自然とデザイン

自然と人との関係なくして生命なく、人と人との関係なくして幸福もない。この自然と人為の関係をデザインとして考えたい。

宮崎口蹄疫事件から5年~誰も責任をとらない中空構造⑦

2015-04-20 11:58:51 | 中空構造
 口蹄疫対策検証委員会の委員であった郷原信郎弁護士は、衆議院農林水産委員会(2010年12月8日)に参考人として出席し、宮崎口蹄疫の「徹底した殺処分」は、「家畜の健康」を守るためなのか、あるいは「人の健康」に影響が生じるからか、そうではなくて、清浄国という一つの評価を維持することの経済的なメリットが重要なのか、関係者で問題の本質の認識が一致していないことを指摘しています。(このことは我が国の口蹄疫対策と海外専門家の評価(2010.12.13)でも指摘しています。)

 この認識の不一致は多数決で決められる問題ではありません。まず、ワクチン接種して殺処分したことは口蹄疫の発生源を隠蔽するために実施した国と県の犯罪であり、欧州家畜協会からの緊急声明「生かすための緊急ワクチン接種を!」を無視した最低最悪で、あってはならない言語道断の防疫措置です。次に口蹄疫は人の健康には被害を与えませんから殺処分の理由からは除外できます。また、感染防止のために殺処分することは、規模拡大が進んだ今日の経営では時間が掛かり、感染阻止はできないで被害を大きくするだけなので、これも、「家畜の健康」を守る理由からは削除できます。さらに家畜用のワクチンは人間用よりも感染阻止の効果は大きいので、ワクチンバンクを使用できる今日、殺処分を少なくするためにワクチンを速やかに使わない理由はありません。

 次に口蹄疫清浄国への復帰を急ぐ経済的なメリットについて検討してみましょう。
 2010. 4.30 香港への牛肉輸出再開
 2010. 5.11 マカオへの牛肉輸出再開
 2010. 6.30 ワクチン接種畜の殺処分・埋却終了
 2010. 7.27 全ての移動制限解除
 2010. 9.22 清浄性確認終了
 2010.10.16 OIE清浄国復帰申請
 2010.11.12 シンガポールへの牛肉輸出再開
 2011. 2. 5 OIE清浄国復帰認定
 2012. 4.25 カナダへ牛肉輸出再開
 2012. 8.18 アメリカへ牛肉輸出再開

 OIEコードでは、清浄国で口蹄疫が発生した場合の清浄国復帰の条件として、(a)感染・疑似患畜をすべて殺処分した後3ヶ月、(b)感染・疑似患畜とワクチン接種家畜をすべて殺処分した後3ヶ月、(c)感染・疑似患畜とNSP抗体陽性家畜をすべて殺処分した後6ヶ月という3つの選択肢を示しています。今回の宮崎口蹄疫では(b)を選択したことになりますが、6月30日から3ヶ月後が清浄国復帰の条件になります。なぜ、清浄国復帰の申請が10月16日と遅かったのでしょうか。清浄国復帰を急ぐならば何故、7月27日の移動制限解除までに清浄性の確認を終了しなかったのでしょうか。しかも口蹄疫清浄ステータス回復と輸出再開でも山内一也先生が指摘されたように「OIEによる清浄国復帰が認められても、国際貿易では世界貿易機関(WTO)のSPS協定(衛生と植物防疫のための措置)にもとづいて、輸出相手国と個別に協議して清浄性を認めてもらわなければなりません。」

 香港、マカオ、シンガポールには、OIEが清浄国復帰を認定する前に輸出を再会していますが、アメリカはOIEの清浄国認定後輸出再開まで1年半も必要でした。すなわちOIE認定条件の(b)と(c)の差は3ヶ月しかありませんので、ワクチン接種して全殺処分をしてOIE清浄国復帰を急ぐ効果は認められていません。ましてや輸出依存国ではない我が国が予防的殺処分で2000億円以上の被害を出してまで、清浄国認定を早く回復する経済的なメリットは全くありません。
 
 家畜の命を救いたいという庶民の声を政府は聞かないでしょうから、貿易に有利なルールとして「遺伝子検査陰性、抗体検査陰性、ワクチン接種否定」の3条件を証明できれば輸出できるようにOIEコードを改正したらいかがでしょうか。アメリカは大量輸出していますから反対するでしょうが、この方法で口蹄疫発生中でも輸出はでき、貿易を防疫より優先させる馬鹿げた理由はなくなります。BSEの全頭検査よりも容易なこの方法を日本のブランドにすれば、OIEコードに採用されなくても日本の牛肉ブランドの信頼を高めることにもなるでしょう。ワクチン接種したら感染源を隠すことになるのではなく、ワクチン接種して殺処分をしたら感染源を隠すことになると思いますが、こんな論争はもうしたくありません。視点により同じ言葉でも180度意味が違ってきます。積極的平和主義を強調すると敵と想定されて警戒する相手を積極的に増やすだけです。世界の正義だと過信して世界に敵を多く作ってきたアメリカに従属して戦うことは、憲法を改正して日本人の命と信頼が奪われることになると心配していますので、これからはそちらのつぶやきを続けさせていただきます。

