トンネルの向こう側

暗いトンネルを彷徨い続けた結婚生活に終止符を打って8年。自由人兄ちゃんと天真爛漫あーちゃんとの暮らしを綴る日記

不穏な空気

2014-05-05 17:58:32 | お兄ちゃん
スタート上々で急に余裕ができた気になって、土日だけでも仕事を増やそうかなと本気になったりして。

でもね。やっぱりね。

「あいつむかつく。マジ腹立つ。えらそうに言いやがって。何度も同じこと言いやがって。」

やっと一カ月過ぎたばかりだって言うのに、初任給だってまだ出ていないうちから、もう嫌いな人が出来ちゃうんだな。。。

もう、定年間近の男性。
この施設で何十年も働いていて、その人しかできない仕事を任されていて、すでに雇用扱いでベテランの人。
でもお兄ちゃんが来た事が空気を変えてしまっているようで、お兄ちゃんの言動や行動が気になるらしい。

お兄ちゃんの仕事のやり方も、自分と違っていて気になるらしい。

気になると直るまで言わないと気が済まない。
直らないとなおさら気になる。

お兄ちゃんは言われた内容より、言い方や声の高さに反応してしまう。
同じトーンで同じ口調でゆっくり言われるのと、高い声で早口にイライラしたように言われると同じ事を
言われているのにまったく違う風に受け止めてしまう。

その状況が過去の嫌な思い出とリンクすると、その人を見るたびに、フラッシュバックに襲われて、
ストレスはたまっていってしまうのだ。

家にいると、忘れて笑っているときもある。上機嫌で帰ってきて朝も普通に出かけて行く。
でも、安心はできないのだ。
同じ感情を持続し続ける事が出来ないだけ。

決してストレスが消えているわけでも、消化されているわけでもない。

見えない部分で、本人も気がつかない部分で蓄積され続けているのだ。

そして、それは行動となって、ちょっとずつ現れ始める。

また同じループの始まりなのだ。


つかの間の平穏な日々もあっと言う間に終わってしまうようだ。

障害を受け入れる

2014-03-14 19:43:46 | お兄ちゃん
大きく膨らんだ風船がパンとはじけて割れてしまったかのように、お兄ちゃんは小さくしぼんでしまった。

私の心もしぼんでしまった。

いつも、問題が起こると「これは障害なのか。それとも性格なのか」という部分で悩んできた。

出会い系サイトで騙されるというのは普通の人でも起こりえる事である。
友達に騙されてしまう事もあるだろう。

私も、OLになったばかりの頃に、街頭でたっているアンケート調査に騙されて、高価な化粧品を買ってしまって後悔したことがある。

だけど、一度だけだ。
普通なら一度失敗したなら、気をつけるものだろう。
学習するだろう。と思う。

でも、お兄ちゃんにはその学習ができないのだ。

これが悪か善かを見分ける事ができないのだ。

自分の欲望をコントロールすることができず、世の中には悪い人や騙そうとしている人がいると知っている。
学校でも出会い系サイトの注意は、何度も何度もやって頭では理解しているのだ。

でも、自分の目の前にあるものが、良いものか、悪いものなのかは判断できないのだ。

だから、やりたいか、やりたくないか。欲しいか欲しくないかで判断して、やりたい時はすべて良く見えてしまうのだ。

お兄ちゃんから目を離してはいけないんだ。
いつも注意深く見ていなければいけないんだ。
楽になる事は一生ないんだ。

そう悟った私は、お兄ちゃんを連れて、精神科へ行った。
そこで診断書を書いてもらい、特別児童扶養手当を受け取る事にした。

困っている状態を説明して、診察してもらった結果、お兄ちゃんの障害は「知的には軽度であるけれど、思考、行動に著しい偏りがあり、著しく生活に支障をきたしているため障害は中程度とする」となっていた。

