箱の中からは虫は出てこなかった
雛人形達は無造作に入れられていた
娘さんはひな祭り直前に亡くなったという
悲しみと怒りとが入り混じったように入っていた
髪もボサボサ。折れた刀。お雛様の冠も箱の中をいくら探してもなかった
着物も色あせ、シミだらけだった
これが・・・!これを・・・・?
あこがれたお雛様とはあまりにも程遠かった
なんとも言いようのない気持ちで下に降りて言った
「どうだ立派だろう。俺が給料の半分を使って買ったんだ。」と聞いてきた
姑が「カビはえてなかったかい?ちょっと壊れてるけどまだまだ使えるはずなんだ」と言った
「はい。大丈夫でした。」
「娘は今やんちゃ盛りだから、五段は飾れなさそうなのでお雛様とお殿様だけ貰って行きますね。うちは湿気が多いのでこちらで保管しておいて貰えますか」と言った。
それが面白くなかったのだろう
「そっちで保管できないのか?大丈夫だろう。全部持っていけ。邪魔なんだ。
持って行け。今日持って行け。後から迎えに来るんだろう。車に積んでいけ」と言った
もうどうでも良くなって「はい、分かりました。じゃあそうします」と言うと
ようやく満足そうに黙った
すると今度は
「そうだ!母さんのタンス整理したんだ。毛皮あるぞ。いるだろう。
ちっこさん毛皮持ってるか?高いんだぞ。あんたんち買えるか?あいつの給料じゃ無理だろう」と言いたい放題だった
「娘も汚しますからそんな高価な物もらえません。」
「いいや。大丈夫だ。いい毛皮なんだ。2階にあるちょっと持っておいで」
「今、忙しいですから今日はいいです。」
「いやいや。ちょっと見てみれって、いいんだぞ、高いんだぞ」
「今はいらないです。そのうち落ち着いたら見せてもらいますから」
ようやく夫が迎えに来た。
一刻も早く今日は買い物を済ませて帰ろう
掃除は今度来た時にしよう
今日はもう駄目だ。舅のしつこさにホトホト疲れていた
もう帰りたい。横になりたい。疲れた。本当に疲れた心の中で何度もつぶやいた
そそくさと買い物にいく準備をしていると舅が2階から毛皮を持って降りてきた
「いやー。本当にまだ全然痛んでないぞ。まだまだ着れるぞ」
それは茶色い凄い毛の長い毛皮だった
ショウウインドウでよく見かけるが私には無縁の代物だった
姑が「いい毛皮なんだよ。軽いし暖かいんだよ」と言った
何言ってんの?
のんきに言っている姑に心底がっかりした
何を舅に言われても我慢しろと夫に言われていた
私達が帰った後に腹いせに姑に暴力を振るうかもしれないからだ
だから何を言われても言い返さずに我慢してきた
どんなに執拗に絡まれても我慢したんだ
それなのにこんなに嫌がっている私の事が分からないの?
誰のためなの?
世話をしなくなって酒ばっかり飲んでる舅に代わって私がしている事って
何のためなの?
頭がずきずきと痛んだ
吐き気さえこみ上げてきた
「でも入りませんから」震える声で言った
「いいから。着てみれって、ほらー!ほらー!」と毛皮を持って私に着せようと舅が
近づいてきた
肩は骨が飛び出て、足も怪我をして真っ黒になって引きずりながら
酒臭い息を吐きかけて近づいてきた
今正に私の肩にその毛皮をかけようとした
足元からゾクゾクと悪寒が走る
体中に鳥肌がたった
目の前がチカッと光った気がした
「いらないって言ってるでしょ。私に近づかないで、こっちに来ないで。あっちに行けー!わーーーーーーーーーーーーーーっ!」と気がついたら泣き叫んでいた
「なんだ?どうしたんだ?え?ちっこさんなんだ?」
「いやーーーーー!。もう私に話しかけるな!何にも聞きたくない。」
「もう。爺さん2階に行け。しつこいんだあんた」と姑が言った
「い。あ、そう。雛人形・・・」
「雛人形なんか、雛人形なんかくそっくらえだーーー!」
後はワアワアと泣いた
もう頭が真っ白だった
息子は固まり、娘は泣き出していた
(つづく)
雛人形達は無造作に入れられていた
娘さんはひな祭り直前に亡くなったという
悲しみと怒りとが入り混じったように入っていた
髪もボサボサ。折れた刀。お雛様の冠も箱の中をいくら探してもなかった
着物も色あせ、シミだらけだった
これが・・・!これを・・・・?
