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時計と時間と私の合理性

 4月から朝型(といっても通常人の普通型です)に変えて、1月が経過した。何とか継続できているのは、家族のおかげだが、正直なところ、まだ、調子が出ない。ものの本によると(たとえば、築山節「脳が冴える15の習慣」NHK新書)、午前中から仕事をする方が調子がいいはずなのだが、原稿を書いても、本や資料を読んでも、午前中、もっと言えば、日の高い間は能率が上がらない。眠い、というわけではないのだが、昼間は、空気の分子がわさわさ動いているような感じがして、落ち着かない。気がつくと、時間だけが進んでいる。
 もっとも、意識的な生活リズムとして夜型を30年くらい続けてきたわけだから、急に昼間の人になるのは、無理なのだろう。焦るまい。
 時間については、実は、もう一つ悩みがあった。時間が非常に重要な仕事(講演やテレビなど)は事前に余裕を持たせるので遅れないが、取材を受けるといった、5分、10分遅れても、その場では困らない仕事で、しばしばアポイントメントに数分遅れるのだ(取材にお見えになった皆様、「まことに、申し訳ありません!」)。決して時間を軽視している積もりはないし、地下鉄の乗り継ぎでは半ば走るし、「すみません・・・」と謝りもするのだが、約束の時間に遅れていいはずがない。特に、私のように、個人商店的な仕事をしている場合、個人的な信用の上で時間厳守は重要だし、時間に遅れて、相手を軽視しているような印象を与えることは、非常に拙い。
 待ち合わせの時間に遅れる理由を分析すると、出がけに思ったよりも時間を喰ってその遅れが取り返せないことが多く、交通機関の乗り継ぎ不具合等の外生要因を大きく上回っている。出がけに、メールの返事を余計に一本書いて、慌てて出ようとして、会社のIDカードを忘れて、玄関からもう一度部屋に戻って、出かけたら、計算上のリミットから5分遅れていた、というような状況が典型的だ。意地汚くメールなど書かずに、半強制的に、間に合う時刻には家を出るといいのに、と思うのだが、命令し、監視するのが、自分とあっては、なかなか上手く行かない。
 そこで、原始的だが、時計の針を5分進めてみることにした。具体的には、腕時計と、机上に置いている時計の二つの針を5分進めてみることにした。デジタル電波時計の目覚まし時計も机上にあって、この時計をベースに、他の時計の針を合わせていたのだが、こいつは、「あっち向いてホイ」のように、右か、左を向けて、時刻が直ぐには見えないような方向に置くことにした。
 まだ3週間ほどしか経っていないが、効果は現れている。「しまった、行かなくては!」と思ってから出かけても、待ち合わせ時間ピッタリに目的地に着くケースが、明らかに増えた。また、デジタル時計の文字盤を見えない方向に向けたことも良かったようだ。これまでは、原稿書きをしていても、時計を見るともなく見ていて、11時11分11秒とか12時34分56秒ような時刻になる瞬間を見て喜んだりして、ただでさえ不足気味の脳力リソースを、余計に事に使っていたことが分かった。何と馬鹿な!
 しかし、思い出してみると、「時計の針を○分進める」という行為は、私が、非合理的な行動として、大いに軽蔑していたやり方だった。真実を隠して、しかも、隠したことを知っていて、何になるというのだ。本人は正しい時刻の計算方法を知っているのだから、時計の針をずらしても、何の意味もなかろうし、意味があるとすれば、それは、その人物が非合理的であり、且つ自分をコントロールする意志が弱いということに、外ならない、と思っていた。
 この意見は、今も変わっていない。つまり、私は、非合理的で、意志が弱いのだ。自分がそうだから、他人もそうだろうというような、失礼で乱暴な断定をするつもりはないが、身近なサンプル(=自分)が一つ加わったことで、人間の非合理性を事実として認めて分析の中心に据える、行動経済学的なアプローチに、また一歩、親近感が深まった。
 尚、腕時計は、ときたま気分や目的で変えることがあるが、写真の時計を着けていることが多い。できれば機械式で、誤差は必ず進み方向で日差10秒未満、10気圧以上の防水(風呂にも着けたまま入るから)、日付表示があること(時刻と同じくらい見る事が多い)、材質はステンレスかチタン、といったところが選択条件だ。但し、いかにもダイバー用、海洋スポーツ用の大きなもの(たとえばパネライの時計)は、スーツに合わないし、私は、スポーツマン的な太い腕をしていないので、似合わないと思っている。腕時計は(革ベルトや防水が弱いものを除いて)、寝るときも、風呂にはいるときも、そのまま着けているので、愛用しているとも言えそうだし、酷使しているとも言える。
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