行為障害、思考障害にも、○がつけられていた。

卒業後の進路も、一般就職は、メンタル面で弱すぎて薦められないとの判断で、就労継続支援施設に行くこととなった。

そこで、しばらく働いて技術や仕事能力が向上すればA型として、雇用が認められ、保険もつくようになるという事だった。

道は長いけれど、お兄ちゃんは「頑張ってA型になる」と張り切っている。

卒業式も終わり、支援施設の説明会のために「もう、制服は着れないから、背広を作ろう」と言って紳士服売り場で
背広を作った。

孫にも衣装で背が高く、足も手も長いお兄ちゃんはとっても良く似合ってカッコよかった。

どんな形でもこれからは社会人だね~としみじみお兄ちゃんと話した。

施設ではどれくらい工賃をもらえるかわからないけれど、自分で払えるようになったら、スマホを買うんだそうだ。


卒業式の日、


「今まで、困った時は一緒に考えてくれてありがとう。 お弁当もありがとう。 働いたら、お金を貯めて家族でデズニーランドに行きましょう。」

クラスの皆の前で、母への手紙を読んでくれて渡された。


色々あったね。3年間あっという間だったね。

君は辛いばっかりだったって言うけれど、お母さんも辛い事いっぱいあったけれど、

でもやっぱり、とても良い経験だったし、良い先生やお母さん方に出会えてお母さんは幸せだったよ。

これからは、自立に向けて、少しでも前に進んでいこう。
一緒に考えて頑張っていこうね。

卒業、おめでとう。お兄ちゃん。

こちらこそありがとう。

失望

2014-03-04 19:39:53 | お兄ちゃん
お兄ちゃんに障害があると分かった時、一日中「可哀そうに」と泣いた。

そのあと、同じ障害のある子や親との出会いで、障害があっても前を向いて頑張っていけば
社会に出る事ができる。
職場見学で、卒業した子達が、一般就職をして立派に社会人になっている姿をみて、いつかお兄ちゃんも
こんな風に社会にでて行く事になるのだろう。

結婚も子供もいて車の運転もして生活している卒業生の話を聞けば、お兄ちゃんだってと未来を重ねていた。

しかし、目の前で真っ青な顔をしてうなだれ、『誰も俺の気持ちを分かってくれないんだ!俺の人生なんなんだ!』
と言ってボロボロと涙を流す姿を見た時、
心の底から「なんで普通に生んでやれなかったんだろう。」って後悔した。

パンドラの箱が開いてしまったお兄ちゃんの心は、私の知らないところで暴走していた。

色んな、サイトに次々と年齢を偽って登録しまくり、何度か約束をして会いに行くも、すっぽかされ
それが相手の手口とは気づかず、「あなただけに特別な情報をあげます」いう言葉に騙され、お金をだまし取られてしまったのだった。

家にあった大切に遊んでいたゲームソフトを片っ端から売り払い、私に嘘をついてお金をもらい、
お金を渡してしまった。

渡したとたんに、登録したサイトは閉鎖され、連絡がつかなくなるしくみだった。


それでもまた新しいサイトの相手に会いに行こうとして、私も様子がおかしい事にやっと気づき、
登録しているサイトを片っ端から調べるとどれも詐欺サイトで登録されているものばかりだった。

「お兄ちゃんの登録しているサイトは全部詐欺サイトだよ。騙されているんだよ」と言うと

「知ってる。もう騙された。でも彼女を作らなくちゃいけないんだ」


と言い「自分が恐い。スイッチが入ると止まらなくなるんだ」


頭の中が真っ白になってしまって、次の瞬間
「ばか!本当にあんたは大馬鹿だ!そんなものにまた騙されて、彼女なんかいなくたって、楽しい事は沢山あるじゃないか。
卒業して、働いてお金を自分で貰えるようになったら、もっともっと色んな楽しい事が出来るじゃないか。
旅行だって、コンサートだって、バスケの試合を見に行ったり、いっぱいいっぱいあるじゃないか。

なんてバカなんだ。本当に馬鹿だ」

情けなくて、悔しくて、せつなくて、泣けて泣けて仕方なかった。

なんで、普通に生きられないんだよ。
なんで、普通に成長できないんだよ。

何度も何度も騙されて、それでも騙されて、痛い目に会っても、どうしても抜け出せないんだね。


それが君なんだ。
それが君の障害なんだ。

もう先なんかない。未来なんかない。

私は大きな失望感を味わったのだった。

(続く)


そして。。。

2014-02-16 17:43:33 | お兄ちゃん
そうか。公園へどうして行ってしまうのか。
なぜ知らない子を親友とすぐ思い込んでしまうのか。

その理由のかけらをもらって、すっかり良い気分ですべてが分かったようになってしまった私。

しかし、理由が分かっても問題がひとつも解決していない事にすぐに思い知らされる。

あの日以来、予定の時刻より帰宅が遅れると不安で不安でいてもいられなくなり、外を何度も見に出るようになった。

ある日、いつもの時間に帰宅しないお兄ちゃんが心配で家の前で帰ってくるのを待っていた。
遠くからお兄ちゃんらしい笑い声が聞こえてくる。
『誰かと遊んでいたのか?最近また公園で知り合った子と遊んでいたのか』

遠くから歩いてくる二人組の姿をみて思わず物陰に隠れた。

一緒に帰ってきたのは、彼女と別れろと殴ってきた友達だった。

あんなに酷い目にあったのに、誘われたらまたすぐ許してしまったのか。
また簡単に信用してしまったのか。。

帰ってきたお兄ちゃんに問い詰めると
「あれは、俺の作戦なんだ、あいつ何日か前からまた遊ぼうってしつこいから、仕方なく会ってやったんだ。
あいつがあきれるような空想話をしてやった。嫌われるような話をいっぱいしてやった。
こっちから嫌われるようにしてんだ。

