病と心のケア>-がん治療の裏事情-
現在日本の総死亡者数は90万人ほどで,うち,がんによる死亡者は30万人強です。
つまり,3人に1人はがんで死んでいるということになります。
実際,私の周囲で亡くなっている人を考えても,がんによる死亡が多いことに改めて驚きます。
こうなると,がんはもう国民病といっていいほど一般的な病気でとなっています。
がん治療といえば,なかにし礼氏が,初期から進行がんに進む段階にあった食道がんの治療に,手術ではなく陽子線治療を受け,
見事にがんの消滅に成功しました。
なかにし氏の場合,基本的には手術が適用となる症状でした。
しかし彼は27歳と54歳の時,心筋梗塞を患ったため,手術に不安をもったといいます。
陽子線治療は,今後もますます普及してゆくことが考えられます。
ただ,現在は治療費が280万円から300万円ほどかかります。
しかも,この治療ができる医療機関が少ないため,なかなか治療の順番が回ってこない,という問題もあります。
確かに,手術は患部を切り取るという意味では根本治療の有効な方法の一つです。
他方で,手術は体に大きな負担を強いる治療方法でもあります。
このため,手術は成功したが体の抵抗力が弱まり,他の病気を発症させてしまうこともあります。
つい先日亡くなられた中村勘三郎氏は,今年7月に食道がんの手術を受け,その後抗がん剤治療を受けていました。
手術そのものは成功だったようですが,12時間に及ぶ手術は体に大きなダメージを与えたようです。
手術が与えた体へのダメージと抗がん剤による免疫力の低下のため,肺炎を発症してしまいました。
結局,この肺炎が直接の死因となってしまいました。
がんと聞けば,不治の病,激痛,抗がん剤治療の苦しさ,等を思い浮かべます。
これらは,病そのものの性質,それからくる身体的な苦痛です。
しかし実際にはこれらの他に,再発の不安や高額の治療費負担など,心理的,経済的な苦悩や苦労があります。
私はこれまで何人か,がんの手術を受けた人の相談にのってきましたが,一様に再発の不安をかかえていました。
しかし,この不安の他に最近,特にがん患者にとって大きな問題は,経済的な負担と,それにともなう精神的苦痛です。
ある血液がんである慢性骨髄性白血病のがん患者の場合,1錠約3100円(現在は2700円)のグリベッグを1日4錠服用しな
ければなりませんでした。
この他,精神安定剤,睡眠剤,糖尿病治療薬,頭痛薬など,1日分の薬は20錠にもなるそうです。
もちろん,このような高額の医療費に対して,国は高額療養費制度で,一定額事情の医療費がかかった場合には,
所得に応じて上限を定め,それを超えた分を負担しています。
この女性の場合,高額療養制度を使っても年間30万から60万円になります。
このため,この女性は「迷惑をかけているのかな,家族に」という罪悪感も加わって,うつ病も併発してしまいました。
何度も「死」が頭をよぎったそうです。
がんを抱えて生きている人は,ただでさえ再発の不安で精神的に厳しい状況にあります。
それに,経済的な負担が加わるので,二重苦に苦しむことになります。
実際,調査の結果,経済的負担感があったと答えたがん患者で,うつ傾向がかなり強いと評価された割合は21.2%でした。
(以上は『毎日新聞』2012年11月24日)
つまり負担感がなかったという患者の6.6%に比べ3.2倍も多かったのです
がん患者のこうした苦悩にたいして,現在の日本ではどのように対応しているのでしょうか。
日本の医療体制の下では,手術や深刻な病を抱える患者の精神的問題に対応する仕組みがありません。
まず,外科や内科の医者は,病気そのものに関する説明は丁寧にするようになりましたが,
患者の心理的な問題には関わりたくないようです。
したがって,患者が強いうつ傾向やうつ病になったとき,患者は精神科の医師の所に回されることになります。
しかし,外科・内科医師と精神科の医師とが相互に連絡し合い協力して治療にあたることはほとんどありません。
さらに病の身体的な不安だけでなく,経済的不安や個人的な不安にじっくりと耳を傾けるスタッフもいません。
これは,日本の医療システムの欠陥という面の他に,西欧医学の問題でもあります。
まず,日本の医療制度では,カウンセリングに対する評価が非常に低いのです。
これは,カウンセリングに対する保険点数が極端に低いため,多くの医療機関では高額の給与を払ってまでカウンセラーを雇う
ことが出来なのです。
このため,精神科では薬をたくさん処方して保険点数を上げることになります。
これは,患者の経済的負担を大きくするだけでなく,薬の副作用をももたらします。
また,西欧医学では体は体,心は心と,肉体と精神が峻別されていまい,体のケアと心のケアが一体化していません。
日本の医療もこの西欧医学の特徴を受け継いでしまっています。
しかし,同じ西欧医学に基づく医療でも,私が見聞しているオーストラリアのある病院では,日本とかなり違った態勢をとって
います。
この病院では,専属の心理カウンセラーがいて,常に患者の相談にのっています。
私がとても有効だと思ったのは,これらのスタッフが手術を控えた患者さんに,不安を取り除いたり和らげたりするカウンセリング
をしていることです。
ここには,病気治療と心のケアをセットにして考える姿勢が見られます。
日本は,医学の進歩によりがんを徐々に克服すしつつあり,世界でも有数の長寿国となっています。
しかし,このことは同時に,病に長期間苦しむ人が増えることでもあります。
このような事情を考えると,医療における身体的ケアと心のケアの有機的な連携がますます必要委になってくると思います。
