トンネルの向こう側

暗いトンネルを彷徨い続けた結婚生活に終止符を打って8年。自由人兄ちゃんと天真爛漫あーちゃんとの暮らしを綴る日記

そういうふうにしか生きられない

2012-05-26 22:26:00 | ポエム
毎朝、会社に行くときに乗る列車のドアの一番前に立っている男性がいる。

彼は、いつも私が改札を抜ける頃に後ろから『ドタドタドタ!』と大きな足音と共に
私の横スレスレに追い越して走っていく。

ものすごい勢いで、時には興奮のあまりに大きな声で『死ね!うっせ!』と怒鳴りながら
走っていく。

前に、授業が終わってドアが空くのと同時に走り出す生徒がいると聞いたことがある。
ドアが空いたら走る。
誰よりも一番にドアから出る。という強いこだわりからそういうふうにせずにはいられないのだという。

彼もそうなのだと思う。

有るとき、彼にぶつかってしまった男性がいた。
彼はものすごい形相で男性を追いかけて『な、な、なにぶつかってんだ!ふざけんな!○×▲☆!』
殴りかかろうとした手を必死に頭の上で握り締めて怒りに耐えながら
彼は、列車の中を行ったり来たりしながらひたすら自分の気持ちを鎮めようと必死に耐えていた。

そんな時、私は家でパニックになるお兄ちゃんの姿とダブってしまう。
何か声をかけてあげられないかとハラハラと彼を見守る。

周りは恐る恐る彼の動向を見守っている。
そんな空気に私は言いようのない苦しさを感じてしまう。
とても悲しい気持ちになってしまう。

私は密かに心の中で『彼は我慢したんだよ。彼はこういうふうにしか自分を表現できないけれど
怒りを堪えたんだよ』って言いたくなる。

お兄ちゃんと仲良し君は今は距離を置いて付き合っている。

結局、仲良し君のお兄ちゃんが彼女をとってしまうんじゃないかという妄想が酷くなってしまって
お兄ちゃんの携帯を友達を使って調べさせたり、
必要以上に電話をかけ続けたりしてしまうようになってしまった。

彼女もまた、お兄ちゃんに仲良し君と上手くいかないと色々相談するけれど、
お兄ちゃんがそれに何かアドバイスしたり、彼女と一緒に仲良し君の愚痴を言ったりすると
彼女はその内容を全て仲良し君に伝えてしまった為に仲良し君の逆鱗を余計にかって遂に学校で
大爆発してしまった。

先生方も交えての話し合いとなり、彼女にも言っていいことと悪いことを考える事の大切さを
指導し、お兄ちゃんとはもう関わらないように言ったそうだ。

お兄ちゃんも彼女のとった行動にショックをうけ、
『相談にのっていただけなのに。。。なんでこんな事に』とがっかりしていた。


『先生にもう、彼女ともメールしないように。仲良し君ともしばらく付き合わないようにってさ。俺も、疲れたからもう付き合わない。
どうやって付き合っていったら良いか分からないから。
ほどほどって分からないから。』

その後。結局仲良し君は彼女とも別れてしまったらしい。
別れた彼女に『顔うぜー』とか『消えろ』とか酷いメールを送ってくるようになってしまったらしく
彼女はまたお兄ちゃんに相談をしようとしているけれど、

『俺は、もう絶対関わらないって決めたらから。。。へーそうなんだ』ってだけ言ってる。

そうだよ、また、そこにお兄ちゃんが入ると巻き込まれてひどい目にあってしまうんだから。

仲良し君も衝動的に人を傷つける言葉を言ってしまうのを止められないんだよ。

彼女も誰かを巻き込もうと思ったり、困らせようと思ってやっていないんだけど、
そういう風にしかできないんだよ。

昨日、過去にお兄ちゃんに絶交メールを夜中中送り続けて疎遠になっていたお友達が
『仲良し君と彼女別れたって、仲良し君から聞いた。俺、彼女と付き合って見たいから俺のメール彼女に伝えて連絡くれるようにしてくれ』と言ってきた。

お兄ちゃんは『いくらなんでも、それは無理でしょう!』と言って断ったら
また昨日からメールが鳴り止まなくなってしまった。

『あいつは俺が言う事聞くまで絶対メールを止めない。逆ギレして死ねだのキモイだの、うんざりだ』

ようやく夕方に止まった。
『ようやく諦めたらしい』ホッとしたように言った。

『彼も、思いついたら止まらないんだよ。彼女にメールを貰いたいって思ったら止まらないんだよ。
お兄ちゃんが言うこと聞くまで止められないんだよ。それはとても困った行動なんだけど彼は
、そういう風にしかできないんだよ。

結局周りを巻き込んでひとりぼっちになっちゃうのにね。
彼は自分に跳ね返ってくるのに止められないんだなぁ。きっと。。。。

お母さんは、そう思うと彼はどうしてこんな難儀な生き方しかできないのかってとても胸がいたくなっちゃうんだよね。

『可哀想になぁって思ってしまうんだ』


お兄ちゃんはしばらく考えて小さく
 『うん』 と言った。。。ちょっと悲しそうだった。

お兄ちゃんと二人で障害があると言うことを、確認し合うとき、やっぱりちょっと寂しく悲しい気持ちになる。
前向きになったり。後ろ向きになったり。

そんなに簡単にはいかないね。。。


障害があるようには見えない。

2012-05-13 21:10:24 | 
いつの間にか一ヶ月も放置してました。。。。

ゴールデンウイークはお天気が悪い中でも、お兄ちゃんは初カラオケをお友達と楽しみ、
あーちゃんと私も、ファミリーランドや動物園などに行き、体調も崩すことなく楽しい時間を
過ごせました。