今度は仲直りしたふりして俺があいつを切ってやるんだ。
復讐なんだ。放っておいてほしい。」

自分で気持のけりをつけたいと言う事なんだろう。

しかし。あれほどの事があってまた会ってしまうとは。
どんな理由があったとしてもあまりに無防備な考えに途方に暮れる。

「もし、また彼が突然切れてお兄ちゃんにけがをさせる事があったら、今度は迷わずお母さんは警察に届ける。
その時、あんなに心配してくれた担任の先生と、もう会わないと約束を破っていた事もばれてしまうんだよ。
先生はあの時手術して退院したばかりだったのに、痛みをこらえて何度もあんたの為に訪問してくれたんだよ。

その先生への裏切りだよ。
お母さんには理解できない。
メールアドレスを拒否してでも縁を切るべきなんじゃないのか」

最初は自分の持論を展開していたけれど、会った後のフラッシュバックが辛いらしく、メールアドレスを変えて、
彼からの連絡を絶つことに同意した。


そんな中、職場実習も終わり、先生方のフォローもあって、評価も良く、お兄ちゃんも卒業後も同じ職種の仕事に就きたいという目標をみつけたようだった。

これで、上手くいく。
やっと安心して日々が送れると胸をなでおろしたのだった。

お兄ちゃんも、失った自信を少しずつ取り戻し、気分が良くなって最近良く会話をするようになった
隣のクラスの女子に交際を申し込んだ。

彼女は友達からという気持ちだったのに、お兄ちゃんは勝手にかつての彼女と同じように接しようと暴走してしまい
びっくりした彼女から「私はまだそこまで気持ちがついていけない」とあっという間に振られてしまった。

お兄ちゃんにとって、友達に殴られた事はとても辛い出来事だった。
だけどそれ以上にその殴られている間、ただ黙って見続けて、無言で去って行った彼女への
思いはお兄ちゃん自信見つめる事が出来ず心の奥底にふたをしておいたはずだった。

ところが隣の女子に交際を断られた瞬間、今まで、ずっと心に閉じ込めていた、一番傷ついてしまった心の扉が一気に開いてしまった。

なんとかしなければ、この苦しい気持ちをどうにかしなければ。
パニックに陥ったお兄ちゃんの暴走が始ってしまったのだった。

(続く)

社会で自立するための3つの法則

2014-02-11 19:02:56 | お兄ちゃん
私が訪問したのは、発達障害の人たちが、生活する施設だった。

自閉症を専門に相談を担当してくれる人もいると聞いて、訪ねたのだった。

過去からの息子の経歴と、これまでの問題行動を改めて時系列で書き出していくと
どんなに年齢を重ね、環境が変わっても、お兄ちゃんの簡単に人を信じてしまう。
公園で知らない子を連れてきて騙されてしまう。の問題行動がどの年齢でも起こっている事に
改めて気付かされる。

一通り私の話を聞いていて相談員さんは、

『なるほど。どうして息子さんが公園へ行ってしまうのか説明できるかもしれません。』


自閉症のお子さんで、長く社会に適応し続けるために必要な気持ちって何だろう思ってみていると、
「俺ってけっこうできるかも」という自信が強い子が、長く社会で暮らしていけているようです。

この気持ちを持つためには、三つの法則があります。

1.褒められる
2.認められる
3.感謝される

この条件がそろった環境にいると、自信がついて、自分でやれる事が増えてくる。
自分のやれる事がたくさん増えると

「あれ。俺ってけっこうできるかも」と思える。

そうすると社会でも恐がらずに適応していけるんじゃないかと私たちは思っています。


走るのが速い子は、サッカーチームや、陸上など、パソコン、漢字、凸凹の特性の中で
何かしらの特性にあった場所を見つけられた子が「俺ってけっこうできるかも」という力を
得る事ができるのです。

その場所が、息子さんの場合は、公園だったという事でしょう。


その話を聞いている間に思い当たる事が次々と頭に浮かんでくる。

確かに小学校へ入学して、お兄ちゃんは周りの友達よりも勉強も行動もついていけない。
自分は駄目なんだと思うばかりの毎日。
ある日たまたま帰り道の公園で、知り合った年下の子にボール遊びをしたら「お兄ちゃんすごいね」と言ってもらえたと言って「俺ってすごいんだって」とものすごくうれしそうに帰ってきた事があった。

