稲村亭日乗

京都の渓流を中心にルアーでトラウトを釣り歩いています

吉田君のこと

2013年10月06日 | 日々

 葬儀で急きょ串本へ。

 先日、串本小学校で同級生だった佐藤君(仮名、以下同じ)に出会った。
「佐藤君」
 と呼びとめたが、相手はわからない様子。

「小学校時代、同級生やった神田です」
 と言ったが
「覚えてないなあ」とすまなさそう。 

 これにはがっくり。


  ( 串本の町 )

 今日はバイクで走っていて、吉田君に出会った。

 彼とは小学校時代よく遊んだ仲間の一人。

 ただ、彼は十代の半ば、不幸にも精神を病んでしまったと聞く。

 そんなわけで、ここ最近も見かけたが、声をかけずじまい。

 今日は道端に座り込んで何やら独り言を言っていた。

 思い切って彼に声をかけてみた。
 めがねを外し、
「吉田君やね」
「そうや」
「ぼくを覚えたある?」
「覚えたあるよ」
「誰やった?」
 彼は少し考えて
「神田○○」

 エッ、とぼくは驚いた。
 あれから何十年、彼はぼくの姓だけでなく、名前までも憶えていたのだ。
 そのあと、彼はわけのわからないことを繰り返し話した。

 残念ながら、あきらめて去るしかなかった。

 が、そのあと思った。
 ひょっとすると、彼の世界はあの頃のまま、時間が止まっているのかもしれない。
 あとは今日までの長い時間、真空のままなのでは、と。

 紺のかすりの綿入れを着ていた吉田君。
「キン」とぼくらが呼びならわした吉田君。
 
 放課後、毎日遊びまわった串本の海、山のこと・・・。


  ( 海の見える道 )


 君が病んでいなければ、尽きない話をしたろうに。

 とても悲しいけれど、せめて平安であってくれよ。
 
コメント
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