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アメリカ大統領選(6)―慌てふためく安倍首相と日本政府―

2016-12-17 07:14:10 | 国際問題
アメリカ大統領選(6)―慌てふためく安倍首相と日本政府―

「話が違うじゃないか!」。大統領選の開票終盤、安倍首相のいら立ちが頂点に達し、外務省に怒りをぶつけました。

というのも、今年9月の訪米に際して外務省はクリントン勝利を疑わず、クリントンとだけ会談をセッティングし、トランプを無視したからです(注1)。

トランプの勝利が確実となった11月9日、安倍首相はさっそく電話で、「トランプ候補が次期大統領に選出されたことに心からお祝い申し上げる」
と祝意を表しました。

その後、安倍首相は首相官邸で記者団に
    トランプ次期大統領は類い希なる能力によりビジネスで大きな成功を収め、米国経済に多大な貢献をされただけでなく、強いリーダーとし
    て米国を導こうとされている。
また、日米同盟については、
    普遍的価値で結ばれた揺るぎない同盟だ。その絆をさらに強固なものにしていきたい」・・・
    次期大統領と世界の様々な課題にともに協力して取り組んでいきたい。一緒に仕事することを楽しみにしている」と語っています
    (『毎日新聞』(2016年11月10日);『経済新聞』2016年11月10日。

安倍首相が「普遍的価値」という時、頭の中にはどんな価値が想定され、その価値によって本当にトランプと結ばれているのでしょうか?

同じようにトランプの勝利直後にお祝いのメッセージを送ったドイツのメルケル首相はもっと冷静に、むしろ、批判的に、トランプに対して電話で次
のように言いました。
    血統、肌の色、宗教、性別、性的嗜好、政治的立場に左右されず、民主主義、自由、人権と、人への尊厳への敬意という価値観の共
    有に基づき、トランプ次期大統領との緊密な協力を申し出たい。 

メルケル首相の意図は、もしオバマ大統領とは一致できていた価値観を今後も共有できなければ、アメリカに対してといえどもお付き合いお断り、
と言っているのです。

何と格調高い「お祝いの言葉」でしょうか!これが、世界で通用する「普遍的価値」というものです。

ミュンヘン在住のジャーナリスト、熊谷徹氏は、このメッセージを「トランプ氏への『毒矢』」と評しました(『東京新聞』2016年12月7日)。

この意味を安倍首相は分かるでしょうか?安倍首相は、「普遍的価値」ということに対する何の思想も哲学もなく、ただ、「普遍的価値」という言葉
をつまみ食いしただけです。

トランプは選挙運動を通じて、人種差別、イスラム教徒への敵意(宗教的差別)、女性蔑視、同性愛への差別など、メルケル首相の掲げる「普遍的
価値」をことごとく否定する発言をしてきました。

では、安倍首相は、トランプのどこに「普遍的価値」見出したのでしょうか?

安倍首相とメルケル首相との格の違いが、絶望的に大きく感じられます。

11月9日に当選を決めてから、トランプは少なくとも9カ国の首脳と協議したようです(いずれも会談した相手国の発表)。

その中の、テロ対策にとって重要な中東各国の首脳にたいしては好意的に対応したようです。

例えばエジプト大統領府によれば、トランプはエジプト大統領に「当選が決まった後、世界で最初に電話をしてくれた大統領だ」と謝意を述べたという。

さらにトルコ、サウジアラビア、イスラエル、メキシコ、カナダとも電話会談を行ったことが分かっていますが、イギリスやドイツと電話会談をしたかどうか
は分かりません(『朝日新聞』2016年11月11日 朝刊)。

一方日本ですが、政治経験のない異例の“素人大統領”とのパイプがほとんどないことに焦った安倍政権は、10日朝、電話会談を申し入れ、早くも
「直接会談」を取り付けることに成功しました。

でこうして、安倍首相は17日、トランプタワーで世界に先駆けてトランプ次期大統領と会談を持つことができました。

日本のメディアは、初めてのトランプ次期大統領との直接会談にこぎつけたのは、あたかも日本外交の成果のように持ち上げていますが、本当にそう
でしょうか?

メルケル首相が大慌てでトランプ詣でをしたとは考えられません。

トランプとの会談後、安倍首相は記者団に対し、「胸襟を開いて率直に話ができた」と述べました。次期大統領としてのトランプについては「信頼できる
指導者だと確信した」と話しました。

何をもって「信頼できる指導者だと確信したの」のか不明であり、しかも90分の会談(といっても通訳の時間を入れれば実質30分ほど)で「確信」など
持てるのでしょうか?