その次の日には、その幼稚園にも通っていないような小さな子を家に連れてきたのだった。

「この子が俺の親友なんだ」と言って。

初めて、認めてもらえて、褒められて、「遊んでくれてありがとう」と感謝された経験。
その場所が、公園だった。

だからお兄ちゃんは自信がなくなるような事が起こると公園へ行って、自分の心を支えてくれる物を探してしまうのだと気がついた。

中学の頃に酷いいじめにあったときも、高校へ入って、実習が上手くいかず先生に毎日叱られて、胃潰瘍になるほど
落ち込んだ時も、公園へ行けば自分のなくした物があると信じて、公園をさまよい歩き続けてきたのだ。



「すごく納得できるお話です。じゃあ、いったいどうしたら良いのでしょうか。
このままずっと無防備に騙され続け、痛い目に会い続けるんでしょうか。
公園に行かせないためにはどうしたら良いのでしょうか。」

理由は分かっても「それじゃあ仕方ないですね」とは言えない。
なんとかしなければ、ならないのだから。

「息子さんが、俺ってけっこうできるかも感が得られる場所を公園以外に探す事です。これから職場実習が始まると言う事ですね。これは良いチャンスです。
実習が上手くいけば、きっと落ち着くと思います。
そのために実習先には少し甘めに指導をお願いすると良いです。」

「実習が始まるまでは、公園にはどんどん行ってもらいましょう。
引きとめれば引きとめるほど彼は行ってしまうでしょう。友達もどんどん作って貰いましょう。』

でも、それではまた誰かに騙されてしまうかもしれません。家の物が盗まれてしまうかもしれません。


「だから、公園に行く事は大賛成でもルールは決めて守って貰うんです。
家には連れてこない。物の貸し借りはしない等です。」

公園へ行くことと、友達づきあいのルールを決める事は切り離して考えた方が良いです。


来る時は重い足を引きずりながら来たけれど、帰りは、明るい光が射したような気持だった。

「そうだったのか」とすべてが分かったような気がしていた。

だけど、その時お兄ちゃんが何を考えているのか、私は全く分かっていなかった事にまたまた思い知らされるのだった。
(つづく)





理由

2014-01-31 19:30:40 | お兄ちゃん
どうしてこうも同じ事を繰り返してしまうのか。

小学校へ入学して、一人で学校を行き帰りをはじめてから、帰り道の公園にいる子供たちを
親友ができたと言っては沢山連れて帰り、家にあげては物を盗まれる。

そのたびに「なぜ?」「なぜ?」を問い続けてきた。

自閉症と分かって、特別支援クラスに移動して、色んな事を訓練して、沢山の事ができるようになった。

あいさつ。マナー。仕事に対する気持ち。
研修にいけば、合格をもらい、卒業は就職も夢じゃないとまで言われるまで成長しても
やっぱり知らない親友へのこだわりからトラブルに巻き込まれてしまう。

これはお兄ちゃんのお人よしな性格が招いている事なのか。
性格なら、痛い目に合うたびに少しずつ用心深くなってもよさそうなものなのに
いつも振り出しに戻ってまた同じ事が繰り返される。
「思えばずっと同じ事で足踏みしている」
これは、性格じゃなくて、障害が引き起こしているのではないのか。
そんな疑問を持つようになった。

友達に殴られて、彼女も失って、失意の中にいたお兄ちゃんは、それからもまた公園をふらふらと
渡り歩き、そこでサッカーやバスケをやっているグループに仲間にまぜてもらってはおごらされたり
するなど小さなトラブルを引き起こしていた。

友達を探さなければ」「彼女を見つけなければ」とうわごとのように繰り返し、ネットの友達サイトに沢山登録をし始めた。

中には怪しいサイトもあって注意すると「登録だけで、メールの返事はしてないから」と言って
相手から送られてくるメールをこそこそと読んでいた。


「友達が欲しいんだ。暇なのは嫌なんだ」

「暇つぶしに友達が欲しいの?ひとりでも楽しむ事は沢山できるでしょ」

「いやっ!できない。暇が苦しいんだ」

自閉症の子どもたちは、暇な時間が一番苦痛だと言われることが多い。
仕事をしていても、お昼休みに何をしていいのか分からない。苦痛だと訴える子も多い。
だからわざわざ雑誌を用意して、自由時間に雑誌を読んだりする事を研修に加える施設も多いと聞く。

だけど、どんなに本を読んでも、偉い人の話を聞いても、暇だから公園へ行き知らない子を沢山連れてくる
自閉症の症例を説明してくれるものは見つからなかった。

なぜ?
私は、この同じトラブルのループをどうしても抜け出したかった。
このループを抜ける手がかりをつかまなければ、お兄ちゃんにとって自立は不可能だと感じた

楽しい人、自分を慕ってくれる人を名前を知らなくても簡単に信じてしまう。
社会に出れば、落とし穴は沢山ある。
お兄ちゃんはもっと大きなトラブルに巻き込まれる可能性が大きすぎる。

