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恋人に薦める生命保険とは何だ?

 ネット専業生命保険の第2号として、ライフネット生命が5月18日の日曜日に開業した。この会社については、ダイヤモンド・オンラインの連載で割合詳しく(且つ、好意的に)紹介した(http://diamond.jp/series/yamazaki/10031/)。拙稿の要点は、ネットを使って生命保険の流通コストを省こうというビジネス・プランは正攻法で筋がいいということと、この会社の商品の付加保険料の安さ(24日の「朝日新聞」土曜版beに載った岩瀬大輔副社長の言によると、15%が基準だという)は好ましいということの二点だった。何れも、わが国の生命保険会社の商品のバカ高い付加保険料を攻撃対象としている点で大いに共感できる。サクサク計算できる保険料見積もりのツールは楽しいし、ホームページの出来もいいので、お時間のある方は、是非、この会社のホームページを見てみて欲しい(http://www.lifenet-seimei.co.jp/plan/index.html)。

 今回は、この会社の「スター」の一人である、岩瀬大輔氏の発言をからかってみたい。ライフネット生命のホームページに経営陣からのメッセージと称するコーナーがあり、ここに副社長である岩瀬氏のコメントが載っている。「自分の恋人に、自信を持って薦められる生命保険を作る」というタイトルが付いている。
 伝説の秀才の顔が拝めることでもあり、是非直接見てみて欲しいが、主なメッセージを引用する。

<引用はじめ>======================
社長の出口と二人の間で合言葉にしてきたことがあります。

「自分の恋人や友人など、親しい人に、自信を持って薦められる保険しか作らない、売らない」

恋人にも保険を売るの?と、笑われてしまうかも知れませんが、せっかく新しい金融機関を立ち上げる機会に恵まれたのであるから、多くの方々に喜んでもらえる生命保険サービスとは何か、これまでの業界の常識にとらわれることなく、とことん追求してみよう。背後にあるのは、そんな想いです。
======================<引用おわり>

 「恋人にも保険を売るの?と、笑われてしまうかも」と、ご自分でもツッコミを入れておられるが、恋人に生命保険を薦めるというシチュエーションは、やはりおかしくないか。
 それは、保険を勧める以上、別れることが前提になってしまうからだ。
 ライフネット生命の商品は、死亡保障定期保険「かぞくへの保険」と終身の医療保険「じぶんへの保険」の二つだけだ。共に特約が一切付いていない爽やかな商品だ。同社によると、これに自分でする貯蓄を組み合わせると、リスクへの経済的備えは十分なのだという。
 死亡保障の「かぞくへの保険」を恋人に薦めるというということはどういうことか。一般的には、本人が経済的に養っている家族のために保険を掛けるのだろうから、これは、「キミの将来の配偶者と子供達のために、ボクは心からウチの会社の保険をお薦めします」というメッセージになるだろう。つまり、ボクとキミが結婚するなどして、それこそ「終身」で一緒にいるという状況は想定していないことになる。
 男女共稼ぎで、お互いがお互いを養うという家計も前提として想定できなくもないが、岩瀬氏ほど有能な人なら「ボクが稼いでキミを幸せにする」という文脈が自然だろうし、保険については「ボクは、キミを守るために生命保険に入るよ」という話になるだろう。
 終身の医療保険である「じぶんへの保険」を薦めるのならどうか。この場合、自然なメッセージは「人生は長いし、いろいろなことがあるから、自分のことは自分で面倒を見られるように、ウチの会社の医療保険に入っておくといいよ」ということになるだろう。まあ、親切に聞こえるかも知れないが、「キミの医療費は終生ボクが何とかするよ」という話ではないので、恋人を突き放した感じの冷たさがある。元恋人の側では、岩瀬氏と別れた後も、一生保険料を払い続けるのだ。まあ、本当に病気になって、感謝する事があるかも知れないが。

