トンネルの向こう側

暗いトンネルを彷徨い続けた結婚生活に終止符を打って8年。自由人兄ちゃんと天真爛漫あーちゃんとの暮らしを綴る日記

結局 泣き寝入り

2012-08-15 20:00:08 | お兄ちゃん
『でもさ。一番悪いのは盗んだその女の子だよ』


でも私はお兄ちゃんが許せない。
女の子の話が出たときに入れないでね。と言ったのに、『入れてないって。』とひょうひょうと嘘をついて私が来る前にその女の子を家から出していた嘘が許せない。

お兄ちゃんは、『その友達も、女の子も、家に来る前の日に外で遊んでたんだ。だから知らない人じゃなかった』と言い張る。

家に来る前にちょっと話しただけの、良く分からない得体のしれない人を知らない人と言うんだと言ってもお兄ちゃんの中の知らない人の定義に結びつかないからどんどんパニックになっていく。

私はお兄ちゃんに『もう、人を家に連れてきません』と言わせたい。
お兄ちゃんはどこまでも『今回は知らない人じゃなかった』とそのことにこだわって会話がぐちゃぐちゃになっていく。

最後はお兄ちゃんがなんだか分からないけれど、自分が悪かったんだ。とひどく落ち込んで布団に潜って
しまった。

私ももう話す言葉が思いつかず疲れ果て、ずっと。ずっと。こういう状況から抜け出せないんだ。
何度おなじ悔しさを味わったらお兄ちゃんはわかってくれるのだろうか。
何度味わっても同じなんだ。永遠に終わらない。

じっとテーブルを見つめているとあーちゃんがポツリとつぶやいた。

『あーちゃんの、ウオークマン戻って来ないのかな。
あーちゃん、そのお姉ちゃんにお願いしてみる。大切なんです。返してくださいって!』

ふと、気がつく。。。。


あーちゃんは、大切なウオークマンを盗まれたのに一度もお兄ちゃんを責めない。
『お兄ちゃんの連れてきた友達に盗まれたんだから!返してよ』
と一言も責めていないことに。。。

あーちゃんは何も悪いことをしていないのに。
一言も責めずにただ無くなったウオークマンが返ってくるかを心配している。

『あーちゃんは、一言もお兄ちゃんを責めないんだね。お兄ちゃんの連れてきた友達のせいでなくなったのにね』

『だって、お兄ちゃんはわざとじゃないもん。間違えちゃったんだよ』


『一番悪いのは盗んだその女の子だよ』パートの友達が言った言葉が胸にささる。

なんだか泣ける。。

あれから落ち着いて話を聞けば、その連れてきた男の子も女の子も、お兄ちゃんが卒業した中学の
特学のクラスの子だと分かった。

お兄ちゃんと同じ障害がある子だと分かった。

となると、お兄ちゃんとその男の子がその女の子の家に行って、ウオークマンの事を問いただすのは
とてもまずいと感じた。

お兄ちゃんも上手く説明できないだろうし、男の子も言葉に遅れがありそうな感じだった。

お兄ちゃんは背も大きいし、声も大きい。
返してもらうために興奮して大騒ぎになりかねない。。

その男の子は夏休み後もその子と同じクラスで過ごす事になる、どんな風にクラス中に伝わるか分からない。

お兄ちゃんの担任だった先生はまだ中学に在籍している。
その先生にとりあえずあった事を伝えなければいけない気がした。

こういう場合はいつもそうだけど。。。
盗んだところを見たわけじゃない。
お兄ちゃんの言葉しか聞いていない。
証拠がない。

だから結局泣き寝入りするしかない。

大抵はその後もそういう子は盗みを繰り返してボロがでて発覚するのだけれど、大抵は処分されているか、壊されていて戻ってこない。

お兄ちゃんにはそれらの理由を話して、『その男の子に会ったら、女の子が盗んだかも知れないことを
言ってしまうかもしれないし、その男の子は誰でも好きな子を連れて誰かの家に行きたいって思っちゃうところがあるんだよ。兄ちゃんも断れないならもうしばらく会わないようにしようよ。』

