トンネルの向こう側

暗いトンネルを彷徨い続けた結婚生活に終止符を打って8年。自由人兄ちゃんと天真爛漫あーちゃんとの暮らしを綴る日記

白い手のひと

2011-11-28 19:52:56 | ポエム
あの日。

白く細い手をそっと揺らして立ち去ったあの人は

紫のきものを着て白い箱に横たわっていました。

あの頃よりも更に小さくなった顔は、半身不随になった歪みもなく

ちょっと口角を薄くあげて、私が覚えているどんな笑顔より穏やかに笑って眠っていました。

きっと孫に会いたがっているだろうと分かっていた。

いつか会いに来てくれるだろうかと待っているだろうと分かっていた。

やろうと思えば出来たはずだった。

どこにいるかわからなくなっていたけれど、知るすべはあった。

だけど私はやらなかった。

出来たのにやらなかったのだ。

何もしなかったのに、起きた出来事に打ちのめされ悲しむなど、許されない。

だけど悲しくて泣いた。

泣いて詫びるしかできなかった。

あの頃、私達を混乱に巻き込んだあの人は

車椅子に乗ってあの頃と変わらない様子で座っていました。

今日は酔っていなくても明日はきっとまた変わってしまうだろうと思えるほど何も変わっていませんでした。

来るはずがないと諦めていた孫の登場に目を細め何も変わらない口調で私を「ちっこ」と呼びました。

あの頃、私を本当の姪っ子のように可愛がってくれた叔母たちは、何も告げずに出ていった私を責める事もなく

みんな手に手をだして私をさすって「来てくれてありがとう」と泣いていた。

あっという間に引き戻される過去に私はオロオロと戸惑うしかなかった。

「お義母さんは、孫たちを一番待っていた。最後に会えて本当に喜んでいることだろう」そう言ってまた泣いた。

しかし、お義母さんがきっと一番待っていたであろうあの人は、遂に顔を見せることはなかった。

「俺は縁を切った。あなたも葬儀にはでないでください」

葬儀の前に叔母が「ずいぶん苦労したんだってね。全部知っているからね。離婚したあともあの子はまた借金をして
お父さんが年金から払っているんだよ」と言った。

何も変わっていなかったのかと思い知らされる現実に、
そうかもしれないと思っていても聞かされた事実に
どうにもやりきれなさが残る。

非現実な場所から帰ってきて、いつもの子供たちの笑い声に体の底の力がぬけていく。

白い手のあの人は、40年前に一人お墓に入った小さな娘のもとにようやく帰っていった。

突然倒れて調べたら末期の癌に侵されていた。
かなりの激痛を耐えていたはずだと医者は言った。

「我慢強い人だったから」皆が口々に言った。

あの人はいつも何かに投げやりだった。
どんなに苦しいことも、辛いことも、あの悲しみに比べたらどうでも良いよと言わんばかりに
ただ指折り数えてその日を待っているように私には見えた。

あなたらしい。

棺のまえで泣く私に、薄く笑った唇が「別に良いよ」って言ったような気がして救われた。

さようなら。お義母さん。








困ったなぁ

2011-11-20 21:30:23 | お兄ちゃん
「あいつは彼女ができて、人が変わってしまった。いったいどうしてしまったんだ。
もう耐えられない。絶交する!」

家に帰ってくるなり興奮して仲良し君の事を
「居なくなって欲しい。もうこれ以上言われたら俺マジ切れる。
ぶん殴りたい。消えろ!消えろ!消えろ!」

体を大きく揺らしながら大声で吐き出しつづける仲良し君への憎悪の言葉の数々。

「落ち着いてよ。いったい今日はどうしたの?また彼女の事?」

「だって!彼女の方から話しかけてくるんだ。だから返事くらいするだろ!
それを何話してたか全部俺に報告しろって言いやがって。
内容を話しても、(ほんとか?違うだろ。もっと違う話してただろ!ホントのこと言え!)って
いくら本当のこと言ったって全く信用しなくて疑いやがって!
ムカツク!なんなんだ。気が狂ってんだ。頭おかしいんだ!」

いったい・・・仲良し君はどうしてしまったのでしょうか。

彼女が出来たから疑心暗鬼になってしまったのでしょうか。

初めての彼女だから、いろいろ戸惑ったりするのはわかるんです。
私だって初めての恋の時は電話がちょっと来ないだけで不安になったりしたもんです。

だけど、ちょっとこれはあまりに行き過ぎているような気がします。
お兄ちゃんの肩をつかんで、力づくで「今まで彼女と話した事を全部報告しろ!」と迫ってきて
本当のことを言っても全く信用せず
「彼女を盗る気だろ!お前のことなんか全然信用できねー。今までの事を考えろ!」

お兄ちゃんは、なれない支援クラスにうつって不安だった頃に、すごく仲良くしてくれた
仲良し君の事を本当に大切に思っていて「あいつは俺の親友だ。あいつが俺を孤独から救ってくれたんだ」って
いつも言っていて。。

今までの事考えろってなんだろう。
お兄ちゃんは今までだって裏切った事もなければ、嘘をついて騙したこともないはず。
何かの妄想が仲良しくんの中で激しく渦巻いている気がする。