あこがれたお雛様とはあまりにも程遠かった
なんとも言いようのない気持ちで下に降りて言った
「どうだ立派だろう。俺が給料の半分を使って買ったんだ。」と聞いてきた
姑が「カビはえてなかったかい?ちょっと壊れてるけどまだまだ使えるはずなんだ」と言った
「はい。大丈夫でした。」
「娘は今やんちゃ盛りだから、五段は飾れなさそうなのでお雛様とお殿様だけ貰って行きますね。うちは湿気が多いのでこちらで保管しておいて貰えますか」と言った。
それが面白くなかったのだろう
「そっちで保管できないのか?大丈夫だろう。全部持っていけ。邪魔なんだ。
持って行け。今日持って行け。後から迎えに来るんだろう。車に積んでいけ」と言った
もうどうでも良くなって「はい、分かりました。じゃあそうします」と言うと
ようやく満足そうに黙った
すると今度は
「そうだ!母さんのタンス整理したんだ。毛皮あるぞ。いるだろう。
ちっこさん毛皮持ってるか?高いんだぞ。あんたんち買えるか?あいつの給料じゃ無理だろう」と言いたい放題だった
「娘も汚しますからそんな高価な物もらえません。」
「いいや。大丈夫だ。いい毛皮なんだ。2階にあるちょっと持っておいで」
「今、忙しいですから今日はいいです。」
「いやいや。ちょっと見てみれって、いいんだぞ、高いんだぞ」
「今はいらないです。そのうち落ち着いたら見せてもらいますから」
ようやく夫が迎えに来た。
一刻も早く今日は買い物を済ませて帰ろう
掃除は今度来た時にしよう
今日はもう駄目だ。舅のしつこさにホトホト疲れていた
もう帰りたい。横になりたい。疲れた。本当に疲れた心の中で何度もつぶやいた
そそくさと買い物にいく準備をしていると舅が2階から毛皮を持って降りてきた
「いやー。本当にまだ全然痛んでないぞ。まだまだ着れるぞ」
それは茶色い凄い毛の長い毛皮だった
ショウウインドウでよく見かけるが私には無縁の代物だった
姑が「いい毛皮なんだよ。軽いし暖かいんだよ」と言った
何言ってんの?
のんきに言っている姑に心底がっかりした
何を舅に言われても我慢しろと夫に言われていた
私達が帰った後に腹いせに姑に暴力を振るうかもしれないからだ
だから何を言われても言い返さずに我慢してきた
どんなに執拗に絡まれても我慢したんだ
それなのにこんなに嫌がっている私の事が分からないの?
誰のためなの?
世話をしなくなって酒ばっかり飲んでる舅に代わって私がしている事って
何のためなの?
頭がずきずきと痛んだ
吐き気さえこみ上げてきた
「でも入りませんから」震える声で言った
「いいから。着てみれって、ほらー!ほらー!」と毛皮を持って私に着せようと舅が
近づいてきた
肩は骨が飛び出て、足も怪我をして真っ黒になって引きずりながら
酒臭い息を吐きかけて近づいてきた
今正に私の肩にその毛皮をかけようとした
足元からゾクゾクと悪寒が走る
体中に鳥肌がたった
目の前がチカッと光った気がした
「いらないって言ってるでしょ。私に近づかないで、こっちに来ないで。あっちに行けー!わーーーーーーーーーーーーーーっ!」と気がついたら泣き叫んでいた
「なんだ?どうしたんだ?え?ちっこさんなんだ?」
「いやーーーーー!。もう私に話しかけるな!何にも聞きたくない。」
「もう。爺さん2階に行け。しつこいんだあんた」と姑が言った
「い。あ、そう。雛人形・・・」
「雛人形なんか、雛人形なんかくそっくらえだーーー!」
後はワアワアと泣いた
もう頭が真っ白だった
息子は固まり、娘は泣き出していた
(つづく)