ウクライナ侵攻(3)―冷静に”事実”を知る難しさ-
ウクライナと欧米など西側諸国から流れてくるニュースは、ロシア軍は首都のキーウ
(キエフ)から撤退し、そのほかの地域でも、ウクライナ軍が一旦はロシアに制圧さ
れた地区を奪還したことが盛んに伝えています。
その一方で、ウクライナの市民に多大な犠牲が出続けています。
後退したとはいえ、ロシア軍はまだまだかなりの兵力を保持しており、他方、ウクラ
イナのゼレンスキー大統領は徹底抗戦を呼びかけ、実際、多くの市民が戦闘に参加し
ています。
こうなると、闘いは長引き、そして犠牲者は増え続けます。
こうした状況で、主に欧米などのNATOやウクライナ側から、さまざまな“情報”が
日夜流され続けます。
日本のメディアの多くは、「ゼレンスキー 正義」、「プーチン悪者」というスタン
スから、情報と映像を垂れ流しています。
しかし、こういう戦争状態にあるときの、“情報”は多少とも”情報戦“の一環である、と
の冷静な受け止めが必要です。
もう一つ、心理学者の富田氏がウクライナ侵攻に関する報道の仕方に関して警告して
いるように、私たちは、一旦、レッテルを張ってしまうと、そこで思考停止状態に陥っ
てしまうことにも、気を付けなければなりません(注1)。
今は、プーチン・ロシアの残虐・非道を断罪する機運が西側諸国や、日本にも満ち満
ちています。
私も、最近、テレビで日夜流されている映像を見るたびに、ロシアに対する憤りを感
じ、21世紀のこの時代になって、こんな戦争が行われているのか、やりきれない思
いに駆られます。
そして、うっかりすると、「悪者ロシア」を何としても排除しなければ、と冷静さを
失って、思考停止状態におちいってしまいそうになります。
そんな時、『毎日新聞』デジタル版(2022年3月5日)の“「プーチン悪玉論」で済ま
せていいのか 伊勢崎賢治さんの知見”という記事を読んで、虚を突かれたおもいでし
た(注2)。
東京外大教授の伊勢崎賢治さんは、国連メンバーなどとしてアジア、アフリカ、中東に
みずから赴き武装解除などを進めてきた国際法と紛争解決のプロです。
私の帰国では、アフガンでのタリバン対策などに尽力したことなどで、しばしば登場し
た伊勢崎さんを尊敬しできました。
伊勢崎さんが、ウクライナ問題について語った内容には、とても考えさせられました。
伊勢崎さんは、ロシアの行為はひどいものだが、ウクライナを善玉、ロシアを悪玉に当
てはめてロシアを糾弾するだけでは停戦はできない、と言う。
インタビューをした記者に向かって口にした批判はプーチンだけでなく、むしろその矛
先は「プーチン悪玉論」が覆う日本などに向けられていました。
事実は、それほど単純ではない、という。
例えば、ウクライナのゼレンスキー大統領も、僕は責められるべき点はあると思う、と
も語っています。
ロシアの侵攻後は、ゼレンスキー氏は国民に武器を与え、火炎瓶の作り方まで
教えて「徹底抗戦」を呼びかけました。市民をロシア軍に立ち向かわせるとい
うのです。これは一番やってはいけないことです。ロシア軍に市民を敵として
攻撃する口実を与えることになりかねない。戦闘は軍人の領域であって、一般
市民を戦闘に巻き込んではなりません。市民に呼びかけるのなら、非暴力の抵
抗運動です。
私たちは、一般の市民男女や年齢を問わず、自らの意志で武装し、祖国のために闘う姿
をテレビを通じて何度も見てきたし、その度にそのような人たちを英雄として賞賛しが
ちです。しかし、本当にそれは正しいのか否か、考えさせられます。
さらに続けて、
あえて付け加えるなら、ロシアもひどいですが、ウクライナも純真無垢(むく)
の国などではありません。民主派を弾圧するミャンマーの軍事政権に多くの武器
を売却してきたのはウクライナですし、日本が脅威とする中国初の空母「遼寧」
は、もともとウクライナの中古空母を改装したものです。
実は、東南アジアに少しばかり関わりのある私にとって、ずっと気がかりだったのは、
ミャンマーにおいて、軍事政権に対する抗議をする市民やロヒンギャと呼ばれるイスラ
ム系住民をかなり残虐な方法で殺していますが、その軍事政権に武器を売ってきたのが、
ウクライナだったのです。
そもそも、ロシアのウクライナ侵攻そのものが、国連憲章違反である、との議論もしば
しば行われます。これも、決して単純ではありません。
しかし、それでは国連憲章はこのような国家間の紛争に関してどのように規定している
のか、そして、私たちは、その条文に至るまで、どれほど具体的に知っているだろうか?
