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肉食の系譜
アリオラムスの頭骨を観察しよう(2)


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アリオラムスの上顎骨は長く、丈が低い。これは大型ティラノサウルス類の成体よりも、幼体の上顎骨の形に似ている。しかし、アリオラムス・アルタイの上顎骨は、他のティラノサウルス類の幼体と比べてもやはり長い。高さ/長さの比率は、アリオラムス・アルタイでは0.28である。アルバートサウルス成体0.40、アルバートサウルス幼体0.42、ダスプレトサウルス成体0.40、タルボサウルス成体0.47、タルボサウルス幼体0.40などとなっている。アリオラムス・アルタイの比率は、アパラチオサウルスの0.33と最も似ている。またアリオラムス・レモトゥスの復元された上顎骨とも似ているが、レモトゥスでは破損しているので正確には比較できない。(注:ここで引用しているアルバートサウルスは、Carr 1999なので実際はゴルゴではないかと思われる。)
アリオラムス・アルタイでは、上顎骨の前縁の傾きが低く(前縁と腹側縁の挟む角度が小さい)、前縁がより直線的である。多くのティラノサウルス科では、前縁の傾きが高く(前縁と腹側縁の挟む角度が大きい)、また前縁が強くカーブして丸みを帯びている。
またアリオラムス・アルタイでは、歯列のある腹側縁のカーブがゆるやかで、より直線に近い。多くのティラノサウルス科では、腹側縁が強くカーブしている。アリオラムス・アルタイのカーブは、アリオラムス・レモトゥスやラプトレックスと似ている。
アリオラムス・アルタイでは上顎骨の本体main body(歯根が収まっている部分)の丈が低い。ここは多くのティラノサウルス科の成体ではもっと丈が高い。アリオラムス・アルタイの状態は、アパラチオサウルス、アリオラムス・レモトゥス、ティラノサウルス科の幼体と似ている。
それに関連してアリオラムス・アルタイでは、前眼窩窩antorbital fossaが広く、前眼窩窓antorbital fenestraの腹側にもずっと続いている。この状態は、アパラチオサウルス、ティラノサウルス科の幼体、基盤的なティラノサウロイドに似ている。一方、大型ティラノサウルス類の成体、とくにタルボサウルスやティラノサウルスでは歯根を収める本体の丈が高いため、前眼窩窓の下にはほとんど前眼窩窩はみられない。アルバートサウルス、ゴルゴサウルスなどではそれらの中間で、幅の狭い前眼窩窩がみられる。


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(次からが、最初の「がっかり」ポイントで、まずホロタイプの図で真実を確認していただきたい。)
上顎骨の前眼窩窩には、2つの主な含気性の孔がある。前方のpromaxillary fenestraと後方の大きなmaxillary fenestraである。promaxillary fenestraとmaxillary fenestraは、すべてのティラノサウルス類に共通してみられる。(テタヌラ類全般にある。)
promaxillary fenestraは前眼窩窩の前端にある楕円形の小さな孔で、その長軸は前腹方から後背方の向きに傾いている。maxillary fenestraは非常に大きく、前後に長い卵形で、左の上顎骨では長さ57 mm、 高さ30 mmある。他のティラノサウルス類ではmaxillary fenestraは円形に近く、このような前後に長いmaxillary fenestraはみられない。ただし、ディロングではもっと長い形の孔がある。
ティラノサウルス亜科(ダスプレトサウルス、ティラノサウルス、タルボサウルス)の成体では、maxillary fenestraが前眼窩窩の前縁に近づいている(接している)。しかしアリオラムス・アルタイではmaxillary fenestraは前眼窩窩の前縁から離れている。これは成体のアルバートサウルス、アパラチオサウルス、ビスタヒエヴェルソル、ゴルゴサウルス、およびティラノサウルス亜科の幼体と似ている。同様に、アリオラムス・アルタイではmaxillary fenestraは前眼窩窩の腹側縁からも離れている。これもティラノサウルス亜科の成体と異なり、アルバートサウルスなどと似ている。
アリオラムス・アルタイでは、さらに2つの余分な凹みがある。まず、promaxillary fenestraのすぐ後背方に、余分な凹みaccessory depressionがある。これはアリオラムス・アルタイに固有の形質である。promaxillary fenestraとaccessory depressionの間には柱状部strutがある。 次に、maxillary fenestraの背方に、前眼窩窩の縁に沿った長楕円形の浅い凹み、accessory fossaがある。これと相同らしい位置と形状の凹みは、ラプトレックスとタルボサウルスの幼体にもみられる。
そこでおもむろに、Gaston社の「産状」頭骨レプリカを見ると、あれ?maxillary fenestraが長いのはいいが、位置が少し前方に寄っていて、かつ前方に拡張されているように見える。つまりmaxillary fenestraが前眼窩窩の前縁に近づいてしまっている。ホロタイプでは離れているのに。これは、「ティラノ・タルボの成体」化されているのではないか?もしもこれが未記載の第2標本ならうれしいが、おそらく違うだろう。
これだけで十分ショックであるが、さらに悪影響が生じている。おそらくmaxillary fenestraを前縁に近づけすぎたためか、含気窩の特徴がわからなくなっている。全体の形からみると図中でpromaxillary fenestra? と示した所が本来のpromaxillary fenestraの位置と思われるが、そうするとその上のaccessory depressionがはっきりしないしstrutもない。またaccessory fossaが近すぎる。どうもpromaxillary fenestra? と示した所をaccessory depressionにして、その腹側にもう一つ凹みを作り、promaxillary fenestraにした(pro?のところ)ようにも見える。ホロタイプはほとんど歪んでいないのだが、このレプリカは少しつぶれているように演出しているので、一連の含気窩の位置がずれているという設定なのではないか。しかしそんな人工的に造られた構造に意味はない。いずれにしろ、全体に大きく改変されたせいで、固有の特徴であるaccessory depressionが台無しになっている。(激怒)
(ここで気を取り直して)
左右の上顎骨とも、17個の歯槽がある。最初の2つは小さく、3番目から急に大きくなる。3、4、5と大きくなり、5番目が最も大きい。その後は次第に小さくなる。(これは一応、レプリカでも確認できる。)最も大きい歯槽の位置は、ラプトレックスでも同様に5番目である。ゴルゴサウルスでは5番目または6番目で、アパラチオサウルスでは7番目、ダスプレトサウルスでは8番目であるという。ティラノサウルスやタルボサウルスでは前方に位置する傾向があり、たとえばタルボサウルス成体では4番目にあるという。これは個体差や成長過程でも変異がありそうであるが。
上顎骨の歯槽の数は、ティラノサウルス11-12、タルボサウルス12-13、アルバートサウルスとゴルゴサウルスが13-15、ダスプレトサウルスが13-17などとなっている。アリオラムス・アルタイの17はティラノサウルス科の中で最も多いが、ダスプレトサウルスで17などの例があるため固有の特徴とはいえないということだろう。(アリオラムス・レモトゥスは16)
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