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ゼニュアンロン(ジェンユエンロン)



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ゼニュアンロン(ジェンユエンロン、ジェニュアンロン、ジェンユアンロン)検索のための文字列
(またやっかいな中国語名で、多分ジェンユエンロンが近いと思うが、きりがないので今回ローマ字読みで妥協する。ティアンユーもティエンユーとかティアニュとか好きに読んで下さい。)

ゼニュアンロンは、白亜紀前期に中国遼寧省に生息したドロマエオサウルス類で、2015年に記載された。羽毛の痕跡を含む、ほぼ全身の骨格が発見されている。ホロタイプはかなり成熟に近い亜成体とされている。
 中国遼寧省のドロマエオサウルス類としては、これまでに5つの属が知られていた。チャンギュラプトル、グラキリラプトル、ミクロラプトル、シノルニトサウルス、ティアンユーラプトルである。これらのほとんどは小型の動物で、長い前肢と羽板のある羽毛でできた大きな翼をもっている。唯一ティアンユーラプトルだけは、全長2m近い大型種で、後肢に比べて短い前肢をもっていた。しかし残念ながらティアンユーラプトルの標本には羽毛が保存されていなかったので、このような短い前肢をもつ種類が小型種と同じような大きな翼を持っていたかどうかは、わかっていなかった。今回Lu: and Brusatte (2015) は大型で前肢の短い2番目のドロマエオサウルス類を発見し、新属新種ゼニュアンロン・スニとして記載している。ゼニュアンロンでは羽毛がよく保存されており、小型で前肢の長い種類と同様に、大きな翼と長い尾羽をもつことがわかった。ただし、後肢にはおそらく長い羽毛はないという。
 ゼニュアンロンは遼寧省のドロマエオサウルス類としては大型のもので、保存された標本の全長は126.6 cmあり、尾の半分が失われていると考えられるので、実際の全長は165 cmに達すると推定される。これは遼寧省のドロマエオサウルス類の中ではティアンユーラプトルに次いで2番目に大きい。

ゼニュアンロンは、以下の形質の固有の組み合わせをもつドロマエオサウルス類である。撓骨が非常に細く、その骨幹は指骨 I -1 よりも細い;第II中手骨の長さが、第 I 中手骨と指骨 I -1 を合わせた長さよりも短い(他の遼寧省のドロマエオサウルス類では第II中手骨の方が長い);6個の仙椎;前肢が短く後肢のおよそ1/2の長さで、上腕骨/大腿骨の比率が0.65以下、尺骨/大腿骨の比率が0.55以下、手/大腿骨の比率が0.90以下である(この形質は遼寧省のドロマエオサウルス類の中ではティアンユーラプトルとのみ共有する)、などである。
 ゼニュアンロンは、前眼窩窩の腹側が鋭い縁で縁取られている(シノルニトサウルスと同様)、腸骨の後寛骨臼突起の後端が尖っている、などの形質でティアンユーラプトルとは異なっている。またゼニュアンロンとティアンユーラプトルでは四肢の比率も多少異なっており、ゼニュアンロンの方が後肢と比べて前肢がより短く(0.48 と0.53)、大腿骨に対して手がより短い(0.76と0.86)。しかし1個体ずつで比較しているだけなので、同種内の変異についてもっとデータがないと差があるとはいえない。このくらいの比率の違いは、ミクロラプトルなど多くの標本がある種類の種内変異の範囲内なので、ゼニュアンロンとティアンユーラプトルを区別する特徴とはいえないとしている。

