自然とデザイン

自然と人との関係なくして生命なく、人と人との関係なくして幸福もない。この自然と人為の関係をデザインとして考えたい。

疫学調査チームは何のための仕事をしたのか

2015-02-06 21:57:10 | 牛豚と鬼

1) 口蹄疫はどこから日本に侵入したか?
 「口蹄疫の疫学調査に係る中間取りまとめ(以後『中間取りまとめ』と略す)」 p.12には我が国へのウイルス侵入について、「香港、韓国、ロシアで分離された株と非常に近縁であったことから、アジア地域の口蹄疫発生国から人、あるいは物を介して我が国に侵入したと推定される」としている。この程度の報告であれば誰にでもでき、口蹄疫の日本への進入経路について疫学調査チームは何も仕事をしていないことになる。
 口蹄疫ウイルスの遺伝子解析の結果では、日本、韓国、ロシア間の相同性より、いずれの国も香港株と最も近いことが認めらる。しかも香港のウイルスは中国から生体で導入された豚から検出されたという情報もあり、このことを確認するだけで中国からの侵入であることを確認できる。いずれにしても海外からの侵入を曖昧にし、ウイルスの遺伝子の塩基配列の分析で感染経路を追求する基本を守らないことは、疫学調査は何も仕事をしていないというより、感染源を隠蔽していると言わざるを得ない

2)日本に侵入した感染源は何か?
 「ピッグジャーナル」2010年10月号の座談会で「考えられない安さで稲わらを購入している牧場があったという噂が発生直後に聞こえてきました」という発言があり、「正規のルートでないものが入ってきている可能性が否定できないとすれば、それが原因でウイルスを持ち込んでしまうリスクは否定できない」とする会話があった。この席には口蹄疫疫学調査チームの一員も参加していたが、現場での噂が事実かどうかを調査したのであろうか。

a)2000年口蹄疫の感染源に関する報告
 2000年の宮崎口蹄疫の感染源に関する報告は、家畜衛試ニュースに、「現在のところ消去法によって輸入粗飼料が感染源候補として残されている。しかし、膨大な輸入粗飼料から直接ウイルスを分離することは技術的に困難であり、侵入経路については結論が得られていない。」とあるだけ。また、動衛研研究報告のあとがきに、「家畜伝染病予防法改正の参議院における付帯決議は『今般の口蹄疫の発生原因は口蹄疫汚染国からのわらである可能性が高いことから,わら等を介した海外からの口蹄疫の侵入防止策を強化するとともに,畜産物の安全性確保,資源の循環的利用の観点から,国産稲わらの飼料向け利用を促進すること』と述べている。」とある。参議院における付帯決議で「口蹄疫汚染国からのわらである可能性が高い」とする程、重要なことなのに、研究報告がそれを引用するようでは、疫学調査はなされていないことと同じ。

b)「OIEコードの改正に関する意見交換」における「野菜の敷わら(稲わら)」発言
 2000年の宮崎口蹄疫の感染源が、当時は飼料として使われるとは思われていないので、家畜防疫上の検疫の対象外であった「野菜の敷わら」であったことを、「OIEコードの改正に関する意見交換会」(議事録 p.35)」で津田研究管理監(今回の疫学調査チーム長)は指摘している。しかし、この正規のルートではない「わら」に関する記述は2000年の報告にはなく、動物衛生研究所九州支所臨床ウイルス研究室長であった津田氏の報告でも感染源に関しては一切記載されていない。
 過去に経験したこの重要な正規のルートではない「わら」に関する公表を伏せ、今回も噂の事実と口蹄疫発生の関係を調査していないとすれば、疫学調査チームは、ここでもまた感染源について何も仕事をしていないことを繰り返すことになる。否、仕事をしていないというより、疫学調査の最も重要な基本事項であるから、事実を隠蔽したのではないかと疑われても仕方がない