『そして、残念だけどウオークマンは諦めよう。でもあーちゃんは全然悪くないのにこんな目にあって
しまったんだよ。あーちゃんが一番可哀想だよね。

お兄ちゃんもそんな盗む子だなんて知らなかったかもしれないけれど、お母さんに嘘ついて入れて
盗まれてしまった事の責任はあるでしょ。

お母さんもへそくり出すからお兄ちゃんもお金を足してあーちゃんにウオークマンを弁償しようよ。』

お兄ちゃんもこれ以上この事に混乱したくないし、正直その女の子の家に行ってその子の親が出てきたら
どうしようと不安だったのだろう。

どこかほっとした顔をして、部屋へ行きお年玉を貯金している通帳を持ってきて
『これで、買ってあげて。。』と差し出した。

そしてしばらくその後輩の男の子と、女の子を連れてきた男の子とは会わないと言った。
そして夏休みが明けたら、担任の先生にこの事を話してどうしたら良かったのかを相談してみると言った。


私も中学の先生に連絡して、女の子が簡単に高校生の男の子の家に入ってきてしまった事と
家の中の物を勝手に触って無くなってしまったことを伝えようと思う。

本当に口惜しいけれど。。。

お兄ちゃんも知らない人の意味はわからないかもしれないけれど、いつかきっと。きっと。

だって妹のお財布からお金を盗ることをやめられなかったお兄ちゃんは、今は一円も違わず
小遣い帳を合わせられるようになった。

欲しいものは相変わらず沢山あるけれど、小遣いの中でやりくりできるようになって、追加でお金を要求することもなくなった。

だからきっと。諦めない。



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2012-08-12 20:17:58 | お兄ちゃん
悲しくて、悔しくて、やるせなくて、先の見えないドツボに嵌ったような気持ちです。

どんなに訓練しても、どんなに『成長しました』と言われても、
できないものはできない。

クリアできない困難はクリアできないんだ。

ちょっとでも気を抜いて『もう、大丈夫』なんて安心したなら、容赦なく
『ふざけるな!』って神様に横っ面を殴られる。

何か問題が起こるたびに、その事を聞いた人はその困難さにこう慰めるしかないのか
『この、出来事も無駄にはならないよ』って。

そうだね。
そうだよね。

でもさ。ならさ。
傷つくのは私だけにして欲しいんだよ。

関係ない妹にその仕打ちをするのはなぜなんだい。

そのことにも意味があるというのなら、もう少しましな方法はないのかい。

神様にそう聞きたいよ。

どうしても。
何度も。何度も繰り返されたお兄ちゃんの抱えている大きな問題。

『と。も。だ。ち』

友達が欲しい。
名前の知らないような、今さっきあったような友達でも、ちょっとでも遊んだらもう親友になったと
思ってしまう。

友達は誰でも信用する。
誰でも家に連れてきてしまう。

その大勢の中には、どんな悪意を持った子がいるかなど思いもしないで。

夏休みになって、家に帰ると知らない子がいた。

あー。。。また始まった。。。そう思った。

中学の時の後輩。
その子は別の高校に今年入学した。
その子が中学生の後輩を連れて遊びにきた。

『知らない子は入れないでっていったよね』

『○○(中学の後輩)は知ってるしそいつが連れてきた友達だから知らない奴じゃないよ』

『じゃあ。名前は?』

『☆☆。』

『苗字は?』

『みんながそう言っているから☆☆としか知らない』

『フルネームも知らない子は知っている子とは言わないよ』

『うん。。。じゃあ遊んじゃダメなの?』

『家には入れないで』

そう言ったけど、お兄ちゃんは何度もその子を連れてきた。
そのたびに

『お兄ちゃんは警戒心がなさすぎだよ。そんな風に簡単に友達を入れていたら、お兄ちゃんの家は
親もいないし、家に入れてくれるって友達の友達が来てたまりばになっちゃうよ。

過去だって知らない子を簡単に連れてきて、どれだけゲーム機やソフトを盗まれたか忘れたの?
一人暮らしする気があるなら、もっと警戒心を持たないとどんな人が紛れているかわからないんだよ。』

何度も、何度も言った。

ある日
『俺、☆☆と友達になってからどんどん友達が増えるさ!』と得意げに言った。

『はあ。家に連れて来ないでよ』

『来ないよ。でも今日は☆☆の元カノジョに会ったさ。』

『女の子なんて絶対ダメだよ。中学生でしょ』

『分かってるって』脳天気に答えた。

そして数日後。。
あーちゃんが『お母さん、あーちゃんのウオークマンがないの。。。』

『どこかにしまったんじゃないの?』

『ううん。だってね、付けていたストラップだけが机の中にしまってあるの。あーちゃんストラップなんて外してないもん!』

『やられた!』過去の直感が体を心を貫く。

『お兄ちゃん!誰を家に入れたの?誰?あーちゃんのウオークマンストラップ外されて無くなってる!
ストラップだけ外して机の中に隠していくなんて。。盗まれてるよ!そうでしょ!』