羽毛は体のいくつかの部位、特に前肢と尾でよく保存されている。前肢の大きな翼は、羽軸と羽枝のある大羽で形成されている。保存上のゆがみにより翼全体の形ははっきりしないが、かなり面積が大きいものである。右の翼では、雨覆、初列風切、次列風切が確認できる。翼の大きさ、形、羽毛の構造は全般的にミクロラプトル、チャンギュラプトル、アンキオルニス、エオシノプテリクスなどに似ている。
 右の翼には、約30本の小さい羽毛が尺骨と第III 中手骨に付着しているのが保存されている。これらは、初列風切と次列風切の背側を覆う大雨覆である。多くは尺骨にほぼ垂直に付いているが、第III 中手骨に付いた遠位のものは斜めを向いており、手の長軸に対してほぼ平行になっている。これらの雨覆は現生鳥類のように短く、アルカエオプテリクスで推定されているように長く伸びてはいない。
 初列風切と次列風切も確認できるが、雨覆ほど保存が良くはない。これらの羽毛を数えるのは難しいが、約10本の初列風切と20本の次列風切があるようである。長さを測るのも難しいが、初列風切も次列風切も上腕骨の2倍以上の長さがある。これはミクロラプトルや現生鳥類と同じである。アンキオルニスやエオシノプテリクスでは1.5倍であるという。保存の良い右の翼では初列風切の方が次列風切よりも長い。次列風切は尺骨に対して垂直方向を向いているが、初列風切は手に対して鋭角をなしている。このような配列はミクロラプトルと非常によく似ている。いくつかの初列風切と次列風切は非対称な形にみえる。
 このようにゼニュアンロンは前肢が短いわりに、ミクロラプトルとよく似た大きく複雑な構造の翼をもっている。この翼が何らかの航空力学的機能をもっていたかどうかは、生体力学的解析をしないとわからないが、体の大きさと前肢の短さを考えると可能性は小さいといっている。大型で前肢の短いゼニュアンロンは、小型で飛行性の祖先から進化し、祖先の翼の特徴を飛行のためではなく別の理由で保持しているかもしれない。大きく複雑な翼はディスプレイには有用だろうといっている。

系統解析の結果はちょっと意外なものであった。従来は、遼寧省のドロマエオサウルス類はミクロラプトル亜科Microraptorinaeとしてクレードをなすことが多かったが、ゼニュアンロンを加えて解析すると解像度が悪くなってしまった。今回の系統解析では、ゼニュアンロンとティアンユーラプトルが「前肢の短いドロマエオサウルス類」としてクレードをなすことはなかった。また遼寧省のドロマエオサウルス類が一つのクレードをなすこともなかった。代わりに、すべての遼寧省のドロマエオサウルス類と、ローラシアのドロマエオサウルス亜科やヴェロキラプトル亜科を含むクレードが大きなポリトミーをなした。この不確実性は広汎な収斂によるものである。現在のところ、遼寧省のドロマエオサウルス類が一つのクレードをなすのかどうか、その中に「前肢の短いドロマエオサウルス類」のグループがあるのかどうか、はっきりしないという。ミクロラプトル類が実は多系統になってしまうとすれば、ドロマエオサウルス類の系統関係に大きな影響がありそうである。

この論文には、化石の発見の経緯や地質の情報がないので、寄贈された標本だなと予想できる。学名はスン・ジェンユエン氏への献名で、「この美しい化石を研究のために保全した栄誉をたたえて」とあるので、てっきりこの人が寄贈者と思ったら、どうも違うようだ。博物館に寄贈したのは地元の農民で、素性を明かそうとしなかったとある。そうするとスン・ジェンユエン氏の役割は、農民が化石ブローカーに売ろうとしたのを思いとどまらせ、博物館に寄贈するように説得したということなのか。名前を出したくないということは、多分ああいうことなのだろうが、どんなドラマがあったのか、いろいろ勘ぐってしまう。

参考文献
Lu: , J. and Brusatte, S. L. A large, short-armed, winged dromaeosaurid (Dinosauria: Theropoda) from the Early Cretaceous of China and its implications for feather evolution. Sci. Rep. 5, 11775; doi: 10.1038/srep11775 (2015).
コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
Unknown (エドワード)
2016-01-12 18:23:32
ドロマエオの前肢の退化は割と頻繁に独立して起こっている感がありますね。地上性への適応の結果というところなのでしょうけど、かなり大きな羽毛が保持されているのには驚きました。
 
 
 
そうですね。 (theropod)
2016-01-20 00:59:42
コメントありがとうございます。南米のアウストロラプトルなども翼はどうだったのでしょうね。
 
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