わたしは答えを求めてある施設を訪ねた。
そこで、お兄ちゃんのなぜを知る手掛かりをやっと手に入れる事ができた。
(つづく)

思春期2

2014-01-09 18:09:02 | お兄ちゃん
お兄ちゃんにとって彼女というのは、自分のそばにいてくれる人。
いるだけでいい人。

『あなたがそばにいてくれるだけで幸せ。」

恋にうきうきできる時代には私もよくそんな事を言っていた気がする。

この言葉の意味は、お兄ちゃんにとっては言葉通りだった。

ただ、そばに座っていてくれるだけでいい。
どこかへ遊びに行くわけでもなく。
一緒にショッピング、おしゃべり、外食、映画など二人で何かを楽しむのではない。

ただ隣に座っていてほしい。
自分はその仲間とカードゲーム、春の寒空のしたの遅くまでのバスケットをして楽しむ。

彼女にはそれをとなりで見ていてほしい。

彼女はただ座って、バスケやカードゲームが終わるのをじっとまってるだけ、そんな関係が長く続くはずもない。

次第に彼女は時間をずらすようになり、メールも繋がらなくなる事が多くなった。

仲間とは毎日遊んでいるけれど、彼女とは長くないかもしれない。
そう思った矢先の出来事だった。

お兄ちゃんは、すごい興奮状態で帰ってきた。
何か怒鳴っているが、何を言っているのかわからない。
「復讐する」と言って、またすぐ飛び出して行ってしまった。

時間はすでに深夜になっていて、「補導されたら就職も駄目になってしまう」と説得してようやく帰ってきた。

帰ってきたお兄ちゃんは、心身共にボロボロだった。

彼女の仲間の一人が「俺とけんかで負けたら彼女と別れろ」と言い、いきなり殴られ、引きずられ、蹴られたのだと言った。

彼女は、そばで見ていた。

お兄ちゃんの言う「ただ、側にいてほしい」その通りにただ、「やめてあげて」と声をかけるだけで
見ていただけだった。

そうして、恋は終わってしまったのだった。

お兄ちゃんは事態を把握できず、混乱して、殴られたショックとその時の状況が何度もフラッシュバックを繰り返し、一日中、アニメのビデオをコマ送りに再生して、セリフをノートにびっしりと書き込んで、なんとか自分が壊れないように踏ん張っているようだった。

学校の先生が、放課後の時間を作ってくれて、なるべく一人の時間を過ごさなくても良いように、配慮してくれたり、クラスメイトが励ましてくれたりして、少しずつ、元気を取り戻しているように見えた。

しかし、お兄ちゃんの傷は私が思っているよりずっとずっと深かったのだ。

そして、私はお兄ちゃんの障害が自分が思っているより重く、社会に出るには難しいのだと思い知らされる事になるのだった。(つづく)





結局 泣き寝入り

2012-08-15 20:00:08 | お兄ちゃん
『でもさ。一番悪いのは盗んだその女の子だよ』


でも私はお兄ちゃんが許せない。
女の子の話が出たときに入れないでね。と言ったのに、『入れてないって。』とひょうひょうと嘘をついて私が来る前にその女の子を家から出していた嘘が許せない。

お兄ちゃんは、『その友達も、女の子も、家に来る前の日に外で遊んでたんだ。だから知らない人じゃなかった』と言い張る。

家に来る前にちょっと話しただけの、良く分からない得体のしれない人を知らない人と言うんだと言ってもお兄ちゃんの中の知らない人の定義に結びつかないからどんどんパニックになっていく。

私はお兄ちゃんに『もう、人を家に連れてきません』と言わせたい。
お兄ちゃんはどこまでも『今回は知らない人じゃなかった』とそのことにこだわって会話がぐちゃぐちゃになっていく。

最後はお兄ちゃんがなんだか分からないけれど、自分が悪かったんだ。とひどく落ち込んで布団に潜って
しまった。

私ももう話す言葉が思いつかず疲れ果て、ずっと。ずっと。こういう状況から抜け出せないんだ。
何度おなじ悔しさを味わったらお兄ちゃんはわかってくれるのだろうか。
何度味わっても同じなんだ。永遠に終わらない。

