トンネルの向こう側

暗いトンネルを彷徨い続けた結婚生活に終止符を打って8年。自由人兄ちゃんと天真爛漫あーちゃんとの暮らしを綴る日記

とても悲しかった日

2008-10-10 23:37:37 | 
お兄ちゃんが布団を敷きながらあーちゃんに話し始めた。

『まだ、あーちゃんが生まれていなかった頃にね、お母さんと自転車に乗って
○ーカドーに行ってね、その帰りにお母さんが自転車で転んじゃったんだよ。
それでね、家に帰ったらお母さんが腫れた足をさすって泣き出したんだよ。
お父さんが帰ってきたんだけどお母さんが『行かないで』って言って
僕を抱きしめて兄ちゃんはお父さんの所へ行けなかったんだ。』

『ねえ。覚えてる?お母さん』

『あー。そんな事もあったね。』


お兄ちゃんの記憶の中ではあの日は○カドーに遊びに行った帰りになっているんだね。

息子が5歳の頃、不正出血と発熱と下腹部痛に突然襲われて、自転車に乗って
産婦人科の病院へ行った。

そこで『重い淋病ですよ。ご主人も一緒に薬を飲まなくてはいけないですよ。』

そう言われた。
3度目の性病だった。

借金が発覚し打ちのめされそれでもなんとか立ち直り
元夫ともう一度やり直そう、子供も2人目を作ろうと決心した矢先の出来事だった。

ただ、屈辱と情けなさで病室を出ると幸せそうな妊婦さんと
産まれたばかりの赤ちゃんを抱いて退院の準備をするお母さん達の姿があった。

待合室でひとりで遊ぶお兄ちゃんが振り向いて走ってきた。

その手をしっかり握ってお金を払い薬を貰って逃げるように病院を後にした。

自転車をこいだ。冷たい秋風が吹く中をただひたすらこいだ。
熱が上がって目の前がフラフラしていた。

お兄ちゃんが乗りたての自転車で必死についてきていた。

振り向いたと同時に地面に叩きつけられた。

痛さは感じなかった。
周りの人の不信そうな目が哀れんでいるようで惨めだった。

とにかく家に帰りたかった。

やっとの想いで家に着いた。
這うようにして家に入った。

下腹部は絞られるように痛み、
心は痺れたように何も感じなかった。

そーっとジーパンをめくると転んだ足は真っ黒に腫れ上がっていた。

こんなに腫れているのに傷みはまるで感じない。
不思議だなと他人事のようにその足をさすった。

息子が小さな頭で覗き込んだ
『わあ。真っ黒だね。お母さん、大丈夫?』


『うん。うん。大丈夫だよ』そう言ったら頭の中がぎゅっと熱くなった。

暗い夕闇が迫る部屋で電気も点けずに息子を抱きしめて泣いた。
『おーい。おーい』と泣いた。

そこへ元夫が帰ってきた。
泣き出した私に怯えた息子は『お父さんに知らせてくる』と立ち上がった。

私は息子を膝に乗せ抱きしめて離さなかった。
何かにつかまっていないとガラガラと壊れてしまいそうだった。

あの日。

『ねえ。覚えてる?』お兄ちゃんがもう一度聞いた。

『あー。2度と思い出したくない一日だね。離婚して本当に良かったって思える1日だよ』

『そんな事言うなよ。俺は離婚して欲しくなかったんだからさ』

『そうかい。じゃあ。お母さんはあの日を忘れるよ。お兄ちゃんも忘れちゃいな。』

あの日。

今もはっきり覚えている。

先には闇しか見えなかったあの日を。

消えてしまいたいほど悲しかったあの日の事を。




最新の画像もっと見る

コメントを投稿