仕事も更新がすみ、とりあえず今すぐクビにはならなさそうです。

先日、離婚して引っ越す前のご近所だったママ友にあった。

『久しぶりだね。そういえばお兄ちゃんはもう高校生だよね。どこに通っているの?』
と会話になったんだけど、なんとなく知っているんだけど聞いていいのかどうか迷った顔を
していた。
そのママ友のお子さんはお兄ちゃんより2才年下だったので多分卒業式の時に、特学クラスで
卒業証書をもらったのを見ていたのできっと心配していたのだろう。

最近は私もあまり違和感がなくなったので、
『聞いてない?お兄ちゃん特学に編入して今高等の養護学校に行ってるんだ。今は卒業の就職の為に
実習をしているんだ』と言ったら。

『そうか。。。。そんな風に見えなかったのに。全然わからなかったよ。』
知っていたけどやっぱりそうなんだ。。となんだかとっても悲しそうな、残念そうな顔で
『そうなんだ。。普通に見えたのに。全然わからなかったのに』

前にも違う友達にカミングアウトしたときも、『でも、普通なんでしょ。そういうふうに見えないもん』って
連呼されて複雑な気持ちになったことがある。

まだ、お兄ちゃんが自閉症だと気がつかなかったとき、私も障害があるかもと悩むママ友に
『そんなふうに見えないよ』って言っていた。

それはなんだか社交辞令っていうか、そういった方が悩んでいる彼女を傷つけなくてすむような
気がしていた。

でも自分が言われてみるとなんとなく複雑な気持ちになった。

先日お兄ちゃんが、友達とのチャットゲームのやりとりで揉めていた。

『どうしたの?』って聞くと
『アイテムを分けてあげたいのに、何個欲しいって聞いてるのに、3個以上なら何個でも良いって言うんだ。
3個以上って何個だよ?って聞いてるのに何度も3個以上、3個以上ってわかんねーよ』とキレだした。

『3個以上っていうのは3個より多かったら4個でも5個でも100個でもいいって事だよ。』って
教えたけど
『そうなの?はっきり言ってくれないとわかんねーんだ。何個だよ!』って自分では4個も5個も決められないようだった。

それからいつも夕飯のお茶碗を洗ってくれるんだけど、流し台を洗うスポンジと、お茶碗を洗うスポンジを分けている。
流しのはもうお茶碗を洗った使い古しを使っている。
お茶碗のはおろしたての新しいのを使っていた。

『どっちのスポンジ?』って聞くから
『綺麗なスポンジでお茶碗洗って』と言ったら
ボロボロの方のスポンジを使っていた。

『きれないスポンジでって言ったのに。。』
『え?どっちだか分からなかった。』

『お兄ちゃん、こっちはもう使い古してボロボロで汚いでしょ。こっちは新しいからきれいでしょ』

『そういう意味?分からなかった』

ボロい方はピンク。新しい方は緑色。

お兄ちゃんには綺麗は色の事だと思って、緑とピンクならピンクの方がきれいだろうと思ったんだと
気がついた。

『色じゃないよ。新しいか古いかだよ』

何分もやり取りしてやっと答えにたどり着くことが何度もある。

病院へ行って、先生にちゃんと自分で病状を話してごらんと言ったら
先生が『どうですか?どこが悪いですか?』と聞かれ

『どこも悪くありません。』と答えて後は無言になってしまった。

『咳が止まらないんでしょ』と横から声をかけて結局私がフォローした。

後から『どうして、言わなかったの?』と聞くと

『どこが悪いって意味が分からなかった』

『なんで?咳きも止まらないし、鼻も詰まっているでしょ。自分の辛いところや痛いところを言えば
良かったんだよ』

『だって、聞かれなかったから。』

細かく説明してようやく理解してくれて、『どこも悪くありません』って言われた先生の顔を思い出してそのあとは二人で大笑いしたんだけど、こういう時はやっぱり言葉に大きな障害を持っているんだなって実感する。


『そういうふうに見えない』って

見えないだけで障害があるんだよ。

だけど克服しようとお兄ちゃんは頑張っているんだよ。

お兄ちゃんは最近わからない言葉があると、ケータイの辞書を引いてすぐ調べられるようになったんだよ。

お兄ちゃんは障害があるけれど、自分の障害を理解していて、自分を受け止めてこれが自分だと思えるように
なったんだよ。

最近、お兄ちゃんの就職活動の為に会社を休むことが多くなってきている。
会社の人にも仕事を代わって貰わないといけないから、カミングアウトした。

『でも、大したこと無いんでしょ。中学まで普通クラスなら、普通の人とあんまり変わらないでしょ』
って言われる。

そんな風に言われるたびに、

今のお兄ちゃんが全てだよ。
ありのままのお兄ちゃんが素敵なんだよ。って大きな声で言いたくなる。