気分の浮き沈みの激しい仲良し君は、カッとなると「死ね!うぜー」とかひどい言葉をお兄ちゃんに
ぶつけてくる。
そんな時も「ほっとけば落ち着くから良いんだ」とショックを受けながらも許して仲良く遊んできたはずだった。

だけど今の仲良しくんにはお兄ちゃんは彼女を盗ろうと策略を練る嘘つきの泥棒になってしまったらしい。。

「もう!縁を切る!絶好だ!」

お兄ちゃんの怒りは頂点に達している。





メル友

2011-11-05 10:56:38 | お兄ちゃん
「○○さんとメール交換したいんだけど言いかな」

○○さんとはお兄ちゃんの仲良しくんの彼女である。
知的障害者、情緒障害者同士の男女交際。

精神年齢がちょっと高めな子達は普通に思春期を迎え、女の子にも興味をもつ。
当たり前のコトなんだけどこれが障害があると結構大変なのである。

こだわりが強い仲良し君は、彼女=俺の者になってしまう。
「なんで、俺の彼女なのにお前が話しかけるんだ!」
と授業のグループが同じで勉強の内容の事を話しただけでも、授業が終わったあとで
鬼の形相で詰め寄ってくる。

最初は彼女に「なんで俺の彼女なのに他の奴と話すんだ。」とあいさつをした程度でも
切れていたらしいが、彼女の両親が落ち込む彼女を見かねて学校へ相談に行き、
仲良し君に指導がはいり、彼女へ言えない分周りに話しかけるなと言いまわっているらしい。

特にお兄ちゃんに対して警戒心が強く、給食でちょっとぶつかっただけでも
「なんでぶつかってんだ!わざとだろう。お前彼女を盗ろうとしてるだろう」と帰宅後延々と
怒りメールが届く。

いくら「お前の彼女には興味ない。友達の彼女とってまで彼女欲しくねー」と言っても
「俺にはそうは思えない。おまえの話しかけ方がそういうふうに聞こえるんだ!」と
もう、どう言っても無駄状態。。。

友達が彼女、彼女と言ううちに、自分も女の子と親しく話してみたい。そう思うようになったのだろう。
違うクラスの女の子の話があうからその女の子とメール交換したいと言った。

学校は男女交際にとても慎重になっていて、メール交換もトラブルが多く簡単に交換はできないことに
なっている。
親や先生の了解がないとできない。

クラスも別だし、その女の子の両親も知らないし、それほど親しくもなさそうだし、
お兄ちゃんは話が合うだけで「彼女っていうかな?」と人を好きになると言うことには程遠い感じがする。

もう少し親しくなって、お互いに交換してみたいねってなったら先生に聞いてみても良いからと
様子を見ていた。

すると、仲良し君の彼女がいろんな人とメールしてみたいといって、お兄ちゃんにアドレスを
渡した。
お兄ちゃんは、女の子ともメールしたくて「やっても良い?」と言う。

うーん。仲良し君の彼女で、あれほど仲良し君が彼女との接触を嫌がっているのを知っていて
メル友にかあ。

大きなトラブルの元のような気がする。

「仲良し君が嫌がっているってわかってるんだから止めた方が良いんじゃないの」
と言うと
日頃、挨拶をしたり、授業の内容の返事をしただけでも
「俺の目の前で彼女と話すな」と睨みつけられクドクド「彼女を盗るきだろう」と責められ
イライラしているお兄ちゃんは

「俺は盗るって疑われるのすら嫌なのにあいつが勝手に疑いやがってむかつくんだ。
なんであいつの疑いのためにわざわざ○○さんがくれたアドレスを返さなくちゃいけないんだ。
○○さんが交換したいっていったんだ!」と切れまくった。

「でもさぁ。普段からそうなんだから、メール交換したとかメールやり取りしてたらどうなるか。。。」

「じゃあ。先生に相談する」と言って
先生と○○さんとお兄ちゃんで相談したらしい。

結果。先生は「仲良し君が○○さんの行動を規制するのはおかしいこと。そのために必要な会話もできないのは良くない。メール交換も○○さんのご両親も良いと言っているなら友達としてのルールを守って
交換しても良いんじゃないの」という返事だった。

先生からの連絡帳にも書いてあった。

わかるんだよ。
仲良し君はやりすぎだって。
でもさ。お兄ちゃんは仲良し君の友達で、仲良し君がどれほど嫌がっているか分かっていて
それでもメールのやりとりをする必要があるのか。。。

でもお兄ちゃんはすごく興奮して「○○さんがやりたいって言ってるのにおれが断るのはおかしい!
あいつなんて俺を疑いやがって友達じゃない!」

「○○さんがやりたいって言うけどお兄ちゃんはどうなの?やりたいの?そこが大事だよ」

「俺もやりたい!」

こういうふうになっちゃうともう止められないんだよね。「メールやり取りしても、遊びに行く約束とかはダメだよ。友達としてのやり取りだよ」
と言ったところでそんなあいまいな表現がお兄ちゃんに通じるのかどうか・・・

メール交換ができたお兄ちゃんは朝から○○さんとメールをやり取りしている。
良いのかなぁ。
私はどうにも不安なんですが。。。