じっとテーブルを見つめているとあーちゃんがポツリとつぶやいた。

『あーちゃんの、ウオークマン戻って来ないのかな。
あーちゃん、そのお姉ちゃんにお願いしてみる。大切なんです。返してくださいって!』

ふと、気がつく。。。。


あーちゃんは、大切なウオークマンを盗まれたのに一度もお兄ちゃんを責めない。
『お兄ちゃんの連れてきた友達に盗まれたんだから!返してよ』
と一言も責めていないことに。。。

あーちゃんは何も悪いことをしていないのに。
一言も責めずにただ無くなったウオークマンが返ってくるかを心配している。

『あーちゃんは、一言もお兄ちゃんを責めないんだね。お兄ちゃんの連れてきた友達のせいでなくなったのにね』

『だって、お兄ちゃんはわざとじゃないもん。間違えちゃったんだよ』


『一番悪いのは盗んだその女の子だよ』パートの友達が言った言葉が胸にささる。

なんだか泣ける。。

あれから落ち着いて話を聞けば、その連れてきた男の子も女の子も、お兄ちゃんが卒業した中学の
特学のクラスの子だと分かった。

お兄ちゃんと同じ障害がある子だと分かった。

となると、お兄ちゃんとその男の子がその女の子の家に行って、ウオークマンの事を問いただすのは
とてもまずいと感じた。

お兄ちゃんも上手く説明できないだろうし、男の子も言葉に遅れがありそうな感じだった。

お兄ちゃんは背も大きいし、声も大きい。
返してもらうために興奮して大騒ぎになりかねない。。

その男の子は夏休み後もその子と同じクラスで過ごす事になる、どんな風にクラス中に伝わるか分からない。

お兄ちゃんの担任だった先生はまだ中学に在籍している。
その先生にとりあえずあった事を伝えなければいけない気がした。

こういう場合はいつもそうだけど。。。
盗んだところを見たわけじゃない。
お兄ちゃんの言葉しか聞いていない。
証拠がない。

だから結局泣き寝入りするしかない。

大抵はその後もそういう子は盗みを繰り返してボロがでて発覚するのだけれど、大抵は処分されているか、壊されていて戻ってこない。

お兄ちゃんにはそれらの理由を話して、『その男の子に会ったら、女の子が盗んだかも知れないことを
言ってしまうかもしれないし、その男の子は誰でも好きな子を連れて誰かの家に行きたいって思っちゃうところがあるんだよ。兄ちゃんも断れないならもうしばらく会わないようにしようよ。』

『そして、残念だけどウオークマンは諦めよう。でもあーちゃんは全然悪くないのにこんな目にあって
しまったんだよ。あーちゃんが一番可哀想だよね。

お兄ちゃんもそんな盗む子だなんて知らなかったかもしれないけれど、お母さんに嘘ついて入れて
盗まれてしまった事の責任はあるでしょ。

お母さんもへそくり出すからお兄ちゃんもお金を足してあーちゃんにウオークマンを弁償しようよ。』

お兄ちゃんもこれ以上この事に混乱したくないし、正直その女の子の家に行ってその子の親が出てきたら
どうしようと不安だったのだろう。

どこかほっとした顔をして、部屋へ行きお年玉を貯金している通帳を持ってきて
『これで、買ってあげて。。』と差し出した。

そしてしばらくその後輩の男の子と、女の子を連れてきた男の子とは会わないと言った。
そして夏休みが明けたら、担任の先生にこの事を話してどうしたら良かったのかを相談してみると言った。