 上記のツッコミには、いろいろな反論が考えられるし、結論を争う気はないのだが、恋人に保険を売るという状況は、やっぱり妙だ、と私は思う。

 しかし、すました顔で写真に写り、「恋人に・・・」というタイトルをキャッチにすることが有効だと考えた岩瀬氏の世の人々(特に女性たち)に向けた自意識と、上記のツッコミが正しいとした場合の「恋人との関係は一時的だ」という人生行動原理が、その通り彼のものだとすると、ベンチャー・ウォッチ的には、ライフネット生命保険社の将来は明るい。
 良し悪しの問題ではなく、圧倒的な事実として、成功したベンチャーの経営者(男の場合)は、並はずれた女好きである。女性に対する支配欲と自己顕示欲が、会社を経営することや世間へのアピールと通底しているのかも知れないし、資本の増殖と子孫の繁栄が本能のレベルで近くにあるのかも知れない。或いは、ベンチャーで成功する過程で、もとから持っていた性欲が拡大・開花されるといった逆の因果関係なのかも知れないが、岩瀬氏が多忙な仕事と大切な家庭への献身をこなしつつ、それでも恋人を探し、相手に情熱を傾ける、というような人であり、それができるエネルギーを維持していくなら、この会社は大いに成長するに違いない。

 まあ、生命保険の経営者が、恐妻組合の会員では仕方がない。

<補足> 岩瀬大輔氏のこと

 岩瀬氏については、たとえば24日の「朝日新聞」朝刊のbe土曜版が2ページを割いた特集を組んでいるので、朝日新聞をお読みの方は読んでみていただきたい。彼には、「ハーバードMBA留学記」(日経BP社)という著書もある。
 私が最初に彼に会ったのは、マネックス証券(正確にはマネックス・ユニバーシティー)の内藤忍氏の紹介で、彼がネットの生命保険のビジネスプランについて話をしに訪ねてきた時だった。在学中に司法試験に受かり、ハーバードBSで日本人で4人目の上位5%成績獲得者という有名な若き秀才だけあって、話が速くて的確で実に気持ち良かったことを覚えている。こういう人とだけ話していると、こちらも少し賢くなれるよう気になる(錯覚だろうし、もう手遅れだろうが)。
 そういえば、ダイヤモンド・オンラインの拙稿では、ライフネット生命を随分褒めたが、同社の筆頭株主はマネックス・ビーンズ・ホールディングであった(但し、出資比率は18.54%であり大きくない。ライフネット生命は「独立系」である)。考えてみると、楽天証券でないのが残念だが、まあ、いいものはいいので、良しとしよう。
 雑誌「type」のキャリア・デザインセンターが選ぶ「キャリアデザイン大賞」の授賞式でも彼にお会いした。私は僭越にも審査員の一人で、選考会では彼を強く押したのだが、大賞にはならなかった。「能力のありすぎ」がたたって、大きなチャレンジが大きなものに見えにくく、また一般人にあてはまる「ロールモデル性」がやや乏しいという具合に、彼の「出来すぎ」が賞の選考に不利に働いた面があった(もっとも、今年は対抗馬の上位二名が大変強力でもあった)。「能力(差)」をもっと有利かつ安全に使おうとする人が多い中で、ベンチャーで失敗経験があったり、起業を試みたりする彼の生き方には、私は大いに感心するのだが、一般受けはしない面があるのかも知れない。
 キャリア・デザイン的には、彼は、「能力」の形で保険を持って、リスクに挑み、彼の価値の達成過程を楽しんでいると解釈できる。確かに、誰にでも出来るということではないが、お金や資産の形で余裕を蓄える人もいれば、人脈(家柄も込みで)をセーフティーネットにする人いるし、能力の形で余裕を持つというのも一つの方法だ。
 何れにせよ、何らかの「余裕」を持つ頃には、リスクを取ろうという気持ちがすっかり萎えている人が少なくないので、岩瀬氏のような人は応援したい。
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