3)個人情報保護法と立ち入り調査権は何のため? 
 口蹄疫の感染が拡大している不安の中で、農家にはどこの農場で口蹄疫が発生しているのかという情報さえ与えられなかった。理由は個人情報保護法のためであるとしているが、これでは農家は風評被害を心配するどころか、どう対処して良いか分からず不安であり、感染拡大の実態を知られるのを恐れたのは県や国だと思われても仕方がない。さらに、口蹄疫発症順を推定しているが、問題とされている大型企業農場(7例目)は口蹄疫発生が確認された4月20日後の、立ち入り調査(4月24日)まで感染の疑いを県に届けていない。そのような農場の自己申告データをそのまま受け入れた4月8日以降を発症推定日として何の意味があるのか。根拠のない感染順を公表することこそ個人情報保護法違反の冤罪であり、本末転倒した法の適用で、県や国が十分な調査や情報の公開をしていないとしたら、感染源と感染経路の隠蔽の罪は重い。

4)なぜ初発農場を水牛農場(6例目)とするのか?
 届け出が遅れた農場の自己申告データは信頼できない。また、立入検査を行った際に自然治癒している家畜やサンプルの採取時期に注意しないと、立ち入った際に顕著な症状を呈している家畜のみから採取した抗体価が、その農場の発症日を示すことにはならない。
 サンプル採取においても、1例目では全頭採取し、7例目では5頭しか採取していない。このように問題の多い疫学調査の結果、初発農場は下記の通り6例目としているが、この発症順が真実であることをどうして論理的に実証できるのであろうか。サンプル(ウイルス)遺伝子の塩基配列の解析をしないで発症順を決定するのもおかしなことだ。いずれにしても海外からの侵入ルートを解明しないで初発農場を強引に推定しても、疫学的には何も意味はない。

                          推定   検体数/  採取   発症
     農場が申告した発症確認日など     発症日   飼養頭数 月日  症状 順
6例目 3/26: 牛2頭発熱と乳量低下,獣医診療  3/26以降  5/42 4/22 治癒  1
1例目 4/7:牛1頭発熱と食欲不振,獣医診療   4/5以降  16/16 4/19 3 2
7例目 4/8頃: 道路側牛舎の複数頭に食欲不振 4/8以降 5/725 4/24 群半分

 まず、申告した発症確認日からは、7例目が1例目より発症が早いと推定するのが普通である。1例目は小規模農場であり、1頭の牛の異状から獣医が診断したのが4月7日であり、申告の日が発症の日に近いと思われるが、これより早い4月5日以降発症と推定している。その一方で、7例目は4月8日頃、道路側牛舎の複数頭に食欲不振と申告しているので、最初の発症はそれよりかなり早い時期と考えるのが普通であるが、申告通りに推定発症日を4月8日以降としている。

 また、抗体検査用の血液採取は、6例目は4月22日に5頭で、すでに全頭が治癒していた。1例目は4月19日に16頭で、この日に3頭目の発症が認められている。7例目は4月24日に5頭で、群の半数に流エンが認められ、その中から検体を採取している。この農場は頭数が多いので、感染が早かった牛は治癒していたと考えられるがその報告はない。また、治癒した牛は別の系列農場に移され、予防的殺処分で証拠隠滅した可能性も否定できない。

 これらのデータ解析は科学的とは言えず、何らかの意図により発症順位が決められているとしか考えられない。

5)死亡牛処理による感染の可能性

 「中間取りまとめ」では、6例目を初発農場であることを前提にして、6例目から各農場に感染しているかどうかを検討しているが、これでは初発農場を6例目にするための調査報告と言わざるを得ない。例えば7例目との関係では、死亡牛の処理に関して次のような説明がある。

 「死亡獣畜処理業者が、当該農場(7例目)の死亡牛も回収していた。(中略)今年に入って1月25日、2月19、22日、3月5、6、22日、4月7日に立ち入っている」が、死亡獣畜処理業者は1例目及び6例目農場を訪問しておらず、死亡牛の処理が(6例目から7例目への)ウイルス侵入の要因となった可能性は極めて低いと考えられる」としている。2月下旬から3月上旬にかけて4頭も死亡牛を処理するのは普通の農場では考えられない異常事態であるが、その原因等には触れず、7例目から6例目への伝搬についても触れていない

 6例目の水牛は食肉処理場への出荷が認められていないため、雄子牛や受胎成績が悪い雌牛は獣医師による安楽殺(直近では3月20日)を実施し、死亡獣畜処理業者(7例目と同じレンダリング業者に搬送)には自家用トラックで持ち込んでいた。7例目とは死亡の意味が違う。死亡獣畜処理業者の車両を介して、6例目から7例目へのウイルスの伝搬はありえなかったが、レンダリング業者と死亡獣畜処理を介して病死した7例目から6例目にウイルスの伝搬があった可能性は十分にある。鋸屑を介しての感染の疑いも強いが、7例目から6例目への感染の可能性について疫学調査チームは検討していないので、何かの意図で作成された報告書としか考えられない。

6)6例目農場に海外からウイルスが侵入した確証はない

 6例目農場の海外からウイルスが侵入した可能性について調査した結果、家畜の導入や出荷、飼料、敷料、その他で当該農場へのウイルスの侵入につながるような情報は確認されなかった。それにもかかわらず農場への来訪者を原因として取り上げ、「これらの訪問者に関する記録はとられていなかったため、外部からの人の移動について、これ以上調査、検証することは困難であり、こうした人の移動によってウイルスが侵入した可能性は否定できない」と強引に、来訪者が海外からウイルスを侵入させた可能性があるとした。韓国からの来訪者が噂されたが、そのような事実もない。6例目が初発農場であるとした根拠はこれのみである

 これは県や国による初発農場のねつ造であり、重大な冤罪事件である。疫学調査チーム長の津田知幸氏は、明石博臣氏とともに牛豚等疾病小委員会委員でもある。明石氏は防疫対策の基本方針、ことに「殺処分を伴うワクチン接種」の問題を隠蔽するために学会活動まで利用して働いた。明石氏と津田氏は共犯が疑われるが、何のために仕事をしたのであろうか。

7)疫学調査チーム検討会の問題点
 この検討会は4月20日に口蹄疫発生が公表された後に開催された第10回牛豚等疾病小委員会で設置か決められたが、情報開示請求で開示された黒塗りの議事録(p.20)では準備された資料の「感染経路究明チームの設置」を「疫学調査チーム」と一般には分かりにくい表現に訂正している。しかも初期の感染源と感染経路の解明は疫学チームの基本であるが、第1回の疫学調査チーム検討会は4月29日に現地で開催することを4月27日に告示している。4月28日に開催された第11回牛豚等疾病小委員会では、「口蹄疫疫学調査チームが、早急に第1回検討会と現地調査を行うことを評価する」としている。とんでもない!遅すぎる!しかも、情報開示請求で開示された黒塗りの議事録(p.28)には、「前回の本小委員会におきまして、早急に口蹄疫疫学調査チームを立ち上げて調査を始めるようにという御意見をいただきましたので、早速調査チームを立ち上げました。・・・ 動物衛生課長からも話がありましたように、あす現地で調査、1例目の発生農場しか行けないのですけれども、1例目の発生農場に行き、その後、現地で第1回のこのチームの検討会を開催する」とある。1例目しか行けない理由は何だ!現地で1例目しか行かない疫学調査に何の意味があるのだ!

 6月7日に第2回疫学調査チームの検討会が開催されているが、この口蹄疫の感染が拡大していた重要な時期に検討概要は報告されていない。しかも第1回と第2回の間の5月18日に、ワクチン接種後の殺処分を検討した牛豚等疾病小委員会が開催されている。疫学調査なくして殺処分を検討できるはずがないが、何の疫学調査を根拠にこの時期に、地域単位の殺処分を決定したのであろうか。もっとも、緊急ワクチン接種も予防的殺処分も、防疫方針に示されていないし、説明もされていない。疫学調査チームの重要な初動調査の役割も決めていなかったのであろう。

   5回目の疫学調査チーム検討会は8月24日に牛豚等疾病小委員会と合同で開催され、「口蹄疫の疫学調査に係る中間整理が公表されている。6回目の検討会は10月12日に開催され、「口蹄疫の疫学調査に係る中間取りまとめ(仮称)」の作成および公表に向けて、引き続き作業を進めるとしながら、その後の検討会は開催されていない。
 「口蹄疫の疫学調査に係る中間取りまとめ」は、誰の権限と責任で公表されたものなのか。これでは疫学調査検討チームは牛豚等疾病小委員会がデッチ上げたダミーの検討会と言わざるを得ない。もっとも牛豚等疾病小委員会も農水省がデッチ上げたダミーのようなものだが。しかも疫学調査は中間取りまとめの段階なのに、検証委員会はなぜ「中間取りまとめ」を根拠にして「最終報告」を提出できるのであろうか。

 なお、口蹄疫発生後8日目に開催された第11回牛豚等疾病小委員会では、10農場の発生が確認され、豚での感染が認められたにもかかわらず、「豚での発生は感染拡大につながりにくい事例と考えられることから、・・・当面は、現行の防疫対策を継続するべきである」と、これが専門家の言うことかと疑う決定をしている。あくまでもワクチン接種はしないという決意なのだろう。

 人の生殺与奪の権を検察が握るのも恐ろしいが、証拠をねつ造してまで、無実の人を起訴した大阪地検の証拠改ざん事件の責任を取り、大林宏検事総長は辞職した。家畜の殺生与奪権を国の家畜衛生に関係する「専門官」が握り、重要な情報を隠蔽したり、ねつ造したとしたら、農場、地域そして国に甚大な被害を与えた彼らの責任も問われることになろう。

注)6例目(安楽殺)と7例目の死亡牛(病死牛)は、最終的に同じレンダリング業者に搬送されています。(2011.1.8 追加)

2010.12.17 開始 2015.1.30 更新


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2 コメント

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先生のおっしゃるとおりですね。 (りぼん。パパ)
2011-01-04 13:18:15
先生のおっしゃるとおりですね。
基本は、すでに、一般に知れ渡っていること以外は、農水省の一部官僚以外には、教えないと言うスタンスなのでしょう。

当然、農水から選ばれた委員ですので、農水に都合の悪いこと、すなわち、動物衛生研究所のデーターなどは、非公開にしたいのでしょう。

公開すれば、農水行政のいい加減さが、解かってしまうからでは?

もう、すべて隠すということのようですので、コメントがしにくいですね。
裁判にでもならない限り、正しい情報は、もう出てこないかも。
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失敗は許されても隠蔽は許されません。家畜衛生に... (satousi)
2011-01-04 21:57:19
失敗は許されても隠蔽は許されません。家畜衛生に関係する委員の一部は関連委員を兼任・重任していますので、単に農水から選ばれた委員というよりは、農水の家畜衛生行政に重要な役割を果たしてきたのではないでしょうか。この人脈と体質を変えないことには家畜衛生行政も変わらないし、若い人も育ちません。また、このままでは新しい防疫方針も出てくる希望もなく、再び惨事を繰り返すことを危惧しています。リングカリングが感染を拡大することや緊急ワクチンは早期に接種すべきことは、韓国の悲劇が実証しています。ノロウイルスの簡易PCR検査を口蹄疫に応用することは技術的には簡単なのに、なぜ開発導入を急がないのでしょうか。これからも簡易PCR検査の開発導入を急ぐように訴え続けます。また、緊急ワクチンの使用を躊躇させているOIEコードの問題点についても考えていきたいと思います。OIEコードは伝染病防疫を理由に貿易を有利にするために利用されてきたことはBSE問題でも経験しました。
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