私も中学の先生に連絡して、女の子が簡単に高校生の男の子の家に入ってきてしまった事と
家の中の物を勝手に触って無くなってしまったことを伝えようと思う。

本当に口惜しいけれど。。。

お兄ちゃんも知らない人の意味はわからないかもしれないけれど、いつかきっと。きっと。

だって妹のお財布からお金を盗ることをやめられなかったお兄ちゃんは、今は一円も違わず
小遣い帳を合わせられるようになった。

欲しいものは相変わらず沢山あるけれど、小遣いの中でやりくりできるようになって、追加でお金を要求することもなくなった。

だからきっと。諦めない。



リスト

2012-08-12 20:17:58 | お兄ちゃん
悲しくて、悔しくて、やるせなくて、先の見えないドツボに嵌ったような気持ちです。

どんなに訓練しても、どんなに『成長しました』と言われても、
できないものはできない。

クリアできない困難はクリアできないんだ。

ちょっとでも気を抜いて『もう、大丈夫』なんて安心したなら、容赦なく
『ふざけるな!』って神様に横っ面を殴られる。

何か問題が起こるたびに、その事を聞いた人はその困難さにこう慰めるしかないのか
『この、出来事も無駄にはならないよ』って。

そうだね。
そうだよね。

でもさ。ならさ。
傷つくのは私だけにして欲しいんだよ。

関係ない妹にその仕打ちをするのはなぜなんだい。

そのことにも意味があるというのなら、もう少しましな方法はないのかい。

神様にそう聞きたいよ。

どうしても。
何度も。何度も繰り返されたお兄ちゃんの抱えている大きな問題。

『と。も。だ。ち』

友達が欲しい。
名前の知らないような、今さっきあったような友達でも、ちょっとでも遊んだらもう親友になったと
思ってしまう。

友達は誰でも信用する。
誰でも家に連れてきてしまう。

その大勢の中には、どんな悪意を持った子がいるかなど思いもしないで。

夏休みになって、家に帰ると知らない子がいた。

あー。。。また始まった。。。そう思った。

中学の時の後輩。
その子は別の高校に今年入学した。
その子が中学生の後輩を連れて遊びにきた。

『知らない子は入れないでっていったよね』

『○○(中学の後輩)は知ってるしそいつが連れてきた友達だから知らない奴じゃないよ』

『じゃあ。名前は?』

『☆☆。』

『苗字は?』

『みんながそう言っているから☆☆としか知らない』

『フルネームも知らない子は知っている子とは言わないよ』

『うん。。。じゃあ遊んじゃダメなの?』

『家には入れないで』

そう言ったけど、お兄ちゃんは何度もその子を連れてきた。
そのたびに

『お兄ちゃんは警戒心がなさすぎだよ。そんな風に簡単に友達を入れていたら、お兄ちゃんの家は
親もいないし、家に入れてくれるって友達の友達が来てたまりばになっちゃうよ。

過去だって知らない子を簡単に連れてきて、どれだけゲーム機やソフトを盗まれたか忘れたの?
一人暮らしする気があるなら、もっと警戒心を持たないとどんな人が紛れているかわからないんだよ。』

何度も、何度も言った。

ある日
『俺、☆☆と友達になってからどんどん友達が増えるさ!』と得意げに言った。

『はあ。家に連れて来ないでよ』

『来ないよ。でも今日は☆☆の元カノジョに会ったさ。』

『女の子なんて絶対ダメだよ。中学生でしょ』

『分かってるって』脳天気に答えた。

そして数日後。。
あーちゃんが『お母さん、あーちゃんのウオークマンがないの。。。』

『どこかにしまったんじゃないの?』

『ううん。だってね、付けていたストラップだけが机の中にしまってあるの。あーちゃんストラップなんて外してないもん!』

『やられた!』過去の直感が体を心を貫く。

『お兄ちゃん!誰を家に入れたの?誰?あーちゃんのウオークマンストラップ外されて無くなってる!
ストラップだけ外して机の中に隠していくなんて。。盗まれてるよ!そうでしょ!』

大きく目を見開いて私を見て
『あいつだ。。☆☆の元カノ。あいつあーちゃんの机いじってウオークマン聞いてたんだ。やめろって言ったんだ。でも何度もあーちゃんの机を。。。。くっそー!!!!!』

『だから、あれほど入れないでって言ったのにどうして入れちゃったの?』
『ダメって言っても☆☆が連れてきちゃったんだ』

『一回入れたら、何度も来るに決まってるでしょ』

『あーちゃんの!ウオークマン返してよ』シクシク泣くあーちゃん。。
お年玉を貯めて買ったのに。。

そうだった。
過去にお兄ちゃんが知らない子を家に連れてきてしまったとき、私はいつもあーちゃんのゲーム機を
タンスの奥に閉まっていた。

今回は油断していた。
この2年、クラスのお母さんとも親しい子しか来ていなかった。
危ないと心の赤信号が点滅していたのにあーちゃんの机にゲーム機もウオークマンも置き去りにしていた。

お兄ちゃんに『知らない人は簡単に家に入れてはいけないんだよ』と言った。

しかしお兄ちゃんには『お母さんの言っている意味が分からない』と言う。

一度遊んだからもう知らない人じゃない。
だから知らない人の意味が分からない。

お母さんの知らない人だよ。と言っても
お母さんだって会って挨拶したら知らない人じゃないでしょっていう。

何があっても連絡つかない人でしょって言うと
『じゃあ、その子に連絡先を聞いたら良いのか』と言う。

お兄ちゃんにとって、家に友達を呼ぶことを禁止されることがどうしても受け入れられない。
家で友だちと遊ぶ事をどうしたらできるだろう。
そればかりが頭をいっぱいになって今起きた出来事の重大さを認識できない。