くわしい、説明は(注2)の記事を読んでいただく他はないが、これまでの、アメリカ
によるベトナム侵攻、湾岸戦争、イラク戦争、アフガン戦争も、全て集団的自衛権を根
拠としており、この点は、今回のロシア侵攻も同じ論理で行われている、ことを具体的
に解説しています。
要するに、事態は、一見するほど単純ではない、ということです。
さて、今回のロシアによるウクライナ侵攻に関して、語るべき問題はたくさんあります
が、私個人としては、何よりも、一国も早く停戦を実現し、無益な殺人を終わらせるこ
とが、最重要で緊急を要する問題です。
そのためには、やはり、アメリカのような大国がその仲介に大きな役割を果たすことが
絶対に必要です。
ところが、この点に関しては、必ずしも楽観できません。というのも、アメリカはこれ
まで、停戦に向けた努力と何ひとつしてこなかったし、これからも仲介に出る方針は打
ち出していません。
それどころか、現在は、武器の供与をさらに増加させています。
確かに、ウクライナの危機を救うためには、武器を供与することは重要かもしれません。
しかし、ウクライナがもっと戦闘を続けられるように、という停戦とは、停戦とは逆の
方向です。
アメリカだけでなく、NATO諸国も停戦への努力よりも、武器の援助に力を入れてお
り、これでは戦争は長引き、死者は増え続いてゆきます。
私は、ウクライナの侵攻に関する最初の記事で、ロシアによるウクライナ侵攻を「大義も
勝ち目もない」戦争と書きました。
しかし、今思えば、他から見ていかに身勝手であれ、ロシアにとっては何らかの「大義」
があったかも知れません。
それを検討することなく、このように言い切ってしまったことは浅はかで反省しています。
ウクライナ問題に限らず、私たちは、多方面から事実を知る努力をすべきで、テレビやS
NSで流されている、“情報”と称するものをただそのまま信じることは危険だということ
を痛感します。
ある情報に接したら、その情報の出所とその信頼性、情報操作なのか否かを、自分で確認
し、判断する必要があることを痛感しています。
(注1)『富田隆のお気楽心理学』Mag2 (2022.03.13) https://www.mag2.com/p/news/531478
(注1)『毎日新聞』デジタル版(2022/3/5 14:00、最終更新 3/6 00:31)https://mainichi.jp/articles/20220304/k00/00m/040/254000c?cx_fm=mailyu&cx_ml=article&cx_mdate=20220305
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戦争を繰り返す人類は、果たしてしんかしているのか退化しているのか
ウクライナと欧米など西側諸国から流れてくるニュースは、ロシア軍は首都のキーウ
(キエフ)から撤退し、そのほかの地域でも、ウクライナ軍が一旦はロシアに制圧さ
れた地区を奪還したことが盛んに伝えています。
その一方で、ウクライナの市民に多大な犠牲が出続けています。
後退したとはいえ、ロシア軍はまだまだかなりの兵力を保持しており、他方、ウクラ
イナのゼレンスキー大統領は徹底抗戦を呼びかけ、実際、多くの市民が戦闘に参加し
ています。
こうなると、闘いは長引き、そして犠牲者は増え続けます。
こうした状況で、主に欧米などのNATOやウクライナ側から、さまざまな“情報”が
日夜流され続けます。
日本のメディアの多くは、「ゼレンスキー 正義」、「プーチン悪者」というスタン
スから、情報と映像を垂れ流しています。
しかし、こういう戦争状態にあるときの、“情報”は多少とも”情報戦“の一環である、と
の冷静な受け止めが必要です。
もう一つ、心理学者の富田氏がウクライナ侵攻に関する報道の仕方に関して警告して
いるように、私たちは、一旦、レッテルを張ってしまうと、そこで思考停止状態に陥っ
てしまうことにも、気を付けなければなりません(注1)。
今は、プーチン・ロシアの残虐・非道を断罪する機運が西側諸国や、日本にも満ち満
ちています。
私も、最近、テレビで日夜流されている映像を見るたびに、ロシアに対する憤りを感
じ、21世紀のこの時代になって、こんな戦争が行われているのか、やりきれない思
いに駆られます。
そして、うっかりすると、「悪者ロシア」を何としても排除しなければ、と冷静さを
失って、思考停止状態におちいってしまいそうになります。
そんな時、『毎日新聞』デジタル版(2022年3月5日)の“「プーチン悪玉論」で済ま
せていいのか 伊勢崎賢治さんの知見”という記事を読んで、虚を突かれたおもいでし
た(注2)。
東京外大教授の伊勢崎賢治さんは、国連メンバーなどとしてアジア、アフリカ、中東に
みずから赴き武装解除などを進めてきた国際法と紛争解決のプロです。
私の帰国では、アフガンでのタリバン対策などに尽力したことなどで、しばしば登場し
た伊勢崎さんを尊敬しできました。
