国連「家族農業の10年」を推進―持続可能な日本農業―
あまり耳慣れない言葉ですが、国連は今年(2019年)を初年として2028年までの10年間を
「家族農業の10年」と定めました。
「家族農業」とは、国連の定義によれば労働力の半分以上を家族で賄う農業のことで、日本の「小農」
がこれに当たります。
家族農業は非効率で時代遅れ、とのイメージがつきまといますが、その家族農業を国連が奨励するのは
なぜでしょうか。
この背景には、大規模な近代的農業に環境汚染などの弊害が目立ってきた、という実情があります。
大規模な「近代」農業の中身は、一つの経営面積が大きく、大型機械が使われ、除草剤や殺虫剤などの
農薬や化学肥料が大量に投入される、という農業の形態です。この農業の場合おそらく、遺伝子組換え
作物やゲノム編集作物の導入なども積極的に取り入れてゆくことになるでしょう。
しかし、最近では、このような農業は土壌を汚染し、化学肥料によって土そのもの地力を弱め、さらに
作物に残る有害化学物質が消費者の健康を損ねるのではないか、その意味で、本当に持続的な農業と言
えるのか、という疑問が提出されてきました。
そして、むしろ家族農業こそ持続的ではないか、という評価が世界の主流になってきました。日本は大
規模な「近代」農業にむかい、小規模な家族農業は切り捨てる方向にゆくのか、あるいは家族農業をも
維持・推進して行くのか新たな分岐点に差し掛かっています。
実は、国連は2014年を「国際家族農業年」と定めたことがありました。今度の「家族農業の10年」
はこれを延長した格好ですが単なる延長ではないとの見方があります。
農業問題の専門家の鈴木宣弘東京大教授は、そこには、国連食糧農業機関(FAO)と世界銀行・国際
通貨基金(IMF)との闘いの歴史がある、とは指摘しています。
FAOは、途上国の農業発展と栄養・生活水準の向上がもともとの役割で、一方の世界銀行・IMFは
途上国の開発援助を担っています。しかし、後者は米国主導で、途上国を余剰農産物のはけ口としたい
米国や、大規模農業を進めたい多国籍企業などの意向が強く反映され、FAOとの路線対立が続いてい
ました。
つまり、これまでずっと、途上国の立場で栄養と生活水準の向上を目的とするFAOとアメリカ主導の、
多国籍企業の利益を代表とする世銀・IMFとの闘いがあったのです。
この闘いで主導権を握った世銀・IMF連合は、各途上国で関税や市場規制を撤廃し、輸入穀物に頼ら
ざるを得ない食料政策などを推進してきました。なかでも規制撤廃が徹底されたのはサハラ砂漠以南の
アフリカ諸国ですが、一帯は飢餓や貧困が集中したままです。
こうした現実を見れば、アメリカ主導の世銀・IMF連合の方針を受け入れた(実際には受け入れさせ
られた)国々の悲惨な結末がどうなるのか、良く分かります。
その現実を鈴木教授は、米国の穀物メジャーなどによる「収奪」だと批判する一方、国連の「家族農業
の10年」の動きはFAOによる「決死の巻き返し」なのだと説明しています(注1)。
世界の農家の9割は家族農業・小農で、食料全体の8割を生産しているとされます。日本の場合は99
%が小農です。これらが大規模農業に置き換えられていくと、何が起きるのでしょうか。
よくよく考えてみれば、日本はいつの間にか圧倒的に食糧不足・食糧輸入国に転落し、食糧自給率(カ
ロリー・ベース)は40%を切っています。
もう少し実態をみてみよう。農水省によると、2016年までの20年間で主食用のコメの作付面積は
24.9%減り、主な野菜の面積は18.6%減少した。日本の食料供給を支える生産基盤は長い時間をかけて
確実に弱体化しつつあります。
面積が減れば、よほど収量が改善しない限り、生産量も減ります。実際、主要な野菜の収穫量は同じ時
期に20.9%減りました。面積の減り方よりも、収穫量の減少が大きかったことになります。主食用のコ
メの収穫量も22.1%減っています。
一方、安倍政権の農業政策は、経営規模の拡大や農産物の輸出促進などを通じて「もうかる産業」に育
てることを目指しています。農業経営の規模を拡大すれば生産性が上がって、食糧の増産どころか輸出
さえ可能になる、「攻める農業」を唱えています。
しかし、大規模化と機械化で日本の農業がかかえる種々の問題と食糧問題が解決すると考えるとしたら、
