大木昌の雑記帳

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2019年は予測不可能な年―世界は再び不確実性の時代に―

2019-01-13 07:49:52 | 国際問題
2019年は予測不可能な年―世界は再び不確実性の時代に―

今年の日本が政治・経済・社会のさまざまな局面で難問を抱えているように、今年の世界も、
不安を伴う「不確実性の時代」に突入しています。

私は国際問題の専門家ではありませんが、専門家といえども、これからの世界がどうなるのか
をはっきりと展望することはできません。

その不確実性の中でも、特別大きな震源地は「アメリカ・ファースト」(「アメリカさえ良け
れば」主義)を叫ぶトランプ大統領と、彼が仕掛ける米中貿易摩擦と安全保障問題です。

トランプ氏は、アメリカの貿易赤字の最大の相手国である中国からの輸入品に高率関税を課し
ています。これに対して中国も米国製品の輸入に報復関税をかけており、米中貿易摩擦が一挙
高まりまっています。

さらにトランプ氏は、中国が輸出を自制しなければ、また知的財産権の侵害を止めないならば、
米国への全ての輸出品に高率関税を課す、と脅していました。その後、彼は、2か月間だけ猶
予すると修正しました。

これは、大きく脅しておいて少しだけ妥協のそぶりを見せて、最終的に相手の譲歩を引き出し
て自分の利益を勝ち取るトランプ流の“ディール”(取引)です。

米中貿易摩擦は、世界のGDPと1位と2位の経済大国ですから、本格的な貿易戦争となれば、
世界経済は大打撃を受けます。

中国は何と言っても、13億人の人口を擁していて途方もない巨大市場です。たとえアメリカ
との貿易が減少しても、ヨーロッパ諸国は喜んで中国市場に進出するでしょう。

実際、最近の世界経済をけん引してきたのは、中国という巨大マーケットと安価な製品の供給
だったのです。

すでに、アップル社の製品(パソコンや携帯電話のiPhone)は中国で不買運動にあい、アップ
ル社の利益予想が大幅に下方修正されたため、株価も下落しました。

今日では、アメリカ製品といえども、現実は中国を含む、さまざまな国の部品の集合体(サプ
ライ・チェーン)であり、中国からの供給がなくなればアメリカの製品も製造できなくなりま
す。同様に、米国製品は、中国市場を抜きにしては存続できません。

現在、米中の事務官レベルで交渉中ですが、どのような結果に落ち着くのか誰にも分かりませ
ん。いずれにしても、米中間の貿易戦争は世界の貿易を縮小させることは確実なので、貿易立
国の日本にとっても大打撃です。

米中貿易摩擦の背景には、安全保障と世界の覇権をめぐる対立もあります。

アメリカは中国のIT(コンピュータ)技術や軍事技術はまだまだアメリカには遠く及ばない、
と思い込んできましたが、現実はそのような楽観論を許さない事態が進行しています。

たとえば、携帯電話の次世代通信規格(G5)の分野でアメリカはすでに中国のファーウェイ
などのIT企業に抜かれていますし、ヨーロッパを始め広い地域でファーウェイの基地局の建
設が進んでいます。

このままでは、ファーウエィの規格が世界標準になりかねない、それは絶対に許せない、とい
うのがアメリカの本音でしょう。

トランプ氏が、ファーウェイの副社長をカナダで逮捕させたり、ファーウェイの製品を買わな
いように、そして中国への技術輸出をしないよう圧力をかけているのは、それに気付いた焦り
の現れでしょう。

つい最近、中国政府は、中国は月の裏側にあたる地点に人工衛星を着陸させたことを写真付き
で発表しました。月に人工衛星を着陸させるには、直前まで地上からの指令で人工衛生をコン
トロールする必要がありますが、衛星が月の裏側に入ってしまうと、電波は届きません。

したがって、中国のこの成功は(もし本当なら、と言う条件付きですが)、衛星が電波の届か
ない裏側に入った瞬間から、衛星自ら判断して着地させる技術をすでに開発していることを意
味します。これも、アメリカにとって脅威です。

こうしたIT技術の発展ぶりをみて、アメリカは中国の軍事技術も当然発展しているものと考
え、安全保障の面で軍事的な脅威を感じています。

加えて、中国の南シナ海での軍事基地建設にたいしてアメリカは、西太平洋における覇権を確
保し、中国の進出を抑えたいと考えています。

現在の米中対立は、「新冷戦」とよばれるほど、経済と軍事がセットになった覇権争いの様相
を呈してきていてとても危険です。

トランプ大統領は意見の合わない政権トップの人事を次々に解任し、現在、彼を取り巻く政府
の要人は、ボルトン氏を始め、いわゆる「ネオコン」と呼ばれる対中国・ロシア・イランに対
する軍事的強行派ばかりです。

とりわけジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)は、2003年に根拠のないま
まイラク攻撃を主導した張本人です。