伊勢崎さんが、ウクライナ問題について語った内容には、とても考えさせられました。
伊勢崎さんは、ロシアの行為はひどいものだが、ウクライナを善玉、ロシアを悪玉に当
てはめてロシアを糾弾するだけでは停戦はできない、と言う。
インタビューをした記者に向かって口にした批判はプーチンだけでなく、むしろその矛
先は「プーチン悪玉論」が覆う日本などに向けられていました。
事実は、それほど単純ではない、という。
例えば、ウクライナのゼレンスキー大統領も、僕は責められるべき点はあると思う、と
も語っています。
ロシアの侵攻後は、ゼレンスキー氏は国民に武器を与え、火炎瓶の作り方まで
教えて「徹底抗戦」を呼びかけました。市民をロシア軍に立ち向かわせるとい
うのです。これは一番やってはいけないことです。ロシア軍に市民を敵として
攻撃する口実を与えることになりかねない。戦闘は軍人の領域であって、一般
市民を戦闘に巻き込んではなりません。市民に呼びかけるのなら、非暴力の抵
抗運動です。
私たちは、一般の市民男女や年齢を問わず、自らの意志で武装し、祖国のために闘う姿
をテレビを通じて何度も見てきたし、その度にそのような人たちを英雄として賞賛しが
ちです。しかし、本当にそれは正しいのか否か、考えさせられます。
さらに続けて、
あえて付け加えるなら、ロシアもひどいですが、ウクライナも純真無垢(むく)
の国などではありません。民主派を弾圧するミャンマーの軍事政権に多くの武器
を売却してきたのはウクライナですし、日本が脅威とする中国初の空母「遼寧」
は、もともとウクライナの中古空母を改装したものです。
実は、東南アジアに少しばかり関わりのある私にとって、ずっと気がかりだったのは、
ミャンマーにおいて、軍事政権に対する抗議をする市民やロヒンギャと呼ばれるイスラ
ム系住民をかなり残虐な方法で殺していますが、その軍事政権に武器を売ってきたのが、
ウクライナだったのです。
そもそも、ロシアのウクライナ侵攻そのものが、国連憲章違反である、との議論もしば
しば行われます。これも、決して単純ではありません。
しかし、それでは国連憲章はこのような国家間の紛争に関してどのように規定している
のか、そして、私たちは、その条文に至るまで、どれほど具体的に知っているだろうか?
くわしい、説明は(注2)の記事を読んでいただく他はないが、これまでの、アメリカ
によるベトナム侵攻、湾岸戦争、イラク戦争、アフガン戦争も、全て集団的自衛権を根
拠としており、この点は、今回のロシア侵攻も同じ論理で行われている、ことを具体的
に解説しています。
要するに、事態は、一見するほど単純ではない、ということです。
さて、今回のロシアによるウクライナ侵攻に関して、語るべき問題はたくさんあります
が、私個人としては、何よりも、一国も早く停戦を実現し、無益な殺人を終わらせるこ
とが、最重要で緊急を要する問題です。
そのためには、やはり、アメリカのような大国がその仲介に大きな役割を果たすことが
絶対に必要です。
ところが、この点に関しては、必ずしも楽観できません。というのも、アメリカはこれ
まで、停戦に向けた努力と何ひとつしてこなかったし、これからも仲介に出る方針は打
ち出していません。
それどころか、現在は、武器の供与をさらに増加させています。
確かに、ウクライナの危機を救うためには、武器を供与することは重要かもしれません。
しかし、ウクライナがもっと戦闘を続けられるように、という停戦とは、停戦とは逆の
方向です。
アメリカだけでなく、NATO諸国も停戦への努力よりも、武器の援助に力を入れてお
り、これでは戦争は長引き、死者は増え続いてゆきます。
私は、ウクライナの侵攻に関する最初の記事で、ロシアによるウクライナ侵攻を「大義も
勝ち目もない」戦争と書きました。
しかし、今思えば、他から見ていかに身勝手であれ、ロシアにとっては何らかの「大義」
があったかも知れません。
それを検討することなく、このように言い切ってしまったことは浅はかで反省しています。
ウクライナ問題に限らず、私たちは、多方面から事実を知る努力をすべきで、テレビやS
NSで流されている、“情報”と称するものをただそのまま信じることは危険だということ
を痛感します。
ある情報に接したら、その情報の出所とその信頼性、情報操作なのか否かを、自分で確認
し、判断する必要があることを痛感しています。
(注1)『富田隆のお気楽心理学』Mag2 (2022.03.13) https://www.mag2.com/p/news/531478
(注1)『毎日新聞』デジタル版(2022/3/5 14:00、最終更新 3/6 00:31)https://mainichi.jp/articles/20220304/k00/00m/040/254000c?cx_fm=mailyu&cx_ml=article&cx_mdate=20220305
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戦争を繰り返す人類は、果たしてしんかしているのか退化しているのか