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肉食の系譜
ヤンチュアノサウルス・ジゴンゲンシス(スゼチュアノサウルス・ジゴンゲンシス)
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ヤンチュアノサウルスやシンラプトルに比べて、具体的なイメージがつかめないのがスゼチュアノサウルスである。中国の恐竜展などで復元骨格を見るたびに、どこを観察すればいいのか戸惑ってしまう。しかもある意味残念なことに、Carrano et al. (2012) の系統研究で、この「四川竜」の属名は失われてしまった。
スゼチュアノサウルスの歴史
歴史的経緯については、Wikipedia(英語)等にも書いてあるので簡潔にメモする。
Young (1942)が記載したスゼチュアノサウルス・キャンピの模式標本は、4つの分離した歯化石で、同定できる特徴がないために、現在は疑問名とされている。そのため新たに発見された化石にスゼチュアノサウルスの属名を用いることは不適切である。
四川省自貢のジュラ紀後期の地層から発見された部分骨格CV00214は、1978年にスゼチュアノサウルス・ヤンドネンシスとされ、1983年にスゼチュアノサウルス・キャンピとされたが、上述の理由で長年疑問視されていた。頭骨はなく、歯は含まれていない。
さらにGao (1993)は、四川省自貢のジュラ紀中期の地層から発見された部分骨格に、スゼチュアノサウルス・ジゴンゲンシスと命名した。Chure (2001) は、CV00214とスゼチュアノサウルス・ジゴンゲンシスを同一種として、(スゼチュアノサウルスは使えないので)新しく命名すべきであると考えた。
Carrano et al. (2012) の系統解析の結果、CV00214はヤンチュアノサウルス・シャンヨウエンシスと姉妹群となり、それらとスゼチュアノサウルス・ジゴンゲンシスが姉妹群となった。つまり系統関係上も“スゼチュアノサウルス”は解体された。この結果を受けてCarrano et al. (2012)は、同じ地層から出ていることからもCV00214はヤンチュアノサウルス・シャンヨウエンシスと同一とし、より古い地層から出ているスゼチュアノサウルス・ジゴンゲンシスは別種ヤンチュアノサウルス・ジゴンゲンシスとした。新しい属名が必要になったがヤンチュアノサウルス属の別種とすることで系統関係の近さを表したといっている。
ここで気になる点が2つある。1つは、種レベルの違いか属レベルの違いかの判断はやはり、研究者によって異なることである。スゼチュアノサウルスの代わりに、新しい属名がついた方がアマチュア的には楽しかった。
もう1つは、中国四川省は獣脚類化石の宝庫であるが、あまり欧米の研究者がアクセスできていないようにみえることである。Carrano et al. (2012) は、系統解析に用いた標本の90%は、3人の共著者の誰かが直接観察していると述べている。First handで見た種類は太字で表記している。しかし四川省のヤンチュアノサウルスやスゼチュアノサウルスの標本は、直接見ておらず、文献の記述と写真・図版からデータをとっているようである。四川省の研究者が認めているかどうか知らないが、これでは納得しないかもしれない。本当は、中国側と欧米側が共同研究して、結論を出してほしいところである。
ジゴンゲンシスの特徴
ヤンチュアノサウルス・ジゴンゲンシス(スゼチュアノサウルス・ジゴンゲンシス)は、中国四川省自貢市大山舗のジュラ紀中期の地層から発見されたメトリアカントサウルス類で、Gao (1993)によって記載された。自貢恐竜博物館の建設工事中に発見された大量の恐竜化石の1つで、推定6mの肉食恐竜である。
ホロタイプZDM9011は胴体のかなりの部分を含む部分骨格で、連続した完全な10個の頸椎、13個の胴椎、5個の仙椎、不連続な25個の尾椎、左の上腕骨、尺骨、橈骨、橈側骨、中手骨、指骨、右の肩甲骨、完全な腰帯からなる。その他に同時に発見された参照標本としてZDM9012:左上顎骨、ZDM9013:10本の分離した歯、ZDM9014:右の大腿骨、脛骨、腓骨がある。
Gao (1993)はジゴンゲンシスの特徴として、前部・中央部の頸椎は後凹型、後部の頸椎は平凹型で腹側にキールがある、後部尾椎の前関節突起が長い、上腕骨の三角筋稜がよく発達している、橈骨/上腕骨の比率が56%、第IV中手骨が残存している、腸骨は特に丈が低い、恥骨ブーツが小さい、座骨の遠位端が拡がっている、などをあげている。(中国語と英語で内容が微妙に異なる。)
一方Carrano et al. (2012)は、頸椎の特徴だけをあげている。Holtz et al. (2004) に従い、前方の頸椎2-4 だけが後凹型、残りは両平面型であるテタヌラ類としている。後方の頸椎の関節面が平面的ということだろう。Gao (1993)のあげた特徴のいくつかは、メトリアカントサウルス科やヤンチュアノサウルスの特徴に含まれた。
Gao (1993)は、スゼチュアノサウルス・キャンピとされたCV00214とジゴンゲンシスの違いについて記している。ジゴンゲンシスでは、後部頸椎が平凹型で腹側にキールがある;三角筋稜が特に発達している;第IV中手骨が存在する。一方CV00214は、頸椎が後凹型でキールがない;三角筋稜があまり発達していない;第IV中手骨がない。
ヤンチュアノサウルス・シャンヨウエンシスのホロタイプでは前肢は保存されていないが、CV00214がこれと同一種とすれば、完全に3本指だったことになる。
なぜスゼチュアノサウルスがヤンチュアノサウルスになったのかについては、次の記事に持ち越すことにする。
参考文献
Gao, Y. (1993). [A new species of Szechuanosaurus from the Middle Jurassic of Dashanpu, Zigong, Sichuan]. Vertebrata PalAsiatica, 31, 308-314 [In Chinese].
Matthew T. Carrano, Roger B. J. Benson & Scott D. Sampson (2012). The phylogeny of Tetanurae (Dinosauria: Theropoda), Journal of Systematic Palaeontology, 10:2, 211-300.
Shangshaximiao Formation Xiashaximiao Formation
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