自然とデザイン

自然と人との関係なくして生命なく、人と人との関係なくして幸福もない。この自然と人為の関係をデザインとして考えたい。

科学とワクチン接種を拒絶し続ける「日本の口蹄疫防疫指針」

2015-09-07 12:07:10 | 牛豚と鬼
 このブログ「口蹄疫(FMD)情報検索の理由」 (2015.7.15)で、「韓国は2015年6月19日にOIEに発生が終息したことを報告し、緊急輸入したワクチンの効果が明確に認められたこと、ワクチンを接種しているので症状の認められた家畜の殺処分だけで感染拡大が阻止できたこと」を指摘し、日本の口蹄疫発生の原因をまとめましたが、それまでも「日本は「生かすための緊急ワクチン」を拒否し続けるのか」と「韓国における口蹄疫発生とワクチンの効果について」等を発表し、早期発見とワクチン接種が口蹄疫対策で最も大切なことをいろいろ主張してきました。

 しかし、「口蹄疫に関する資料」を下記のように追加訂正したように、
 6. 新しい口蹄疫対策防疫指針(2011.10.1)
  口蹄疫に関する特定家畜伝染病防疫指針(変更案)
  食料・農業・農村政策審議会 第24回家畜衛生部会 配付資料一覧 議事録(2015.6.16)
平成27年(2015年)6月16日に開催された第24回家畜衛生部会では、英国口蹄疫発生(2007年)で示された「ワクチン接種待機態勢」を全く無視した口蹄疫防疫指針の変更案が提案されています。
 なお、牛豚等疾病小委員会は第20回(平成24年6月21日)以来開催されていませんでしたが、
新しい委員
の下で次の通り開催されています。
 第22回(平成27年4月30日) 配布資料 議事録
 第21回(平成27年3月 2日) 配布資料 議事録
第21回での検討は、村上小委員長「口蹄疫の防疫訓練などを通して、問題点や改善点などが見えてきている。プランを立て、実行、検証し、そして改善していくというサイクルの一つとして、本日以降議論を深めていただきたい。」とし、都道府県での「口蹄疫早期発見検査システムとワクチン接種待機態勢の準備」については検討の課題にされていません。また、川島動物衛生課長「ワクチン接種はできるだけ打たないようにするというのは基本で、ワクチン接種家畜を生かしていくという方針はなかなか難しい。」とし、殺処分のためのワクチン接種をいまだに前提にした防疫指針を提案しています。

 第15回家畜衛生部会(2011.7.26)では、山崎委員「殺すためのワクチンではなく、生かすためのワクチンを考えてほしい。(p.25~26)」に対して川島課長「殺処分だけではない対応をしている韓国の事例ももう少し研究したい。(p.27)」と答えていますが、その後、韓国が緊急輸入したワクチンにより口蹄疫が終息したことは全く検討されていません。韓国の報告が今回の提案に間に合わなかったのなら、再検討すべきでしょう。なお、今回の宮崎口蹄疫事件で某大型経営の問題を隠ぺいした研究者は所長に昇格していますが、当時の行政責任者である動物衛生課長も大臣官房審議官に昇進しているようです。口蹄疫対策の権限と責任は国にあるにもかかわらず、30万頭の家畜の処分の損害に誰も責任をとらず、権限と責任で準備すべき検査やワクチン接種体制を検討せず、防疫訓練に見られるように農家や現場の方々に責任を押し付け、責任者は昇進するこの国の常識のおかしさを感じます。

 養豚は規模が大きく回転が速いので、健全な口蹄疫対策よりは殺処分による補償を求めるために、ワクチン接種をしないで、あるいはワクチン接種して全頭殺処分する防疫指針を支持しているのでしょう。
 しかし、日本の飼養環境から豚が初発例となることは考えにくく、また外国からの訪問客が感染源になることも考えられません。これまでも中国から安く輸入されたワラ類が感染源として疑われてきましたが、感染源と感染経路の究明は科学的に可能であるにもかかわらずなされていません。さらに、口蹄疫の備蓄ワクチンには国内に備蓄されているワクチンと英国に保管されている濃縮抗原がありますが、その使い方については国民に一切説明されていません。国内で口蹄疫が発生したら、そのウイルス株に最も近い濃縮抗原からワクチンを製造し1週間もあれば輸入できることは韓国の例が教えてくれます。
 日本の獣医学は科学ではない何者かで動かされているようで、英国を含むEUの口蹄疫の防疫体制も無視し続けています。

 豚の口蹄疫発生を予防するためには、牛の飼育密集地帯と離れた場所で飼育し。ウイルスの増殖を抑えるために早期発見の検査システムを都道府県単位で実施できる体制を準備すべきです。牛は里山管理のために放牧し、そこに多くの方が見学等で出入りすることが地域の活性化にも獣害対策にも必要です。しかし、現在提案されている口蹄疫防疫指針では、地域の資源活用、環境と共同体を守るための放牧による里山管理に人が集まることを拒絶しているのと同じことです。

 獣医学では経済とは利益の追求のみだという確信があるのでしょうか。利益の追求とは経営の利益や国益の追及であり、研究費や人員やポストの追及も考えられます。しかし、組織や国に主体はありません。経営も国も、研究費や人員やポストもそれを支配する者が必ずいます。その支配者になる欲望と権限は国民主権に従う謙虚なものでなければ国は腐敗してしまいます。現在提案されている口蹄疫防疫指針では、個々の経営の利益にも国益にもなりません。今、時代に求められている人間を含む自然を重視した経済発展にも全く逆行した考え方です。地域や自然を大切にする獣医学であって欲しいと思います。

初稿 2015.9.7

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