大きく目を見開いて私を見て
『あいつだ。。☆☆の元カノ。あいつあーちゃんの机いじってウオークマン聞いてたんだ。やめろって言ったんだ。でも何度もあーちゃんの机を。。。。くっそー!!!!!』

『だから、あれほど入れないでって言ったのにどうして入れちゃったの?』
『ダメって言っても☆☆が連れてきちゃったんだ』

『一回入れたら、何度も来るに決まってるでしょ』

『あーちゃんの!ウオークマン返してよ』シクシク泣くあーちゃん。。
お年玉を貯めて買ったのに。。

そうだった。
過去にお兄ちゃんが知らない子を家に連れてきてしまったとき、私はいつもあーちゃんのゲーム機を
タンスの奥に閉まっていた。

今回は油断していた。
この2年、クラスのお母さんとも親しい子しか来ていなかった。
危ないと心の赤信号が点滅していたのにあーちゃんの机にゲーム機もウオークマンも置き去りにしていた。

お兄ちゃんに『知らない人は簡単に家に入れてはいけないんだよ』と言った。

しかしお兄ちゃんには『お母さんの言っている意味が分からない』と言う。

一度遊んだからもう知らない人じゃない。
だから知らない人の意味が分からない。

お母さんの知らない人だよ。と言っても
お母さんだって会って挨拶したら知らない人じゃないでしょっていう。

何があっても連絡つかない人でしょって言うと
『じゃあ、その子に連絡先を聞いたら良いのか』と言う。

お兄ちゃんにとって、家に友達を呼ぶことを禁止されることがどうしても受け入れられない。
家で友だちと遊ぶ事をどうしたらできるだろう。
そればかりが頭をいっぱいになって今起きた出来事の重大さを認識できない。


『どうしたら、友達を連れてきて良いのか』そればかりを何度も繰り返し言う。


あーーー。と落胆と絶望感が私の心を真っ暗にしていく。

『誰を入れていいか、誰が入れていけないのか分からない』そう言って口を尖らせる。
『わからない。お母さんの言っていることが分からない・。』

わからない。って言わないで。わかってよ

泣きたい気持ちで心の中でつぶやく。。。

じゃあどうすれば分かるのか。

一括りに知らない人の意味がわからない。
ならリスト作るしかない。

『お母さんと、お兄ちゃんで相談して家に入れていい人をリストにしましょう。
お兄ちゃんは家で友だちと遊びたいのを諦めきれない。それを止めれば隠れてでもやるんでしょ。
だったら一緒にリストを作ってその人以外は入れないというルールを作りましょう。』

それでようやく納得してくれた。

全然、ホッとしなかった。
全然解決策が見つかった気がしない。

私が生きている限り私はお兄ちゃんの家に招いていい人と、ダメな人のリストを作り続けなければ
いけないのだろうか。

こうして社会に出て、こんなに無警戒で無防備なお兄ちゃんが一人で暮らすことなど絶対にできないと
現実に突きつけられた気がする。

母が『そういうところがフツーじゃないんだよね』って言った。
『この前、地下鉄の中で大きな声で学校の不満をいとこに言っていて周りのお客がチロチロ見ててさ
いとこはうんうんって小さく頷いて周りに気を使ってフツーなのに、お兄ちゃんはそういうところが
フツーじゃないんだなって思ったさ』

お盆で帰省した時に、ウオークマンの話をしたらいきなりそう言われた。

『だったら、フツーじゃないなんて感心してないでその時にすぐ注意してくれたらよかったじゃない。
いとこと比べて『やっぱりちがう』って納得する場合じゃないでしょ。そんなのずっと前から分かってる事じゃない。周りが迷惑そうにチラチラ見てるなら『お兄ちゃん声大きいよ』って注意してくれないと
笑われてるお兄ちゃんだって恥ずかしいし可哀想でしょ!人と違うとこ見つけて納得なんかしてないでよ』

ウオークマンのショックも手伝ってせっかく街にいとこと一緒に連れ出してくれた母をきつく言ってしまった。

フツーじゃない。
フツーに暮らせない。

わかってるよ。。。