トンネルの向こう側

暗いトンネルを彷徨い続けた結婚生活に終止符を打って8年。自由人兄ちゃんと天真爛漫あーちゃんとの暮らしを綴る日記

障害を受け入れる

2014-03-14 19:43:46 | お兄ちゃん
大きく膨らんだ風船がパンとはじけて割れてしまったかのように、お兄ちゃんは小さくしぼんでしまった。

私の心もしぼんでしまった。

いつも、問題が起こると「これは障害なのか。それとも性格なのか」という部分で悩んできた。

出会い系サイトで騙されるというのは普通の人でも起こりえる事である。
友達に騙されてしまう事もあるだろう。

私も、OLになったばかりの頃に、街頭でたっているアンケート調査に騙されて、高価な化粧品を買ってしまって後悔したことがある。

だけど、一度だけだ。
普通なら一度失敗したなら、気をつけるものだろう。
学習するだろう。と思う。

でも、お兄ちゃんにはその学習ができないのだ。

これが悪か善かを見分ける事ができないのだ。

自分の欲望をコントロールすることができず、世の中には悪い人や騙そうとしている人がいると知っている。
学校でも出会い系サイトの注意は、何度も何度もやって頭では理解しているのだ。

でも、自分の目の前にあるものが、良いものか、悪いものなのかは判断できないのだ。

だから、やりたいか、やりたくないか。欲しいか欲しくないかで判断して、やりたい時はすべて良く見えてしまうのだ。

お兄ちゃんから目を離してはいけないんだ。
いつも注意深く見ていなければいけないんだ。
楽になる事は一生ないんだ。

そう悟った私は、お兄ちゃんを連れて、精神科へ行った。
そこで診断書を書いてもらい、特別児童扶養手当を受け取る事にした。

困っている状態を説明して、診察してもらった結果、お兄ちゃんの障害は「知的には軽度であるけれど、思考、行動に著しい偏りがあり、著しく生活に支障をきたしているため障害は中程度とする」となっていた。

行為障害、思考障害にも、○がつけられていた。

卒業後の進路も、一般就職は、メンタル面で弱すぎて薦められないとの判断で、就労継続支援施設に行くこととなった。

そこで、しばらく働いて技術や仕事能力が向上すればA型として、雇用が認められ、保険もつくようになるという事だった。

道は長いけれど、お兄ちゃんは「頑張ってA型になる」と張り切っている。

卒業式も終わり、支援施設の説明会のために「もう、制服は着れないから、背広を作ろう」と言って紳士服売り場で
背広を作った。

孫にも衣装で背が高く、足も手も長いお兄ちゃんはとっても良く似合ってカッコよかった。

どんな形でもこれからは社会人だね~としみじみお兄ちゃんと話した。

施設ではどれくらい工賃をもらえるかわからないけれど、自分で払えるようになったら、スマホを買うんだそうだ。


卒業式の日、


「今まで、困った時は一緒に考えてくれてありがとう。 お弁当もありがとう。 働いたら、お金を貯めて家族でデズニーランドに行きましょう。」

クラスの皆の前で、母への手紙を読んでくれて渡された。


色々あったね。3年間あっという間だったね。

君は辛いばっかりだったって言うけれど、お母さんも辛い事いっぱいあったけれど、

でもやっぱり、とても良い経験だったし、良い先生やお母さん方に出会えてお母さんは幸せだったよ。

これからは、自立に向けて、少しでも前に進んでいこう。
一緒に考えて頑張っていこうね。

卒業、おめでとう。お兄ちゃん。

こちらこそありがとう。

失望

2014-03-04 19:39:53 | お兄ちゃん
お兄ちゃんに障害があると分かった時、一日中「可哀そうに」と泣いた。

そのあと、同じ障害のある子や親との出会いで、障害があっても前を向いて頑張っていけば
社会に出る事ができる。
職場見学で、卒業した子達が、一般就職をして立派に社会人になっている姿をみて、いつかお兄ちゃんも
こんな風に社会にでて行く事になるのだろう。

結婚も子供もいて車の運転もして生活している卒業生の話を聞けば、お兄ちゃんだってと未来を重ねていた。

しかし、目の前で真っ青な顔をしてうなだれ、『誰も俺の気持ちを分かってくれないんだ!俺の人生なんなんだ!』
と言ってボロボロと涙を流す姿を見た時、
心の底から「なんで普通に生んでやれなかったんだろう。」って後悔した。

パンドラの箱が開いてしまったお兄ちゃんの心は、私の知らないところで暴走していた。

色んな、サイトに次々と年齢を偽って登録しまくり、何度か約束をして会いに行くも、すっぽかされ
それが相手の手口とは気づかず、「あなただけに特別な情報をあげます」いう言葉に騙され、お金をだまし取られてしまったのだった。

家にあった大切に遊んでいたゲームソフトを片っ端から売り払い、私に嘘をついてお金をもらい、
お金を渡してしまった。

渡したとたんに、登録したサイトは閉鎖され、連絡がつかなくなるしくみだった。


それでもまた新しいサイトの相手に会いに行こうとして、私も様子がおかしい事にやっと気づき、
登録しているサイトを片っ端から調べるとどれも詐欺サイトで登録されているものばかりだった。

「お兄ちゃんの登録しているサイトは全部詐欺サイトだよ。騙されているんだよ」と言うと

「知ってる。もう騙された。でも彼女を作らなくちゃいけないんだ」


と言い「自分が恐い。スイッチが入ると止まらなくなるんだ」


頭の中が真っ白になってしまって、次の瞬間
「ばか!本当にあんたは大馬鹿だ!そんなものにまた騙されて、彼女なんかいなくたって、楽しい事は沢山あるじゃないか。
卒業して、働いてお金を自分で貰えるようになったら、もっともっと色んな楽しい事が出来るじゃないか。
旅行だって、コンサートだって、バスケの試合を見に行ったり、いっぱいいっぱいあるじゃないか。

なんてバカなんだ。本当に馬鹿だ」

情けなくて、悔しくて、せつなくて、泣けて泣けて仕方なかった。

なんで、普通に生きられないんだよ。
なんで、普通に成長できないんだよ。

何度も何度も騙されて、それでも騙されて、痛い目に会っても、どうしても抜け出せないんだね。


それが君なんだ。
それが君の障害なんだ。

もう先なんかない。未来なんかない。

私は大きな失望感を味わったのだった。

(続く)