鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

枯木象嵌図鐔 林

2010-05-22 | 
枯木象嵌図鐔 林


枯木象嵌図鐔 無銘林

 唐草が生命の強さを意味しているとすれば、枯木象嵌はその終焉の姿を意匠したものと言い得よう。植物の枯れて朽ちてゆく様子を題に得るということは、その背後に来年の春には再び芽を出し葉を茂らせることへの期待もある。そのような古典的な春秋の意識よりもむしろ、江戸時代には、枯木さえも生け花の要素として採り入れられたように、そこに美を感じる意識があることは間違いない。茶室の飾りは、過ぎることなく客人を楽しませることにある。花が多過ぎては時にわずらわしくもあり、一つの華を活かすために他の花を摘み取って客人を迎えた茶人もあったという。枯れた風情が茶の湯の美意識に採り入れられたこともある。必ずしも生気にみちた様子が好まれているわけではない。
 枯れた風情にも華を感じるのが肥後金工。この鐔の表面は鎚目地仕上げで微妙な抑揚があり、これが枯木象嵌の美しさを感じさせるにほど良い風合い。木瓜形の造り込みながら櫃穴にも枯木の要素を採っているが、これは過ぎたかもしれない。簡潔な板鐔仕立てのほうが枯木の美観が引き立てであろう。だが、この鐔も充分すぎるほどに美しい。