葬儀で急きょ串本へ。
先日、串本小学校で同級生だった佐藤君(仮名、以下同じ)に出会った。
「佐藤君」
と呼びとめたが、相手はわからない様子。
「小学校時代、同級生やった神田です」
と言ったが
「覚えてないなあ」とすまなさそう。
これにはがっくり。
( 串本の町 )
今日はバイクで走っていて、吉田君に出会った。
彼とは小学校時代よく遊んだ仲間の一人。
ただ、彼は十代の半ば、不幸にも精神を病んでしまったと聞く。
そんなわけで、ここ最近も見かけたが、声をかけずじまい。
今日は道端に座り込んで何やら独り言を言っていた。
思い切って彼に声をかけてみた。
めがねを外し、
「吉田君やね」
「そうや」
「ぼくを覚えたある?」
「覚えたあるよ」
「誰やった?」
彼は少し考えて
「神田○○」
エッ、とぼくは驚いた。
あれから何十年、彼はぼくの姓だけでなく、名前までも憶えていたのだ。
そのあと、彼はわけのわからないことを繰り返し話した。
残念ながら、あきらめて去るしかなかった。
が、そのあと思った。
ひょっとすると、彼の世界はあの頃のまま、時間が止まっているのかもしれない。
あとは今日までの長い時間、真空のままなのでは、と。
紺のかすりの綿入れを着ていた吉田君。
「キン」とぼくらが呼びならわした吉田君。
放課後、毎日遊びまわった串本の海、山のこと・・・。
( 海の見える道 )
君が病んでいなければ、尽きない話をしたろうに。
とても悲しいけれど、せめて平安であってくれよ。