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スキピオニクスはカルカロドントサウルス類の幼体かもしれない



スキピオニクス・サムニティクスScipionyx samniticus は、前期白亜紀アルビアン(Calcari Selciferi e Ittiolitiferi di Pietraroja Formation )にイタリアのBenevento Province に生息した小型の獣脚類である。極めて保存が良いことで知られ、ほとんど全身の関節状態の骨格のほか、軟組織や内臓の痕跡も保存されている。Dal Sasso & Maganuco (2011) によって、骨格や軟組織を含めて詳細に研究したモノグラフが出ている。スキピオニクスのホロタイプ標本は保存された部分が24 cm、失われた尾椎を含めて全長 46 cmと推定されている。
 スキピオニクスの系統上の位置について解析した研究はいくつかあるが、いずれもスキピオニクスは基盤的なコエルロサウルス類、特にコンプソグナトゥス科に含まれるとしている。多くの解析では、これは小型のコエルロサウルス類だろうということで、最初からコエルロサウルス類以外の獣脚類の可能性は想定していなかった。Dal Sasso & Maganuco (2011)も述べているように、スキピオニクスの系統上の位置を決めるためには、唯一の標本が非常に未熟な発生段階にあることが障害となっている。ホロタイプにみられるいくつかの特徴は、この種類の成体の形質とは異なるかもしれず、このことが成体しか見つかっていない他の獣脚類との正確な比較を困難にしている。大型の恐竜では、同じ種類の成体と幼体で形態が大きく異なるため、過去には成体と幼体が別の種とされてきた例がある。

コンプソグナトゥス科に含まれる種類はいずれも全長2m以内の小型の獣脚類で、他のコエルロサウルス類と比べて形態が特殊化していないのが特徴である。コンプソグナトゥス類の生息年代は後期ジュラ紀から前期白亜紀にわたり、これはカルノサウルス類(アロサウロイドとメガロサウロイド)の生息年代と一致する。多くのコンプソグナトゥス類の体のサイズは、大型のテタヌラ類の幼体の推定サイズと一致する。さらにコンプソグナトゥス科とされる種類のいくつかは、非常に幼若な個体しか見つかっていない(ジュラヴェナトル、スキピオニクス)。非常に未成熟な標本しかない、もう一つのコンプソグナトゥス段階の種はスキウルミムスで、これはメガロサウロイドとされている。一方、大型のテタヌラ類の幼体の化石はほとんど見つかっていない。このことを解決する一つの方法は、コンプソグナトゥス類全体か少なくともその一部が、大型のテタヌラ類の幼体であると考えることである。この仮説によると従来のコンプソグナトゥス科は単系群ではなく、異なるテタヌラ類の系統の非常に未熟な個体を含む多系群ということになる。ただし、この仮説は一部の種類が、真に小型で特殊化していない単系のコンプソグナトゥス科をなすことを否定するものではない。

そこでCau (2021) は、マニラプトル類以外のテタヌラ類について2通りの方法で系統解析を行った。1つ目の方法は、最新の2018年の形質データを用いて、従来のように系統解析を行った。2つ目の方法は、未成熟な標本しかない3種(ジュラヴェナトル、スキピオニクス、スキウルミムス)について、幼体であることの影響を受けないような特別なスコアリングを考えて適用してみた。1つ目の解析では、この3種は非常に近縁となり、コエルロサウルス類のコンプソグナトゥス科の中でクレードをなした。この結果は過去の多くの研究と一致している。一方、2つ目の解析では、ジュラヴェナトル、スキピオニクス、スキウルミムスはテタヌラ類のそれぞれ異なる系統に振り分けられた。ジュラヴェナトルはメガロサウルス科のエウストレプトスポンディルス亜科に含まれた。スキウルミムスは基盤的なメガロサウロイドとなった。そして、スキピオニクスはアロサウロイドのカルカロドントサウルス科に含まれた。

では、スキピオニクスのどの辺がカルカロドントサウルス類と似ているのだろうか。他のコンプソグナトゥス類にはみられないスキピオニクスのいくつかの特徴は、アロサウロイドあるいはカルカロドントサウルス類との類縁を支持している。例えば5本の前上顎骨歯(アロサウルスとネオヴェナトルにみられる);上顎骨の上行突起にはっきりしたmaxillary fenestra がなく、代わりに内側の閉じた窪みがある(アクロカントサウルスなど多くのアロサウロイドにみられる)、上顎骨の後端がpreorbital bar(涙骨の腹側突起あたり)よりも後方まで伸びている(多くのカルカロドントサウルス類にみられる)、鼻骨が前眼窩窩の縁に参加している(アロサウロイド)、後眼窩骨の腹側突起に凸型の突起がある(カルカロドントサウルス類の眼窩下突起の萌芽的な状態かもしれない)、腸骨の前端に切れ込みがある(コンカヴェナトルとティラノサウルス類にある)、前方の尾椎の側面にプレウロシールがある(カルカロドントサウルス類)、などである。その他のスキピオニクスの形質もカルカロドントサウルス類との類縁を否定するものはないという。

もともと、コンプソグナトゥス類の前上顎骨歯は4本なのにスキピオニクスは5本とか、コンプソグナトゥス類の歯冠は根元がまっすぐで先端が急に屈曲する特徴的な形をしているが、スキピオニクスはその特徴を示さないとか、いくつかの違いが指摘されていた。手の第3指の長さの比率も異なるという。
 スキピオニクスの成体の大きさを論じるのは難しいが、コンプソグナトゥス類という想定からせいぜい2m以内と推定されていた。それがカルカロドントサウルス類となると、アロサウルス以上の大きさでもおかしくない。最近、イタリアからはティタノサウルス類の化石も出ていることから、この時代の北アフリカにみられるような中型ないし大型の恐竜相が、イタリアにもあった可能性があるという。
 これは、恐竜化石が少ないイタリアの恐竜ファンにとっては嬉しい研究だろう。ぜひ成体の化石が見つかってほしいものである。



参考文献
Cau, Andrea (2021). "Comments on the Mesozoic theropod dinosaurs from Italy". Atti della Società dei Naturalisti e Matematici di Modena. 152: 81–95.
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