それはあまりにも現実を知らなすぎると思います。
佐賀県の農民作家である山下惣一さんが、かつて共同通信の取材に語った話は示唆的です。
山下さんの知人で大規模なハウスミカンの経営者は、重油の値下がりで約400万円以上も燃料代が浮
いた。だが、重油が高騰したときには400万円ほど損をして苦しんだ。「重油の相場でもうかったり
損したり、これって農業と言えるのか」。
規模農業は燃料や肥料、除草剤や殺虫剤などの農薬を大量に使います。環境や食の安全面で問題が残
るうえ、資材価格の上昇や生産物の相場下落の影響を受けます。
さらに、大型耕運機やコンバインなどの機械には購入費だけでなく、メインテナンスにも大きな支出が
必要となります。投資額が大きくなると、経営路線を変更するのも引き返すのも難しくなります。大規
模農業は持続可能ではない、というのが山下さんの認識です(注1)。
農業の大型化による資本主義的経営には、幾つもの落とし穴があります。まず、農業は自然相手の産業
なので、いくら資本をかけても、降雨が少なかったり、雨続きや日照不足で作物が腐ったり病気になっ
たりする。あるいは、昨年の日本のように、異常高温で作物が枯れてしまうこともあるし、台風で作物
が収穫直前でだめになってしまうこともあります。
たとえば収量が10%減っただけでも、投資額が大きければそれだけ損失額は大きくなってしまいます。
大規模農業で成功した例が紹介されることがありますが、それは本当に例外的な事例で、しかも、せい
ぜい数年という短期間の実績で、長期にわたって日本農業全体に適用できるわけではありません。
もう一つ、農業に大規模化には大きな問題があります。政府が推進するまでもなく、現在まですでに、
平地の広い土地がある場所ではすでに大規模化が進んでいます。
問題は中山間地と呼ばれる、平地と山地との中間にある土地でです。ここでは、傾斜があるので小さな
耕地を集めて一枚の大きな田畑にまとめて機械化することが難しいのです。
農水省の統計では、日本の中山間地の耕地が全耕地に占める割合、農業生産、農家戸数とも、大まかに
いって4割です(注2)。しかし、農水省の定義では平地の田畑になっている場合でも、実態は緩い傾
斜となっていて実態として機械が入りにくい土地はかなりあると思われます。
実際、私自身も数年前まで稲を作っていた千葉県のある地域は、一面がごくゆるい傾斜をもつ谷地水田
で、恐らく平地水田に含まれるでしょうが、周囲からの水が溜まってしまうので耕運機もコンバインも
入りませんでした。このため土地の所有者は耕作を放棄していました。私たちは結局、田植えから収穫
まで全て手作業でした。
本来の傾斜をもつ中山間地では、耕地が段々畑のように小さな地片に分かれていて、とても大型の農業
機械が使えない耕地がたくさんあります。
しかも、こうした耕作が大変な中山間地では跡継ぎ問題も深刻で、耕作放棄地が広がっています。
平地であれ傾斜地であれ、日本の農家の9割が小農である、という実態を考えれば、何をおいても、こ
うした農業を支える方法を考える必要があります。
実は、大規模農業の先進国と思われているアメリカで、1980年にドイツから導入された「CSA」
(地域のコミュニティに支えられた農業)が急速にひろまっています。
これは、消費者が、農薬と化学肥料を大量に使用し巨額の資本投下を要する大規模農業では安全で健康
的な食べ物は生産できないとの観点からし、小規模農家をサポートする方式で、以来現在まで、急速に
ひろまっています。
具体的には、消費者グループが、小規模農家(通常は有機農業を行う)と契約し、半年あるいは1年分
の代金を前払いし、豊作でも不作でもその生産物を引き取る方式です。
これにより、消費者は健康で安全な食物を手に入れ、生産者は予め購入先が決まっているので安心して
優良な野菜の生産を行うことができます。
この方式のもう一つ大事なことは、農地を農薬の汚染から守ることができるのです。
日本の農業を維持し、優良な食べ物を確保するうえで大切なことは、農業の近代化・大規模ではなく、
農家の99%を占める家族農業を支えることです。
そのためには、いきなりアメリカのような前払い方式がいいのか、消費者と生産者との、もう少し緩
やかな提携の方式が良いのかは、これからの課題です。
