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毒入り餃子事件の情報を隠蔽した日本政府

 8月6日、「読売新聞」(朝刊)は、中国生冷凍餃子中毒事件で、製造元の「天洋食品」(中国河北省石家荘)が「事件後に中国国内で回収した餃子が流通し、この餃子を食べた中国人が有機リン系殺虫剤メタミドホスによる中毒被害を起こして、重大な健康被害が出ていたことが分かった」と一面トップで報じた。朝刊時点では他紙にはないニュースなので、読売新聞の「抜き」である。
 これまで、日中両国の警察当局が自国内でのメタミドホス混入を否定してきたが、中国で混入があった可能性が高まった。
 回収した餃子が再び国内で流通して人間の口に入るところに、現在の中国の底知れない奥の深さ(とでも言っておこう)を感じるが、この点は、現状ではこんな国なのだろうと思うしかない。北京オリンピック観戦で中国に行く人は、食べ物に気を付けるべきだ。

 問題は、この情報の伝達プロセスだ。
 読売の記事を引用すると「関係筋によると、中国側は7月初め、北海道洞爺湖サミット(主要国首脳会議)の直前に、外交ルートを通じて、日本側にこの新事実を通告、中国での混入の可能性を示唆したという」ということだから、洞爺湖サミットの前にこの事実は日本政府に伝わっていた。日本政府はこの情報をなぜ国民に発表しなかったのだろうか。

 考えられる理由はいくつかある。
(1)洞爺湖サミットを前に中国に気を遣った
(2)北京オリンピックに気を遣った
(3)捜査上の守秘の必要性

 政府の対応として国民が納得できる可能性が多少なりともあるのは(3)だけだろう。
 福田首相は「わが国の捜査当局と情報交換している状況だ。どういう状況か今申し上げるわけにはいかない」(「毎日新聞」6日夕刊)と述べた。あるいは、「朝日新聞」(6日夕刊も)は政府高官(たぶん町村官房長官?)の談話として、公表しなかった理由を「まだ中国の捜査当局が捜査している」と報じた。
 政府に最大限好意的に推測した場合、日中の捜査当局が情報交換しているが、日本で情報を公開すると中国国内での捜査に影響を与えるので、これまで情報を伏せてきた、という理屈だろうか。
 しかし、そもそも中国国内で中毒症状を起こした人がいて、犯人がこれを知らないということは考えにくい。捜査に影響する、ということの状況が納得しにくい。また、仮に本当に捜査上、日本国内で情報を秘する必要があるなら、今の時点で新聞社に抜かれることは、日本政府の情報管理上大きな失態だ。
 もちろん、(1)、(2)は理由として話にならない。(1)は中国に対してあまりに気を遣いすぎだし、(2)で中国に対する気遣いに加えてオリンピックの商売に水を差してはいけないと思っていたのだとしても、物事の重要性からいって、国民に対して早急に情報を公開すべきだった。
 また、(1)や(2)が重要なら、そもそも中国当局が日本政府に情報を伝える時期を後送りしそうなものだが、中国政府は、案外(?)真面目に情報を伝えてきた。日本政府の方が情報を隠蔽するのはなぜなのか。

 「読売新聞」は取材源を明かさないだろうが、この種の報道を読む常道として、政府からのリークの可能性を疑う必要がある。仮に政府のリークであるとした場合に考えられる意図の可能性は、(A)日本人ジャーナリストへの中国警官の暴行事件への意趣返し、(B)中国で日本人観光客が食中毒などの被害に遭った場合に情報隠蔽の責任が重くなることを恐れた事前の情報リークなどがあろう。リークとした場合、8日からの北京オリンピック報道でこのニュースの印象が霞む時期を狙った、ということもあり得るだろう。
 もちろん、役人や政治家の裁量で(A)のような駆け引きを行うのは行き過ぎだし、この情報をそのように使うことは適切でない。もちろん、(B)の意図のリークも公僕失格だ。

 この事件に関しては、中国製食品や中国政府の気持ちの悪さもさることながら、日本政府の対応が何とも不自然で納得しがたい。不適切な情報隠蔽又は情報管理の何れかがなかったかどうかについて物事の経緯と政府の対応について質す必要があろう。経緯によっては閣僚級の責任問題ということもあるだろう。もっとも、町村官房長官が引責辞任した場合、福田内閣の人気と支持率が上昇する可能性もあるから、民主党としては、痛し痒しかも知れない。
 残念ながら、今は国会が開かれていないが、次の臨時国会で、野党は政府を追及すべきだろう。日本国民の生活にとっては、オリンピックの競技などよりも遙かに重大な問題なので、メディアもこの問題を真面目に追って欲しい。

<続報>
 その後、7日に高村外相が、「情報提供者が公表しないでほしいと言っている以上、公表しない。捜査のことだからということにも一定の合理性がある」(時事ドットコム。http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2008080700688&m=rss#header)と述べて、公表しないよう中国側から要請があったことを明らかにした、という報道があった。
 これは、中国政府の意向への配慮だから、実質的には上記の(1)、(2)に近いが、この場合も、このような重要情報を日本政府が隠蔽していて良かったのかどうか、本当に捜査上の問題があるなら情報が公開されたことに情報管理上の問題はないのか(今ならどうしていいのかな?)、あるいは中国政府から今になってOKが出たのか、という点が不明だ。
 高村外相は中国が情報を提供したことに「われわれとしては一定の評価をした」とも述べているが、いかにも弱腰であると同時に、現状は中途半端だ。
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