現在日本の総死亡者数は90万人ほどで,うち,がんによる死亡者は30万人強です。
つまり,3人に1人はがんで死んでいるということになります。
実際,私の周囲で亡くなっている人を考えても,がんによる死亡が多いことに改めて驚きます。
こうなると,がんはもう国民病といっていいほど一般的な病気でとなっています。
がん治療といえば,なかにし礼氏が,初期から進行がんに進む段階にあった食道がんの治療に,手術ではなく陽子線治療を受け,
見事にがんの消滅に成功しました。
なかにし氏の場合,基本的には手術が適用となる症状でした。
しかし彼は27歳と54歳の時,心筋梗塞を患ったため,手術に不安をもったといいます。
陽子線治療は,今後もますます普及してゆくことが考えられます。
ただ,現在は治療費が280万円から300万円ほどかかります。
しかも,この治療ができる医療機関が少ないため,なかなか治療の順番が回ってこない,という問題もあります。
確かに,手術は患部を切り取るという意味では根本治療の有効な方法の一つです。
他方で,手術は体に大きな負担を強いる治療方法でもあります。
このため,手術は成功したが体の抵抗力が弱まり,他の病気を発症させてしまうこともあります。
つい先日亡くなられた中村勘三郎氏は,今年7月に食道がんの手術を受け,その後抗がん剤治療を受けていました。
手術そのものは成功だったようですが,12時間に及ぶ手術は体に大きなダメージを与えたようです。
手術が与えた体へのダメージと抗がん剤による免疫力の低下のため,肺炎を発症してしまいました。
結局,この肺炎が直接の死因となってしまいました。
がんと聞けば,不治の病,激痛,抗がん剤治療の苦しさ,等を思い浮かべます。
これらは,病そのものの性質,それからくる身体的な苦痛です。
しかし実際にはこれらの他に,再発の不安や高額の治療費負担など,心理的,経済的な苦悩や苦労があります。
私はこれまで何人か,がんの手術を受けた人の相談にのってきましたが,一様に再発の不安をかかえていました。
しかし,この不安の他に最近,特にがん患者にとって大きな問題は,経済的な負担と,それにともなう精神的苦痛です。
ある血液がんである慢性骨髄性白血病のがん患者の場合,1錠約3100円(現在は2700円)のグリベッグを1日4錠服用しな
ければなりませんでした。
この他,精神安定剤,睡眠剤,糖尿病治療薬,頭痛薬など,1日分の薬は20錠にもなるそうです。
もちろん,このような高額の医療費に対して,国は高額療養費制度で,一定額事情の医療費がかかった場合には,
所得に応じて上限を定め,それを超えた分を負担しています。
この女性の場合,高額療養制度を使っても年間30万から60万円になります。
このため,この女性は「迷惑をかけているのかな,家族に」という罪悪感も加わって,うつ病も併発してしまいました。
何度も「死」が頭をよぎったそうです。
がんを抱えて生きている人は,ただでさえ再発の不安で精神的に厳しい状況にあります。
それに,経済的な負担が加わるので,二重苦に苦しむことになります。
実際,調査の結果,経済的負担感があったと答えたがん患者で,うつ傾向がかなり強いと評価された割合は21.2%でした。
(以上は『毎日新聞』2012年11月24日)
つまり負担感がなかったという患者の6.6%に比べ3.2倍も多かったのです
がん患者のこうした苦悩にたいして,現在の日本ではどのように対応しているのでしょうか。
日本の医療体制の下では,手術や深刻な病を抱える患者の精神的問題に対応する仕組みがありません。
まず,外科や内科の医者は,病気そのものに関する説明は丁寧にするようになりましたが,
患者の心理的な問題には関わりたくないようです。
したがって,患者が強いうつ傾向やうつ病になったとき,患者は精神科の医師の所に回されることになります。
しかし,外科・内科医師と精神科の医師とが相互に連絡し合い協力して治療にあたることはほとんどありません。
さらに病の身体的な不安だけでなく,経済的不安や個人的な不安にじっくりと耳を傾けるスタッフもいません。
これは,日本の医療システムの欠陥という面の他に,西欧医学の問題でもあります。
まず,日本の医療制度では,カウンセリングに対する評価が非常に低いのです。
これは,カウンセリングに対する保険点数が極端に低いため,多くの医療機関では高額の給与を払ってまでカウンセラーを雇う
ことが出来なのです。
このため,精神科では薬をたくさん処方して保険点数を上げることになります。
これは,患者の経済的負担を大きくするだけでなく,薬の副作用をももたらします。
また,西欧医学では体は体,心は心と,肉体と精神が峻別されていまい,体のケアと心のケアが一体化していません。
日本の医療もこの西欧医学の特徴を受け継いでしまっています。
しかし,同じ西欧医学に基づく医療でも,私が見聞しているオーストラリアのある病院では,日本とかなり違った態勢をとって
います。
この病院では,専属の心理カウンセラーがいて,常に患者の相談にのっています。
私がとても有効だと思ったのは,これらのスタッフが手術を控えた患者さんに,不安を取り除いたり和らげたりするカウンセリング
をしていることです。
ここには,病気治療と心のケアをセットにして考える姿勢が見られます。
日本は,医学の進歩によりがんを徐々に克服すしつつあり,世界でも有数の長寿国となっています。
しかし,このことは同時に,病に長期間苦しむ人が増えることでもあります。
このような事情を考えると,医療における身体的ケアと心のケアの有機的な連携がますます必要委になってくると思います。