自然とデザイン

自然と人との関係なくして生命なく、人と人との関係なくして幸福もない。この自然と人為の関係をデザインとして考えたい。

日本獣医学会微生物学分科会長からのメール

2015-02-01 18:14:07 | 牛豚と鬼

 2010年6月4日、日本獣医学会微生物学分科会事務局から分科会長名で分科会員あてに次のメールが送られた。
 「現在実施されている防疫措置は、法律や防疫指針など予め専門家の意見を聞いて取りまとめられたものに従って実施されています。外国の事例や科学的な根拠に基づく批判、意見があったとしても、今はそれを個別に主張すべきタイミングではありません。 (中略) 科学者として、責任ある批判、意見を述べたい場合は、しかるべきルートから、その主張を受け止める能力を有する組織(農林水産省・動物衛生課など)に対して行って下さい。」

 この分科会長は食料・農業・農村政策審議会家畜衛生部会の委員であるとともに、口蹄疫対策の「防疫指針」を策定した家畜衛生部会の牛豚等疾病小委員会の委員でもあり、疫学調査チーム検討会の委員でもある、今回の口蹄疫対策における国の方針を決定した重要な社会的立場にあった明石博臣氏である

 明石氏は5月22日のニュースコメンタリー (リンク2)で、今回宮崎で発生した口蹄疫に対する対策は、OIE(国際獣医事務局)を基に農水省が定めた「口蹄疫に関する特定家畜伝染病防疫指針(防疫指針)」に基づいて適正に行われており、過去の発生事例からの知見が凝縮されているその指針が、現時点での最善の対策であると発言している

 明石氏は「防疫指針」を検討した当時から牛豚等疾病小委員会の委員であるが、事務局から「ワクチンについては、考え方は変わっていないか。摘発・淘汰が基本というのは世界の趨勢であることに変わりないか」という質問に対して、「将来的に感染防御が可能なワクチンが開発されれば別だが、現段階ではスタンピングアウト(摘発・淘汰)方式の考え方は変わらない」と委員側から英国で問題となった防疫方式を踏襲する考えが示された。また、この防疫方針は「少なくとも5年ごとに見直さなければ陳腐化してしまうので、最低限の期間として設定しているもの。状況が変われば方針を見直すことになる」という事務局の説明があったにもかかわらず、その後の見直しはなされていない。

 2001年の英国口蹄疫の大惨事以来、口蹄疫防疫対策に対する世界の考え方は「緊急ワクチン接種により無駄な殺処分を無くす」方向に変わっていた。明石会長からメールを受け取った分科会員の一人は「防疫指針」がワクチン使用の世界の流れを無視していることをメディアを通じて指摘していた山内一也氏である。8月18日に東京で開催された「口蹄疫に関する国際ワークショップ」で、世界口蹄疫レファレンスセンターのリーダー格の研究者から、「なぜ発生確認直後からワクチン接種を行わなかったのか、ワクチン接種動物について感染とワクチン接種の識別を行ったか」削除!?と山内氏と同じ質問があったという

 日本学術会議は8月15日に「口蹄疫発生の検証およびその行方と対策」の公開シンポジウムを開催している。このうち感染源として黄砂の可能性を考えるもの2題、口蹄疫疫学調査チーム長と牛豚等疾病小委員会委員を兼務する動物衛生研究所の津田知幸氏による「2010年宮崎に発生した口蹄疫について」、口蹄疫対策検証委員会委員の村上洋介氏による「口蹄疫ウイルスと口蹄疫の病性について」、東京農工大学教授白井淳質氏による「近年、英国、韓国および我が国で発生した口蹄疫について -とくに感染経路を中心に -」が講演されている。なお、白井氏も現動物衛生研究所の出身であり、バイオカフェでの講演内容等(リンク7)から、山内氏の指摘する第3の選択肢について的確な紹介をしているとは思えない。
 これでは身内で日本学術会議の名を借りたシンポジウムを開催しているようなものであり学問を冒涜している。山内一也氏も招待して科学的な論議をするのがタイムリーであり、科学者として当然の義務、正義というものではなかろうか。しかも、口蹄疫対策検証委員会の獣医・専門家の「身内の情理」は、山内氏の指摘する「防疫方針」の重要な問題について不問に付している

初稿 2010.12.1  更新 2015.2.1(表示日付変更)2015.2.21


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