「宮崎口蹄疫事件」から5年を意識して下記の「誰も責任を取らない中空構造」シリーズを投稿しておきました。また、畜産システム研究会報にも論文を投稿しています。このブログの移転に伴う更新が必要なブログの箇所や文字化けの箇所はゆっくり訂正させていただきます。

猛威を振う鳥インフルエンザ、そして口蹄疫~誰も責任を取らない中空構造①
国・県の水牛農場冤罪事件を許すな!~誰も責任を取らない中空構造②
備蓄ワクチンと国費の無駄遣い~誰も責任を取らない中空構造③
病性鑑定資料のねつ造と国・県の共同謀議~誰も責任を取らない中空構造④
世間と社会~誰も責任を取らない中空構造⑤
「武士道」と「茶の本」 ~誰も責任を取らない中空構造⑥

畜産システム研究会報
口蹄疫の被害最小化対策を考える.畜産システム研究会報第34号,11-45.(2011.2) 引用文献
口蹄疫被害最小化のためのマネジメント -遺伝子検査とワクチン接種- 畜産システム研究会報第35号,39-63.(2011.12) 引用文献 16. Charleston Online Material

初稿 2015.4.20 2015.4.21 更新









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19 コメント

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Unknown (中津川)
2015-04-24 23:07:40
三谷さんの想定として、ワクチン投与後の識別ELISAキットは、何頭分を用意しておくべきとお考えでしょうか?
また、その識別ELISAキットを用いた血清サーベイは、開始から何日以内に終了させるべきでしょうか?
ご意見を聞かせて頂けると幸いです。
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Unknown (中津川)
2015-04-25 06:29:43
連投失礼します。
この手の内容は、各地域の農家数や飼養頭数を把握している方(おそらくは家保の方)に質問すべき話でした。
質問を取り下げます。大変失礼しました。
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Unknown (三谷克之輔)
2015-04-25 13:38:16
口蹄疫は早く感染の状況を知れば怖くない伝染病です。皆さんで理解し合って殺処分を最も少なくする方法が日本で採用されることを祈っています。
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Unknown (今西)
2015-04-27 00:03:24
ワクチンを接種してもウイルスを保有している可能性がある牛がいるため、他の多くの農家にも被害が飛び火する可能性をなくすために殺処分したのだと私は思っています。
しかし、殺処分後の追加調査として感染源は明らかにしないと今後が心配ですね。
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Unknown (三谷克之輔)
2015-04-27 19:24:48
あなたは「生かすためのワクチン接種」を拒否されるのでしょうか。専門家の説明は「名誉の殺人」的だと思いますが、もう一度理性と感性の両面から考えてください。ワクチンを接種した家畜が感染源になることは、実験的に証明されているのでしょうか(理性)。家畜の命を救いたいのでしょうか、根拠もないのに殺処分したいのでしょうか(感性)。

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Unknown (中津川)
2015-04-28 21:17:42
ワクチン接種動物が、感染源になることは、実験的に証明されていますし、論文として発表されています。その点はお間違いなきように。
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Unknown (中津川)
2015-04-29 06:57:20
昨日の発言の補足です。

とは言え、その事実は別にワクチンの効果を否定するものではないと考えています。ワクチンのそのような特性を理解した上で、防疫対策に有効利用する方法を考えていくべきだと思います。
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Unknown (三谷克之輔)
2015-04-29 12:40:50
「ワクチン接種動物が、感染源になることは、実験的に証明されていますし、論文として発表されています」とのことですが、どのような条件で感染源になるのか勉強したいので、論文名、投稿雑誌等を教えてください。
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Unknown (中津川)
2015-04-29 17:04:32
文献検索サイトで、「foot-and-mouth disease」、「vaccine」および「reproduction ratio」の用語で検索されてくる論文あたりが、まずは良いのではないでしょうか(探せば他にももう少しあるような気もしますが)。

参考になれば幸いです。
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Unknown (三谷克之輔)
2015-04-30 20:27:41
ご指摘のキーワードで検索しました。これから勉強させていただきますが、ワクチン接種畜が感染源となることを実験で証明した論文はどれでしょうか。ワクチンとウイルスを接種してドナーとした感染実験だと思いますが、その場合にワクチン接種、ウイルス接種、感染試験の時間的な扱いはどうなっているのでしょうか。ワクチンの効果は集団における感染の拡大阻止ですから、ワクチン接種畜が感染源となることを、どのように実験的に証明したのかを知りたいと思います。
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