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ルソヴェナトル:アロサウルスと共存したカルカロドントサウルス類



今年はジュラシックワールドのギガノトサウルスとメラクセスの記載で、カルカロドントサウルス類業界がいつになく盛り上がっている。誠に喜ばしいことである。カルカロドントサウルス類のイメージといえば巨大肉食恐竜で、カルカロドントサウルスやギガノトサウルスのように、ティラノサウルスに匹敵するか上回る巨体に大きな頭、ごつごつした頭骨の装飾、ナイフのように薄い歯といったところである。しかし白亜紀前期のネオヴェナトルの段階では頭骨にはそれほど特色はなく、脊椎や腸骨の含気性構造の発達などが先行していた。それではネオヴェナトルやコンカヴェナトルよりも前の祖先はどうだったのだろうか。

ルソヴェナトル・サントシLusovenator santosiは、後期ジュラ紀キンメリッジアンからチトニアンに、ポルトガルのルシタニア盆地Lusitanian Basinに生息した最古のカルカロドントサウルス類(カルカロドントサウリア)で、2020年に記載された。ホロタイプ標本はキンメリッジアンのPraia da Amoreira-Porto Novo Formationから、尾椎の特徴から暫定的に同種とされた参照標本はチトニアンのFreixial Formationから見つかっている。

ルソヴェナトルのホロタイプ標本は、残念ながら頭骨はなくて胴体の部分骨格であり、環椎・軸椎の一部、頸椎、分離した頸椎の神経棘、胴椎、仙椎の断片、尾椎、血道弓、肋骨の断片、右の腸骨、左右の恥骨、左右の座骨からなる。

他のカルカロドントサウルス類と区別されるルソヴェナトルの特徴のうち、固有形質は1)前方の胴椎の神経弓に、大きな窪みがある、2)中央の尾椎に、前関節突起の先端から後関節突起の後端まで延びるよく発達した軸方向の稜がある、3)腸骨の上寛骨臼突起supraacetabular crestが顕著な腹側方の棚状構造をなす、である。

系統解析の結果、ルソヴェナトルは最も古く分岐したカルカロドントサウリアのメンバーとなった。ここで気になるのは、この部分骨格においてどのへんがカルカロドントサウリアなのかということである。
 ルソヴェナトルがカルカロドントサウリアに含まれることを支持する共有派生形質は、1)前方の尾椎の腹側面に稜ventral ridgeがある、2)腸骨の内側面で寛骨臼の前の切れ込みpreacetabular notchに沿った部位に強く発達した稜がある、3)座骨と腸骨の関節面にpeg-and-socket構造がある、である。そうすると骨同士の結合や筋付着部の構造的な強化・高度化といった外見上はわかりにくい改善が進んだということか。

ジュラ紀後期の肉食恐竜といえば、北米のモリソン層ではアロサウルス、トルボサウルス、ケラトサウルスの3点セットである。この中ではアロサウルスが最も進歩的で、個体数も多く繁栄していた。ところが対岸の西ヨーロッパでは、これらに加えて次世代の肉食恐竜であるカルカロドントサウリアが出現していたということである。アロサウルスはジュラ紀末に絶滅し、カルカロドントサウリアは生き延びて白亜紀に発展をとげた。運命を分けた理由は何だったのだろうか。

蛇足かもしれないが、アロサウルス科とは何ぞや、という気もする。研究の進展とともにアロサウロイドの数は非常に増加したが、白亜紀のアロサウロイドはすべてカルカロドントサウリアであり、アロサウルス科は増えていない。アクロカントサウルスやネオヴェナトルは一時アロサウルス科とされたが、後にカルカロドントサウリアとなった。そして今、ジュラ紀末のアロサウロイドが加わったが、やはりカルカロドントサウリアの一部である。アロサウルスは北米で繁栄し化石が古くから発見されたために「科」となったが、アロサウルス上科の大きな系統進化の中で、アロサウルス(とせいぜいサウロファガナクス)はジュラ紀に分岐した枝に過ぎず、基盤的なカルカロドントサウリアの一部のようなものではないだろうか。

参考文献
Elisabete Malafaia, Pedro Mocho, Fernando Escaso & Francisco Ortega (2020) A new carcharodontosaurian theropod from the Lusitanian Basin: evidence of allosauroid sympatry in the European Late Jurassic, Journal of Vertebrate Paleontology, 40:1, e1768106, DOI: 10.1080/02724634.2020.1768106
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