個人的なことですが、私自身は現在、完全無農薬で栽培している家族農業の農家の野菜を、希望者に
宅配で届けるシステを立ち上げ、購入希望者と農家の間に入って事務的な作業をお手伝いしています。
全く宣伝はしていませんが、口コミで購入者が着実に増えています。購入者のほとんどは、小さいお
子さんを持っている母親です。母親はこどものために化学物質を含まない野菜を求めています。ある
お母さんによれば、子どもたちは、何も言わなくても無農薬野菜のおいしさを本能的に味わい分けて
いる、と言っています。
輸入食品が悪いというわけではありませんが、やはり、安心・安全な食べ物を手に入れるためには、
そして持続可能は農業を実現するためには、消費者もある程度の負担を引き受けて、家族農業を行っ
ている農家と支え合うことが大切だと思います。
その具体的な方法については、日本には日本の慣行に合ったシステムを考えてゆく必要があります。
この意味で国連が「家族農業の10年」を今年から推進しようとしているのは、とても意味のあるこ
とです。
(注1)『福井新聞 ONLINE』(2019年1月13日 午前7時30分)https://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/776293
(注2)農水省、中山間地統計 http://www.maff.go.jp/j/nousin/tyusan/siharai_seido/s_about/cyusan/
(注3)CSAは、1965年に生活クラブが始めた産直提携に起源があるようです。その後、スイス、ドイツに広まり、そこから
アメリカにも受け入れられてゆきました。アメリカにおけるCSAについては、『アメリカン・ビュー』
https://amview.japan.usembassy.gov/new-directions-in-agriculture/。
これら以外にも、CSA という項目で検索すると、多数のサイトが見つかります。書物としては、たとえば『CSA地域支
援型農業の可能性 : アメリカ版地産地消の成果』(エリザベス・ヘンダーソン, ロビン・ヴァン・エン著 ; 山本き
よ子訳、家の光協会, 2008.2)があります。
あまり耳慣れない言葉ですが、国連は今年(2019年)を初年として2028年までの10年間を
「家族農業の10年」と定めました。
「家族農業」とは、国連の定義によれば労働力の半分以上を家族で賄う農業のことで、日本の「小農」
がこれに当たります。
家族農業は非効率で時代遅れ、とのイメージがつきまといますが、その家族農業を国連が奨励するのは
なぜでしょうか。
この背景には、大規模な近代的農業に環境汚染などの弊害が目立ってきた、という実情があります。
大規模な「近代」農業の中身は、一つの経営面積が大きく、大型機械が使われ、除草剤や殺虫剤などの
農薬や化学肥料が大量に投入される、という農業の形態です。この農業の場合おそらく、遺伝子組換え
作物やゲノム編集作物の導入なども積極的に取り入れてゆくことになるでしょう。
しかし、最近では、このような農業は土壌を汚染し、化学肥料によって土そのもの地力を弱め、さらに
作物に残る有害化学物質が消費者の健康を損ねるのではないか、その意味で、本当に持続的な農業と言
えるのか、という疑問が提出されてきました。
そして、むしろ家族農業こそ持続的ではないか、という評価が世界の主流になってきました。日本は大
規模な「近代」農業にむかい、小規模な家族農業は切り捨てる方向にゆくのか、あるいは家族農業をも
維持・推進して行くのか新たな分岐点に差し掛かっています。
実は、国連は2014年を「国際家族農業年」と定めたことがありました。今度の「家族農業の10年」
はこれを延長した格好ですが単なる延長ではないとの見方があります。
農業問題の専門家の鈴木宣弘東京大教授は、そこには、国連食糧農業機関(FAO)と世界銀行・国際
通貨基金(IMF)との闘いの歴史がある、とは指摘しています。
FAOは、途上国の農業発展と栄養・生活水準の向上がもともとの役割で、一方の世界銀行・IMFは
途上国の開発援助を担っています。しかし、後者は米国主導で、途上国を余剰農産物のはけ口としたい
米国や、大規模農業を進めたい多国籍企業などの意向が強く反映され、FAOとの路線対立が続いてい
ました。
つまり、これまでずっと、途上国の立場で栄養と生活水準の向上を目的とするFAOとアメリカ主導の、
多国籍企業の利益を代表とする世銀・IMFとの闘いがあったのです。
この闘いで主導権を握った世銀・IMF連合は、各途上国で関税や市場規制を撤廃し、輸入穀物に頼ら
ざるを得ない食料政策などを推進してきました。なかでも規制撤廃が徹底されたのはサハラ砂漠以南の
アフリカ諸国ですが、一帯は飢餓や貧困が集中したままです。
こうした現実を見れば、アメリカ主導の世銀・IMF連合の方針を受け入れた(実際には受け入れさせ
られた)国々の悲惨な結末がどうなるのか、良く分かります。
その現実を鈴木教授は、米国の穀物メジャーなどによる「収奪」だと批判する一方、国連の「家族農業
の10年」の動きはFAOによる「決死の巻き返し」なのだと説明しています(注1)。
世界の農家の9割は家族農業・小農で、食料全体の8割を生産しているとされます。日本の場合は99
%が小農です。これらが大規模農業に置き換えられていくと、何が起きるのでしょうか。
よくよく考えてみれば、日本はいつの間にか圧倒的に食糧不足・食糧輸入国に転落し、食糧自給率(カ
ロリー・ベース)は40%を切っています。
もう少し実態をみてみよう。農水省によると、2016年までの20年間で主食用のコメの作付面積は
24.9%減り、主な野菜の面積は18.6%減少した。日本の食料供給を支える生産基盤は長い時間をかけて
確実に弱体化しつつあります。
面積が減れば、よほど収量が改善しない限り、生産量も減ります。実際、主要な野菜の収穫量は同じ時
期に20.9%減りました。面積の減り方よりも、収穫量の減少が大きかったことになります。主食用のコ
メの収穫量も22.1%減っています。
一方、安倍政権の農業政策は、経営規模の拡大や農産物の輸出促進などを通じて「もうかる産業」に育
てることを目指しています。農業経営の規模を拡大すれば生産性が上がって、食糧の増産どころか輸出
さえ可能になる、「攻める農業」を唱えています。
しかし、大規模化と機械化で日本の農業がかかえる種々の問題と食糧問題が解決すると考えるとしたら、
それはあまりにも現実を知らなすぎると思います。
佐賀県の農民作家である山下惣一さんが、かつて共同通信の取材に語った話は示唆的です。
山下さんの知人で大規模なハウスミカンの経営者は、重油の値下がりで約400万円以上も燃料代が浮
いた。だが、重油が高騰したときには400万円ほど損をして苦しんだ。「重油の相場でもうかったり
損したり、これって農業と言えるのか」。
規模農業は燃料や肥料、除草剤や殺虫剤などの農薬を大量に使います。環境や食の安全面で問題が残
るうえ、資材価格の上昇や生産物の相場下落の影響を受けます。
さらに、大型耕運機やコンバインなどの機械には購入費だけでなく、メインテナンスにも大きな支出が
必要となります。投資額が大きくなると、経営路線を変更するのも引き返すのも難しくなります。大規
模農業は持続可能ではない、というのが山下さんの認識です(注1)。
農業の大型化による資本主義的経営には、幾つもの落とし穴があります。まず、農業は自然相手の産業
なので、いくら資本をかけても、降雨が少なかったり、雨続きや日照不足で作物が腐ったり病気になっ
たりする。あるいは、昨年の日本のように、異常高温で作物が枯れてしまうこともあるし、台風で作物
が収穫直前でだめになってしまうこともあります。
たとえば収量が10%減っただけでも、投資額が大きければそれだけ損失額は大きくなってしまいます。
大規模農業で成功した例が紹介されることがありますが、それは本当に例外的な事例で、しかも、せい
ぜい数年という短期間の実績で、長期にわたって日本農業全体に適用できるわけではありません。
もう一つ、農業に大規模化には大きな問題があります。政府が推進するまでもなく、現在まですでに、
平地の広い土地がある場所ではすでに大規模化が進んでいます。
問題は中山間地と呼ばれる、平地と山地との中間にある土地でです。ここでは、傾斜があるので小さな
耕地を集めて一枚の大きな田畑にまとめて機械化することが難しいのです。
農水省の統計では、日本の中山間地の耕地が全耕地に占める割合、農業生産、農家戸数とも、大まかに
いって4割です(注2)。しかし、農水省の定義では平地の田畑になっている場合でも、実態は緩い傾
斜となっていて実態として機械が入りにくい土地はかなりあると思われます。
実際、私自身も数年前まで稲を作っていた千葉県のある地域は、一面がごくゆるい傾斜をもつ谷地水田
で、恐らく平地水田に含まれるでしょうが、周囲からの水が溜まってしまうので耕運機もコンバインも
入りませんでした。このため土地の所有者は耕作を放棄していました。私たちは結局、田植えから収穫
まで全て手作業でした。
本来の傾斜をもつ中山間地では、耕地が段々畑のように小さな地片に分かれていて、とても大型の農業
機械が使えない耕地がたくさんあります。
しかも、こうした耕作が大変な中山間地では跡継ぎ問題も深刻で、耕作放棄地が広がっています。
平地であれ傾斜地であれ、日本の農家の9割が小農である、という実態を考えれば、何をおいても、こ
うした農業を支える方法を考える必要があります。
実は、大規模農業の先進国と思われているアメリカで、1980年にドイツから導入された「CSA」
(地域のコミュニティに支えられた農業)が急速にひろまっています。
これは、消費者が、農薬と化学肥料を大量に使用し巨額の資本投下を要する大規模農業では安全で健康
的な食べ物は生産できないとの観点からし、小規模農家をサポートする方式で、以来現在まで、急速に
ひろまっています。
具体的には、消費者グループが、小規模農家(通常は有機農業を行う)と契約し、半年あるいは1年分
の代金を前払いし、豊作でも不作でもその生産物を引き取る方式です。
これにより、消費者は健康で安全な食物を手に入れ、生産者は予め購入先が決まっているので安心して
優良な野菜の生産を行うことができます。
この方式のもう一つ大事なことは、農地を農薬の汚染から守ることができるのです。
日本の農業を維持し、優良な食べ物を確保するうえで大切なことは、農業の近代化・大規模ではなく、
農家の99%を占める家族農業を支えることです。
そのためには、いきなりアメリカのような前払い方式がいいのか、消費者と生産者との、もう少し緩
やかな提携の方式が良いのかは、これからの課題です。
個人的なことですが、私自身は現在、完全無農薬で栽培している家族農業の農家の野菜を、希望者に
宅配で届けるシステを立ち上げ、購入希望者と農家の間に入って事務的な作業をお手伝いしています。
全く宣伝はしていませんが、口コミで購入者が着実に増えています。購入者のほとんどは、小さいお
子さんを持っている母親です。母親はこどものために化学物質を含まない野菜を求めています。ある
お母さんによれば、子どもたちは、何も言わなくても無農薬野菜のおいしさを本能的に味わい分けて
いる、と言っています。
輸入食品が悪いというわけではありませんが、やはり、安心・安全な食べ物を手に入れるためには、
そして持続可能は農業を実現するためには、消費者もある程度の負担を引き受けて、家族農業を行っ
ている農家と支え合うことが大切だと思います。
その具体的な方法については、日本には日本の慣行に合ったシステムを考えてゆく必要があります。
この意味で国連が「家族農業の10年」を今年から推進しようとしているのは、とても意味のあるこ
とです。
(注1)『福井新聞 ONLINE』(2019年1月13日 午前7時30分)https://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/776293
(注2)農水省、中山間地統計 http://www.maff.go.jp/j/nousin/tyusan/siharai_seido/s_about/cyusan/
(注3)CSAは、1965年に生活クラブが始めた産直提携に起源があるようです。その後、スイス、ドイツに広まり、そこから
アメリカにも受け入れられてゆきました。アメリカにおけるCSAについては、『アメリカン・ビュー』
https://amview.japan.usembassy.gov/new-directions-in-agriculture/。
これら以外にも、CSA という項目で検索すると、多数のサイトが見つかります。書物としては、たとえば『CSA地域支
援型農業の可能性 : アメリカ版地産地消の成果』(エリザベス・ヘンダーソン, ロビン・ヴァン・エン著 ; 山本き
よ子訳、家の光協会, 2008.2)があります。