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由緒正しいサウロルニトイデス



サウロルニトイデス・モンゴリエンシスは、白亜紀後期カンパニアン(Djadokhta Formation)にモンゴルのバヤン・ザクBayan Zagに生息した中型のトロオドン類で、Osborn (1924) によって記載された。その当時、トロオドンの歯は発見されていたが獣脚類と認識されていなかったので、サウロルニトイデスは最も由緒正しいトロオドン類である。実際にトロオドン科は一時期、サウロルニトイデス科と呼ばれたことがある。
 その後ブギン・ツァフのネメグト層から保存のよい頭骨を含む部分骨格が発見され、Barsbold (1974) によりサウロルニトイデス・ジュニアSaurornithoides juniorと命名された。頭骨の特徴がサウロルニトイデス・モンゴリエンシスと似ていることと、モンゴルの上部白亜層から産することから同属とされたものである。しかしさらにその後、Norell et al. (2009)が再検討した結果、これら2種はトロオドン類の中で近縁ではあるが、同属とするほどではないと考えられ、サウロルニトイデス・ジュニアは新属ザナバザル・ジュニアとなった。
 サウロルニトイデスのホロタイプは、ほとんど完全だが侵食された頭骨、一連の胴椎、仙椎、尾椎、部分的な腰帯と後肢の骨からなる。

Norell et al. (2009) はサウロルニトイデスとザナバザルを比較・再検討している論文なので、サウロルニトイデスの特徴は、最も近縁なザナバザルとの違いで表現されている。サウロルニトイデスに固有の形質があまり表現されていないようにみえるが、これでいいのだろうか。

サウロルニトイデスとザナバザルの違い
1)大きさ:最も明らかな違いは全体の大きさで、サウロルニトイデスの方が小さい。頭骨の長さはサウロルニトイデスが189 mm に対してザナバザルが272 mm である。これは1個体同士の比較であるが、どちらも成体である。

2)歯の数:サウロルニトイデスの方が歯の数が少ない。サウロルニトイデスでは上顎骨歯19 、歯骨歯31-33 であるが、ザナバザルでは上顎骨歯19-20 、歯骨歯35 である。

3)頰骨の形:頰骨の眼窩の下の部分がザナバザルではカーブしているが、サウロルニトイデスではまっすぐである。

4)脳函の窪み:サウロルニトイデスでは、脳函の前耳骨の側面で三叉神経孔の背側に、含気性の窪みがある。この窪みはザナバザルにもトロオドンにもない。ただしこの窪みはビロノサウルスやシノヴェナトルにもみられるので、派生形質ではなく原始形質と思われる。

5)サウロルニトイデスの上顎骨歯は後方へいくにつれて大きくなるが、その程度はザナバザルの場合より小さい。

6)サウロルニトイデスの上顎骨歯には交代ギャップreplacement gap がないが、ザナバザルにはある。

著者らは5)6)の点について、サウロルニトイデスはメイやシノヴェナトルと似ており、ザナバザルはビロノサウルスと似ていると言っている。


サウロルニトイデスは派生的なトロオドン類なので、多くのトロオドン類の特徴を一通り備えているようである。下顎はひどく侵食されているので、歯骨の側面の溝は後方 1/3 くらいの部分のみ明確に観察される。また下顎は上顎の内側にはまり込んでいるので、下顎の歯列は内側からのみ観察できる。歯列は上顎も下顎も同じ傾向を示すのであるが、歯骨の先端の歯は保存されていないようだ。上顎骨歯と歯骨歯は典型的なトロオドン類の歯であり、後縁のみに大きな鋸歯がある。
 後肢の骨のうち、足は部分的にしか保存されていないが、第II中足骨が細く第IV中足骨が太い、第III中足骨は近位で細くなっているなど、非対称でアルクトメタターサルと考えられる特徴を示す。第II趾のカギ爪はほどほどに発達している。後方の尾椎は保存されていないので、背側の溝などの情報はない。


サウロルニトイデスの顔は細長いが、意外としっかりしている印象がある。もう少し保存が良ければ、ザナバザルに負けない標本になっていたような気がする。



参考文献
Norell MA, Makovicky PJ, Beaver GS, Balanoff AM, Clark JM, et al. (2009) A Review of the Mongolian Cretaceous dinosaur Saurornithoides (Troodontidae: Theropoda). Am Mus Novit 3654: 1-63.
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