の形態だと、会議というものに出席する機会が少ない。サラリーマン100%で働いていた頃は大小様々な会議があったし、特に運用の仕事をしているときには会議が多かった。他方、商社マン(財務部)の頃は、私がまだ若手(20代前半)で議事に関係ないということもあったと思うが、会議がそれほど多かったという記憶は無い。

 今振り返っても、運用会社の会議の多さは異様だった。会議でもやっていないと仕事の体をなさないからだが、会議中は新しい情報にも接しないし、運用方法の研究も進まないので、運用の仕事そのものにとっては会議の時間は邪魔だった。しかし、サラリーマンとしては、会議の場が仕事の発表の場になるので、大きな会議のリハーサル用のサブ会議が設けられるようなこともあって、連日何らかの会議があるのだった。また、会議がないと寂しい(仕事をしていることにならない)人がいて、社内の会議が無い場合には、証券会社のアナリストを呼んだりして何らかの会議をセッティングするのが常態だった。出ても意味がないと思う会議でも、若手社員の間は「勉強だ」と言われて出ることになるし(本当は勉強の邪魔なのだが)、転職で入社するとしばらくの間はその会社のやり方を尊重する態度を取る必要があるので、これまた出席することになる。そしてベテラン社員になる頃にはすっかり会議慣れしているということなのだろう。
 これは外資系の運用会社でも同様で、かつて勤めたイギリス系の運用会社の本社を出張で訪ねた時も連日会議があって閉口した。「私は日本の運用会社のムダな会議が嫌いで、外資系の会社に転職したのに、これではガッカリだ」と教育係のイギリス人に感想を漏らしたところ「ワハハ。ミスター、ヤマザキ、それは残念だねえ。我々はミーティングが大好きなんだよ。君が慣れるしかないよ」と言われた。もっとも、このイギリス人(骨董屋の息子で「サッカーは下層階級のスポーツなので職場では話題にしない方がいい」と教えてくれるような人だった)も、会議中には手もとの書類の余白に抽象的な模様のような絵を描いて時間を潰しているのだった。
 雑誌のコラムなどで書いたことがあるが、運用会社は「良い運用利回り」(≒現世利益)を直接売ることが出来ずに、「無形の期待」(ex.長期投資の成功≒来世の幸福?)を売らざるを得ない商売なので、ビジネス・モデルとしては宗教に似ている。宗教団体に各種の儀式が必要なように、運用会社にも会議が必要なのだ。

 時間の無駄を給料で我慢するとしても、私の場合困ったことに、カラダ自体が、退屈して、発言せずに、背中が15分間温かくなると眠くなるように設計製造されているようで、特に若い頃は多くの会議で居眠りして怒られた。
 いったん眠ると眠りは深いことが多いし、会議に全然関係ない夢を見ることもあった。オーバー・ヘッド・プロジェクター(昔の場合)やパワーポイント(近年)を使ったプレゼンテーションが入る会議は室内の照明を落とすので特に眠りやすい。悪いことにイビキが出ることがよくあって、放っておく訳にもいかなかったことが多々あったようだ(こちらは熟睡しているので正確な状況が分からない)。
 さて、眠気と時間の無駄の両方に対する対策をどうしたか。
 正統派の対策は、何といっても、つまらない話でも何か自分で発言することだ。すると、カラダが(精神が?)受動的な状態から能動的な状態に切り替わって、その後30分くらいは目が覚める。とはいえ、延々とプレゼンテーションが続く会議の場合には、この手が使えない。
 かつてよく使った手は、将棋を考えることだった。会議のある日は「詰め将棋パラダイス」の1ページをコピーして資料の間にはさむことが多かった。「中学校」(9・11手詰)、「高等学校」(13~17手詰)あたりの問題を数題用意しておくと時間が潰れた。問題を一題ずつ見て記憶して、頭の中で解く。これは、将棋のトレーニングとしてもいいはずで、運用会社に長くいたら、私はもっと将棋が強くなったかも知れない。
 頭の中で将棋を指す、ということも良くやった。角道を開けて、飛車先を突いて、・・・、と頭の中で局面を考えていく。ただ、これは、会議の内容などに気が散ると持ち駒の数などが分からなくなるので、私くらいの棋力(アマ4段くらい)だと幾らかキャパシティーが不足する。それに、自分同士で戦っているので、形勢に差が付くと直ぐに諦めて投了してしまう。詰みまで指すことはあまり多くなかったように記憶している。
 別の対策しては、会議に関係のない「読み物」を持ち込むことがあった。英文の記事や短い論文をコピーして会議に持ち込む。英文にするのは、少ない枚数で長持ちする(←ちょっと情けないが)のと、他人が見ても何を読んでいるか直ぐには分からないからだ。今やるなら、Economist誌のホームページ辺りから面白そうな記事をコピーして持ち込むことになるか。会議や時間待ちの多いサラリーマンは、A4で二、三枚くらいの記事のコピーを常に持ち歩くと便利なことがある。この場合、裏面にメモを書けると便利なことがあるので、両面印刷にはせずに片面に印刷する方がいい。会議中に手元を注目された場合にも、紙を裏返してメモを書けばいい。
 最近だと携帯電話をいじって暇を潰す人が多そうだが、これはいかにも会議に気が向いていない感じに見えるので、いい手とは思えない。会議の進行役は、会議の開始前に「携帯はマナーモードに。また、会議中は携帯電話に触らないでください」と宣言するといいだろう。

 会議の方法については、本が多数出ているが、最近会議が少ないこともあって私はあまり興味を持っていない。敢えてコツをまとめると、(1)会議はできるかぎりやらない、(2)会議の目的を決めて事前に確認し、最小限の時間で結論を得るように努力する、(3)「エライ人」の飛び込み発言や意見になっていない「感想」の発言を許さない、ということだろうかと思うが、サラリーマンの会議の目的は「エライ人」を気持ちよくさせることだったり、皆が平等に時間を潰すことだったりするので、表面上効率的なのがいい会議とも限らない。

 冒頭に書いた通り私の現在の働き方だと会議の出席機会が少ない。楽天証券は非常勤だし、私は政府の審議会にたくさん呼ばれるようなタイプではない。この状況は、フリー的な働き方の大きなメリットの一つだと大筋では思うのだが、たまには会議が懐かしくなることもある。比率でいうと、85%は会議が無くて嬉しいが、15%はちょっと寂しい。張り合いのある会議があれば出てみたい、といった都合のいい事を時々は思う。何とも勝手なものだ。
コメント ( 23 ) | Trackback ( 0 )
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする