大木昌の雑記帳

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魚文化の危機―日本人の魚離れ?―

2023-05-05 17:11:50 | 食と農
魚文化の危機(1)―日本人の魚離れ?―

昔の教科書には、日本は海に囲まれているので、魚からタンパク質を、と書かれていました。

実際、漁業シーズンになると大漁旗を掲げた船が出向する風景がテレビなどで流されました。

これを見て日本人は、“サンマの季節だな”、あるいはカツオ漁の勇ましい一本釣りの風景が流
れると、“今年もいよいよ「初ガツオ」の季節だな”、と季節感を目と口で味わってきました。

それほど、日本人と魚とは切っても切れない強いつながり、生活の一部になっていました。

FAO(国際連合食糧農業機関)の調査で、2005(平成17)年まで年間一人当たりの魚介類消
費量が世界一でした。それが、2013(平成25)年には7位にまで転落しています。

これを実数で見ると、農林水産省が公表した2021年度版の水産白書によると、1人当たりの魚
介類の年間消費量は2020年度に23.4キロとなり、比較可能な1960年度以降で最低となりまし
た。ピークだった01年度40.2キロの58%まで落ち込んでしまったのです。

しかし、1人当たりのたんぱく質の摂取量が減少しているわけではありません。魚介とは対照
的に、肉類の消費量は右肩上がりに上昇、2011年度に初めて肉が魚介を上回り、その後、格
差が拡大しました(グラフ参照)。

すなわち、2020年度の肉の消費量は33.5キロと、魚を10キロも上回わったのです(注1)。

グラフ 

https://www.nippon.com/ja/japan-data/h01349/ 

作家・生活史研究家の阿古 真理は、日本人の魚離れの経緯を次のように解説しています。

一言で言うと、若い世代は魚介類より肉類を好み、やがて中高年になると魚介類を好むようにな
る――という従来の図式も通用しなくなっています。

写真 代表的な日本の家庭料理。
〔PHOTO〕iStock
https://gendai.media/articles/-/64494 

それではなぜ、魚が敬遠されるようになったのでしょうか?

作家・生活史研究家の阿古真理さんは、その理由をいくつか挙げています。

一つは、ライフスタイルが変化したことで、世代が下がるにつれ魚介類購入量が少なくなる傾向
です。

昭和10年代生まれ(現在88歳以上)は食糧難の時代を体験し、肉類が高級品だった時代に成長
しています。しかし、昭和30年代生まれ(現在68歳~74歳)は、高度成長期で洋食が家庭に
どんどん入って、肉が日常的に食卓にのぼる時代に育っています。

こうして、家庭で食事の用意をする母親自身が魚より肉へ嗜好が変わってしまっているので、そ
うした母親に育てられて子供たちは、ごく自然に魚より肉を好むようになったと言えます。

次に、平成には町の魚屋も少なくなったことです。スーパーでは魚屋のように食べ方を聞けない
し、気軽に下処理を頼みづらいので、さばき方が分からない、あるいは面倒だと感じる丸ごとの
魚は買いづらくなったかもしれない。

また、働く女性が増えたことも大いに関係していると言います。フルタイムで仕事をし、毎日買
い物できなくなると、肉より鮮度が重視される魚は買いづらくなるからです(注2)。

これらは確かに魚離れを推し進めた要因には違いありませんが、私は、まだまだたくさん理由が
あると思います。

歴史的にみれば、戦後、小学校の給食にパンとミルクが出されるようになり、日本人の間にパン
食が浸透する下地を作りました。

これには、当時アメリカが日本人の食生活をパンと肉に変え、アメリカの農畜産物を輸出するた
めに戦略的に推し進めた、という見方もあります。

そうして育った子供たちが子育てをする年齢になって、一気にパン食が定着しました。考えてみ
れば、コメと魚は相性がいいけれど、パンと魚の取り合わせは不自然なので、ここでも魚離れは
進みました。

こう考えると、魚離れとコメ離れとは一緒に進行したと考えられます。つまり、食の欧米化です。

さらに、日本人の居住環境の変化も魚離れに影響していると考えられます。

マンションや団地のような閉鎖空間では、魚を焼くと、その臭いが部屋の中にこもるので魚を焼
きたくない、魚を敬遠する人が増えているのではないでしょうか?

煙が出ない魚焼き器も売っていますが、それでも、多少は漏れてしまいます。

また、サンマやイワシのような骨付き丸ごとの魚を食べると、骨が口の中で骨が邪魔となるし、
かといってあらかじめ小骨を取るのが面倒で、とりわけ子供たちは嫌がります。

魚は食べた後でも、その骨や内臓などの処理が大変です。ゴミの収取の日まで家の中に置いて
おくと、その臭い(生臭さ)も気になります。

こう考えると、魚を日常的に家で食べることにはいくつもの問題があることがわかります。

しかし魚離れは食文化さらには、大げさに言えば日本文化の変化でもあります。

それでは、日本人は魚が嫌いになったのでしょうか?

私は決してそうではないと思います。むしろ、丸ごとの魚をさばくことができない、焼いた
り煮たりするのが面倒だったり調理の仕方が分からない、食べにくい、食べた後のゴミの処
理が大変、などの抵抗があるのだと思います。

だから、切り身なっている魚なら大丈夫とか、最近ではスーパーでは少しでも魚を食べるこ
とへの抵抗感をなくしてもらうために焼いた魚を売っていていたり、頭や内臓を取り除いて
くれたりします。

また日本人は刺身やすしが大好きです。祝い事にはステーキではなく、寿司を食べることの
方が多いのではないでしょうか。

あるいは、人をもてなすときにはお寿司屋に招待したり、出前を取ることも決してすたれた
わけではありません。

健康面からも魚介の良さが見直されるようになりました。サバやイワシのような、いわゆる
「青魚」は、その油(不飽和脂肪酸 オメガー3系)が血液をさらさらにする効果があるこ
とが知られてから人気がでました。

今ではおしゃれな黄色と青のデザインで、オリーブオイル漬けなど洋風の味つけの缶詰、名
前もフランス語の「Ca va?」(サバ? フランス語で“どう、元気?”というほどの意味)、
が開発されてスーパーに売っています。

今、世界の多くの国で寿司や刺身をはじめ魚介がブームとなっています。しかし漁獲量が減
ってしまい、輸入しようとしても買い負けして手に入らないし、入っても値段が高騰して、
今や魚は“高嶺の花”となっています。

こうした事情については次回に検討します。


(注1)Nippon.com. https://www.nippon.com/ja/japan-data/h01349/  2022.06.05
(注2)https://gendai.media/articles/-/64494 2019.05.10

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