tetujin's blog

映画の「ネタバレの場合があります。健康のため、読み過ぎにご注意ください。」

SAKURA(3)

2009-04-21 21:24:43 | プチ放浪 都会編

 

【撮影地】 東京都台東区上野公園 (2009.4月撮影)
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ソ連軍がいつ攻め込んでくるか解らