自然とデザイン

自然と人との関係なくして生命なく、人と人との関係なくして幸福もない。この自然と人為の関係をデザインとして考えたい。

「名誉の殺人」と「予防的殺処分」の相似性

2015-04-16 11:27:53 | 自然と人為
 マララさんのことはノーベル平和賞の史上最年少受賞者としてよく知られている。彼女の活動が「女性に対する教育の必要性」を命懸けで主張したことは知っていたが、その背景に「名誉の殺人」という風習があることは知らなかった。

 「名誉の殺人」とは、「結婚相手を親兄弟の意思と関係なく自ら選んだ女性や、婚前交渉(結婚前の異性交遊・性交渉だけでなくレイプ被害も含む)を行った女性を『一家の名誉を汚す』者として殺害する風習」だそうだ。『生きながら火に焼かれて』のスアドも痛ましい。

 これは父親や兄弟を中心とした家父長社会の風習で、家族の「名誉」を女性が傷つけると世間から排除された。その女性を殺す(排除する)ことで「名誉」は守られ、そうしないと村から家族が排除されることになる。これはイスラム社会の風習だけではない。家父長制の強かった日本でも密懐法(びっかいほう)があり、女性に対しては教育よりも家事が大切にされ、現代でもセクハラ、モラハラ、マタハラ、さらにパワハラなど女性や他者を尊重しないハラスメントが多い。男の常識にとっては「こんなことで何故?」という反応に見られるように、訴えねば事件にもならないハラスメントは無数にあろう。「ハラスメント」という言葉が氾濫していることは、男の常識の「安心社会」が崩壊している状況と見ることもできる。殺人にまでは至らなくても、日本の世間という「安心社会」は内弁慶で外面は優しいが、実のところ身内や従うものには甘いが女性や身内の外にいる他者には冷たい。女性も家父長社会では他者であり、男の安心社会である世間で育ってきたので、日本には憲法で約束された社会が尊重されず、他者を信頼しない風土があることは気に留めておく必要がある。

 女性の「名誉の殺人」は信じられない話だが、そのような世間があることを世界の人が知っておくことも、そして一人ひとりが声をあげることも人間の命と尊厳を大切にする社会の構築にとって重要なことだ。
 マララさんは訴える。「1人の子ども、1人の教師、1冊の本、そして1本のペン、それで世界を変えられます。教育こそがただ一つの解決策です。」

 牛豚の「予防的殺処分」 (口蹄疫防疫指針p.43)も動物を愛する我々にとっては信じられない話である。「名誉の殺人」と「予防的殺処分」の類似性を論じることは不謹慎だとコメントされそうだが、人間だけではなく家畜や自然を含めて我々は相互依存の世界に生きている。 自他同一の感性(相互依存性)を尊重しない原点において、家父長(支配者)が決定することに疑問を抱かず従い、他者に対する異常と思える行為がその世間で常識とされている点でカタチが似ている相似形である。このブログではお世話になっている家畜を殺処分しないで感染拡大を阻止する方法を考えている。「予防的殺処分」とは口蹄疫に感染していなくても、その恐れがあるというだけでワクチンを接種して殺処分をした宮崎口蹄疫の防疫措置(宮崎口蹄疫事件)のことで、これを見直さず今後もさらに続けようとしている方法である。

 獣医界の家父長である獣医師会や獣医学会の指導者や官僚が決めた「予防的殺処分」には誰も異を唱えないし、専門家はその問題を誰も説明しようとしない。家父長の指示や獣医界の風習に背くと、その組織から排除されるので、世間の空気に従わざるを得ないのであろう。「名誉の殺人」が問題だと言う人がいないほどその世間では常識となっているように、「予防的殺処分」に何も疑問を持っていない人が獣医界には多いということもあろう。備蓄ワクチンを直ちに使わなかったことを問題視せず、殺処分を当然のこととし、殺処分に関わる獣医が少なすぎるとし、殺処分の方法に改善すべき点のあることを強調する家父長もいた。動物の命を守るのが獣医の仕事なのに、牛や豚の産業獣医の世間はなんとむごい仕事を強いられていることよと思うが、獣医界から「予防的殺処分」を廃止せよという声は聞こえてこない。その上、家畜にお世話になっている畜産界も獣医界が支配しているらしい。ここは専門外の素人が「ワクチンを接種して何故殺すの」という素朴な疑問から海外の文献等を調べて、殺処分を最小にする方法があることを発言するしかない。さらに、現場の畜産関係者や市民が新しい防疫体制の構築に参加するために、「口蹄疫対策民間ネット」を提案したが反応はなく、ブログは共同作業の場にはならず一人のつぶやきの世界だと悟っている。信頼より安心社会に育った私たちには、この見えないネットでは他者への信頼は育たないのだろう。それでも国民の税金で仕事をさせていただいた学者の一人として沈黙は許されない。1本のペンで訴えて畜産界から排除されるより、そんな世間からは出家をしたい。

初稿 2015.4.16

最新の画像もっと見る

9 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (中津川)
2015-04-17 23:40:49
三谷さんが引用されていたScience掲載論文を読みました。と言っても、本編のみで、Supplementaryの部分は読み終えていないのですが。正直言って、統計には疎いので、何故あのような結論が導き出されたのか、理解出来ていません。しかしながら、これまでの通説よりも、ウイルスに感染した牛が感染源となる期間は短い可能性があるということは理解出来ました。

ただ、著者自身も記載しているように、やはりさらなる検証は必須かと思います。使用しているウイルス株も一種類ですし、試験の設定上、仕方ありませんが、感染牛との接触時間が8時間と一設定のみというのも、現実の農場の状況と比べるとかなり限定的な設定かと思います。現実的には、感染動物との接触時間は様々でしょうし、また複数の個体の間で、連鎖的に感染が繋がっていくことも想定されますから。あくまで、一頭対一頭の接触での成績と理解しています。

その他まだいくつか議論したい点もありますが、本日はこの点だけ。Science掲載論文は非常に興味深いと思います。しかしながら、その他の条件設定は必要かと思いますし、他の方々の試験成績とも比較してみたいです。
返信する
Unknown (三谷克之輔)
2015-04-18 20:59:04
畜産システム研究会報第35 号の表3~表6は
http://milky.geocities.jp/satousi1/35FMDmitani.pdf

次のCharlestonの資料をまとめたものです。
http://milky.geocities.jp/satousi1/CharlestonSOM.pdf

現在、4月20日までに発表するブログ2編を作成中です。それを投稿したら意見交換をしましょう。
返信する
Unknown (中津川)
2015-04-19 09:27:51
資料のご紹介ありがとうございます。私の言っていたScience掲載論文のSupplementary部分は正にこれです。読み進めていき、統計解析の部分まで来て、理解出来ずに固まってしまいました。ここの部分を理解出来れば、さらに楽しく論文を読むことが出来たと思うのですが。

この論文の内容に関する私の追加の意見としては、感染牛が他の牛に対する感染源となる可能性のある期間の記載に関してです。解析によって、平均2日未満というのは間違いないのでしょうが、とかく数値は一人歩きしやすいです。そのため、最大で何日程度の可能性があるという記載があった方が良いと思いました。それから、ドナー牛との同居により感染が成立した牛に関しても、ドナー牛と同様の表に成績の提示があった方があると、さらに良いのかなと思いました。

後は、牛以外の動物種での発生が先行した発生例が海外ではありますので、豚や羊、山羊を用いた同様の試験、さらには異なった動物を用いた同様の試験を行なうとさらに興味深い成績が得られるのかなと思いました。

とは言え、この論文の内容を受けた三谷さんの、迅速な感染動物の摘発とその後の対応が必要というのは全くその通りだと思います。何かコメントがあれば、よろしくお願いします。その後は現場での診断体制に関して議論したいと思っています。
返信する
Unknown (中津川)
2015-04-21 19:39:38
20日が過ぎましたので、以前にお約束頂いた通り、意見交換を再開して頂けると嬉しいです。
まずは、例のScience掲載論文に関する、上記の私のコメントに対して、三谷さんのご意見を聞かせて頂けないでしょうか。
よろしくお願いします
返信する
Unknown (三谷克之輔)
2015-04-22 12:13:43
実験は限られた施設、時間と予算の範囲で、いかに多くの情報を引き出すかで評価されます。また、実験で得られた原データーを公開(p.17-20)していることも、
http://milky.geocities.jp/satousi1/CharlestonSOM.pdf
統計を知らない人が成果を利用でき、これからの研究のあり方を示した素晴らしい論文だと思います。
この成果は畜産システム研究会報第35号,p.44-46.
http://milky.geocities.jp/satousi1/35FMDmitani.pdf
に紹介していますが、口蹄疫ウイルスを接種して48時間後の接種感染牛と健康牛を確実に感染する条件の湿度98%の部屋にに24時間同居させることで8頭の感染牛(ドナー)をつくり、このドナー感染牛を健康牛を同居させて8組の感染試験を実施しています。
私がこの論文で教えられたことは、まず接種感染牛と24時間同居させると、体温や抗体が上昇して感染の証拠は全牛に認められるが、血中ウイルスが遺伝子検査で確認できず、同居牛も感染しなかった牛が1頭(No.8号)いたことです。同居時間を延長すれば感染力も増したかも分かりませんし、飼育規模が大きければ大きいほど感染の可能性は高くなるでしょう。そういう条件の検討よりも、この論文は血液の遺伝子検査で感染を早く見つけ感染拡大を阻止できることを示しています。ウイルス株の違いによる感染力の差の問題については、ワクチンバンクに保管されている濃縮抗原から選択して緊急ワクチンを速やかに輸入して接種することで対応できます。多頭飼育で全頭殺処分しても感染拡大を阻止できず、緊急ワクチン接種で感染拡大を阻止すべきだという根拠になる論文です。
返信する
Unknown (中津川)
2015-04-22 21:37:56
No.8号は、発熱や抗体の上昇が認められて、感染が確認されたにもかかわらず、血中ウイルスが遺伝子検査で確認されませんでした。それでも、やはり遺伝子検査の材料は血液が良いのでしょうか?
返信する
Unknown (中津川)
2015-04-22 21:53:01
すみません、間違って途中で投稿してしまいました。

三谷さんも解説されているように、ウイルスは局所で増えて、血流に入るので、局所由来の材料、具体的には唾液や鼻汁の方が、感染個体を早期発見するために向いていると思うのですが、いかがでしょうか?
返信する
Unknown (三谷克之輔)
2015-04-23 12:02:01
ご指摘のように感染を早く見つけるには唾液や鼻汁よりは咽頭スラブの検査が良いという結果が示されています。他者への伝染時期を見つけるのは血中ウイルスの遺伝子検査が良いということです。県の病性鑑定では、これに抗体検査を含めて感染の実態を調査したらいかがでしょうか。
返信する
Unknown (中津川)
2015-04-23 12:49:43
感染個体ではなく、感染源となる可能性のある個体を、血液を材料に検査をして見つけると言うことですね。また、その血液を抗体検査にも利用すれば、材料の有効利用になると。

非常によくわかりました。ありがとうございます。
返信する

コメントを投稿