いずれにしても、具体的に何を話したのかという会談の中身については、まだ次期大統領であり、今回は非公式会談ということで「お話しすることは差し
控えたい」とするに止めました。

会談では日米関係全般について意見を交わし、首相側は大統領選でのトランプ氏の言動の真意を探るとともに、日米同盟の重要性も指摘したとみられ
ますが、確かなことは分かりません(注2)。

このため、実際に何を話し、何か成果があったかどうかは分かりません。政府側は、とにかく会ってパイプを作ることに意義があったという立場でしょう。

この安倍首相とトランプとの直接対話をどのように評価するかは、立場によって異なる。

私個人は、とにかく、予想に反した結果に慌てふためいて、取るものもとりあえず、トランプの元に飛んで行った、世界で最初の「トランプの太鼓持ち」、
という印象で、むしろ恥ずかしさを覚えました。

白井聡氏はもっと辛辣に安倍首相の行動を批判しています。
    「夢を語り合う会談をしたい」と言って。夢みたいなことを言うなよと思いましたね。
    安倍さんは選挙戦中クリントン氏には会った一方で、トランプ氏をスキップしてしまった。それを挽回(ばんかい)したかったのでしょう。
    飼い主を見誤った犬が、一生懸命に尻尾を振って駆けつけた。失礼ながら、そんなふうに見えました。恥ずかしい。惨めです。それを指摘
    しないメディアもおかしい。
(注3)(太字は大木)
futoji

まったく同感です。日本のメディアのほとんどは、安倍首相が世界に先駆けて会談を、むしろ誇るべき戦果のように褒めたたえていますが、これはジャー
ナリストの批判精神が欠落しているとしか言えません。

また、『Yahoo News』(11月18日)でフリージャーナリスト志葉玲氏は「安倍トランプ会談で世界にさらした恥―ドイツ・メルケル首相が見せた格の違い」
と題する寄稿で、
    安倍晋三首相は、次期米国大統領とされるドナルド・トランプ氏と、本日の朝(日本時間)に会談した。日本の政治史から観ても、首相がまだ
    就任もしていない次期大統領に会うことは異例だが、そもそも、移民やイスラム教徒の追放や温暖化対策の世界的な枠組みであるパリ協定
    からの脱退など、その発言が物議を醸しているトランプ氏に、先進国のリーダー達はやや距離を置いて様子を見ている。そんな中、真っ先に
    トランプ氏に会い、握手して「トランプ氏は信頼できるリーダーだ」とまで言った安倍首相は、いかがなものか(注4)。

志葉玲氏が言うように、今のところ先進国のリーダーたちは距離を置いて様子を見ています。実際、安倍・トランプ会談を積極的に評価している先進国の
リーダーはいません。

トランプとしては、日本の首相が真っ先に飛んできてくれたことが嬉しかったのでしょう。

しかし、彼は現実主義者です。安倍首相としては、次期大統領との間に信頼関係を築くことができた、とアピールしたその直後、TPPからの離脱を世界に
向けて宣言したのです。

TPPは安倍首相のアベノミクスの成長戦略の中心であり、これを批准するようトランプを説得することが、今回の訪米の大きな目的であったはずです。

これほど屈辱的な扱いを受けても、政府も日本のメディアも安倍首相の訪米を持ちあげていることは、ちょっと理解に苦しみます。

会談では日米関係全般について意見を交わし、首相側は大統領選でのトランプ氏の言動の真意を探るとともに、日米同盟の重要性も指摘したとみられま
すが、これも含めて次回は、トランプ新大統領が就任した場合、日本にどのような影響が及び、日本はどのように対応すべきかを考えてみたいと思います。

(注1)『スポニチ Sponichi Annex』(2016年11月11日)http://www.sponichi.co.jp/society/news/2016/11/11/kiji/K20161111013699590.html
(注2)(朝日新聞 デジタル:2016年11月18日)http://www.asahi.com/articles/ASJCL2RVXJCLUTFK005.html
(注3)2016年11月25日05時00分  朝日新聞 デジタル http://digital.asahi.com/articles/DA3S12674631.html?rm=150
(注4)http://bylines.news.yahoo.co.jp/shivarei/20161118-00064583/
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ツイッター  大木昌 https://twitter.com/oki50093319

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