米中対立とは別に、トランプ氏はロシアとの中距離核全廃条約(INF)からアメリカが離脱
することを宣言しました。

INFとは、射程範囲5000~5500キロの核弾頭および通常弾頭を搭載した地上発射型の
短距離および中距離ミサイルの廃棄を定めたものです(注1)。

アメリカは、実際に使える小型核兵器の開発を進める方針であり、それを運ぶ近距離・中距離
ミサイルの開発も必要だと考えているようです。

INF破棄によりロシアは、中距離核ミサイルの開発を堂々と進めることができるようになり
ます。これは、米ソ間の冷戦時代の構造を再現させることを意味します。

そして、ヨーロッパ全域はロシアの核ミサイルの射程内に入ることになるので、ヨーロッパ諸
国はINF破棄により大きな核の脅威にさらされることなります。

こうして、現在では、アメリカ対中国、アメリカ対ロシアという三大核大国がにらみ合う構図
となっています。この対立も、どのように展開するのか、全く不確実です。

核の問題では、トランプ氏は昨年5月に、いわゆる「イラン核合意」から離脱する、と一方的
に宣言しました。

2002年にイランの核開発が発覚したことを受け、イランは国連や米国、欧州連合(EU)な
どの経済制裁を受けてきました。しかしこれは、2013年から2年間かけて15年にようや
くこれらの国の間で合意にこぎ着けた歴史的な核合意です。この合意をアメリカで主導したの
はオバマ前大統領でした。

実際、「合意」後10年間はイランの核開発が制約され、国際原子力機関(IAEA)の厳しい査
察を受け、11度にわたって核合意の履行が確認されてきました。つまり、十分に機能している
合意であると大多数の国が信じる核合意です。

しかしトランプ氏は、ヨーロッパ諸国の強い反対にもかかわらず、この合意から離脱し、「最
高水準の経済制裁」をかけることを宣言しました。これには、オバマ政権時代の成果をことご
とく潰したいトランプ氏の個人的怨念も強く働いています。

ボルトン氏は、イランと取引関係のある企業は6カ月以内に取引を停止しなければ、米国の制
裁を受けることになると述べています。

これを受けて、これまで核合意に向けて努力してきた国連・イギリス・フランス・ドイツ・ロ
シアは深く失望」しているとの談話を発表しています。

また、合意当時のオバマ元大統領は「核合意は現在も機能しており、米国の国益にかなってい
る」と自身のフェイスブックに投稿しました。

EUのフェデリカ・モゲリーニ外務・安全保障政策上級代表は、EUはこの合意を「断固として
維持する」と語りました(注2)。

現代の世界において、政治・軍事面でもトランプ氏はアメリカの国際機関や多国間協定からの
離脱を進めてきました。

アメリカは、2017年に、世界遺産の認定などを扱うユネスコから離脱し、続いて世界環境
保護を目指す「パリ協定」からも離脱し、今回のINF、「イラン核合意」からも離脱とたて
続けに離脱しています。

経済面ではオバマ元大統領が推進したTPPを、トランプ氏は就任直議に離脱しました。

トランプ氏は、自分の気に入らない国際協定から次々と離脱して「アメリカ・ファースト」に
邁進しています。さながら「ドラえもん」中のジャイアンのようです。

最後に、国際経済と国際関係に大きな影響を与える可能性がある問題として、イギリスのEU
離脱に触れておきます。

イギリスは、メイ首相が提案したEU離脱に関して、2016年6月23日の国民投票を行い、離
脱賛成51.89%、反対派(残留)は48.11%でEU離脱を決めました。

当時、離脱賛成票を投じた人の中には、まさか通ると思わなかったから、という声がかなり聞
かれました。

合意によれば、今年の3月末をもってイギリスは正式にEUを離脱することになっています。

その期限を直前に控えて、イギリス議会では、離脱にともなうEUとの協定内容に関して反対
派の方が多く、議会で可決されることは事実上困難な状況です。むしろ、現在では国民投票の
際実施を望む声が高まりつつあります(注3)。

しかし、EUとしても、今さらイギリスの再復帰を認めることはできないでしょうから、この
まま行くと、イギリスはEUから離脱するが、その具体的な協定内容は未定、という混沌とし
た状況になります。

たとえば、これまで金融中心地として栄えたロンドンのシティーから、外国の企業が撤退する
ことが考えられるし、他の外国企業も本社をイギリスからEUへ移すことが考えられます。
こうした状況をうけてシティーの行政責任者は昨年、北京と上海を訪問して、EU離脱をにら
んで、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」の資金調達市場として「西のハブ(主要拠点)」に
なる、宣言しています(『東京新聞』2019年1月7日)。

以上、外観したように、今年は世界の政治・軍事、経済、社会において大きな転換点になるこ
とは間違いありませんが、問題は、それぞれの問題の決着がどうなるのか、不確実性に満ちて
いることです。

(注1)『BBC NEWS Japan』デジタル版 2018年10月21日
https://www.bbc.com/japanese/45931910  
(注2)『BBC NEWSJapan』デジタル版 2018年05月9日
    https://www.bbc.com/japanese/44049644 
(注3)『朝日新聞』デジタル版(2019年1月9日05時00分)
https://digital.asahi.com/articles/DA3S13841178.html?rm=150

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