『どうしたら、友達を連れてきて良いのか』そればかりを何度も繰り返し言う。


あーーー。と落胆と絶望感が私の心を真っ暗にしていく。

『誰を入れていいか、誰が入れていけないのか分からない』そう言って口を尖らせる。
『わからない。お母さんの言っていることが分からない・。』

わからない。って言わないで。わかってよ

泣きたい気持ちで心の中でつぶやく。。。

じゃあどうすれば分かるのか。

一括りに知らない人の意味がわからない。
ならリスト作るしかない。

『お母さんと、お兄ちゃんで相談して家に入れていい人をリストにしましょう。
お兄ちゃんは家で友だちと遊びたいのを諦めきれない。それを止めれば隠れてでもやるんでしょ。
だったら一緒にリストを作ってその人以外は入れないというルールを作りましょう。』

それでようやく納得してくれた。

全然、ホッとしなかった。
全然解決策が見つかった気がしない。

私が生きている限り私はお兄ちゃんの家に招いていい人と、ダメな人のリストを作り続けなければ
いけないのだろうか。

こうして社会に出て、こんなに無警戒で無防備なお兄ちゃんが一人で暮らすことなど絶対にできないと
現実に突きつけられた気がする。

母が『そういうところがフツーじゃないんだよね』って言った。
『この前、地下鉄の中で大きな声で学校の不満をいとこに言っていて周りのお客がチロチロ見ててさ
いとこはうんうんって小さく頷いて周りに気を使ってフツーなのに、お兄ちゃんはそういうところが
フツーじゃないんだなって思ったさ』

お盆で帰省した時に、ウオークマンの話をしたらいきなりそう言われた。

『だったら、フツーじゃないなんて感心してないでその時にすぐ注意してくれたらよかったじゃない。
いとこと比べて『やっぱりちがう』って納得する場合じゃないでしょ。そんなのずっと前から分かってる事じゃない。周りが迷惑そうにチラチラ見てるなら『お兄ちゃん声大きいよ』って注意してくれないと
笑われてるお兄ちゃんだって恥ずかしいし可哀想でしょ!人と違うとこ見つけて納得なんかしてないでよ』

ウオークマンのショックも手伝ってせっかく街にいとこと一緒に連れ出してくれた母をきつく言ってしまった。

フツーじゃない。
フツーに暮らせない。

わかってるよ。。。



困ったなぁ

2011-11-20 21:30:23 | お兄ちゃん
「あいつは彼女ができて、人が変わってしまった。いったいどうしてしまったんだ。
もう耐えられない。絶交する!」

家に帰ってくるなり興奮して仲良し君の事を
「居なくなって欲しい。もうこれ以上言われたら俺マジ切れる。
ぶん殴りたい。消えろ!消えろ!消えろ!」

体を大きく揺らしながら大声で吐き出しつづける仲良し君への憎悪の言葉の数々。

「落ち着いてよ。いったい今日はどうしたの?また彼女の事?」

「だって!彼女の方から話しかけてくるんだ。だから返事くらいするだろ!
それを何話してたか全部俺に報告しろって言いやがって。
内容を話しても、(ほんとか?違うだろ。もっと違う話してただろ!ホントのこと言え!)って
いくら本当のこと言ったって全く信用しなくて疑いやがって!
ムカツク!なんなんだ。気が狂ってんだ。頭おかしいんだ!」

いったい・・・仲良し君はどうしてしまったのでしょうか。

彼女が出来たから疑心暗鬼になってしまったのでしょうか。

初めての彼女だから、いろいろ戸惑ったりするのはわかるんです。
私だって初めての恋の時は電話がちょっと来ないだけで不安になったりしたもんです。

だけど、ちょっとこれはあまりに行き過ぎているような気がします。
お兄ちゃんの肩をつかんで、力づくで「今まで彼女と話した事を全部報告しろ!」と迫ってきて
本当のことを言っても全く信用せず
「彼女を盗る気だろ!お前のことなんか全然信用できねー。今までの事を考えろ!」

お兄ちゃんは、なれない支援クラスにうつって不安だった頃に、すごく仲良くしてくれた
仲良し君の事を本当に大切に思っていて「あいつは俺の親友だ。あいつが俺を孤独から救ってくれたんだ」って
いつも言っていて。。

今までの事考えろってなんだろう。
お兄ちゃんは今までだって裏切った事もなければ、嘘をついて騙したこともないはず。
何かの妄想が仲良しくんの中で激しく渦巻いている気がする。

気分の浮き沈みの激しい仲良し君は、カッとなると「死ね!うぜー」とかひどい言葉をお兄ちゃんに
ぶつけてくる。
そんな時も「ほっとけば落ち着くから良いんだ」とショックを受けながらも許して仲良く遊んできたはずだった。

だけど今の仲良しくんにはお兄ちゃんは彼女を盗ろうと策略を練る嘘つきの泥棒になってしまったらしい。。

「もう!縁を切る!絶好だ!」

お兄ちゃんの怒りは頂点に達している。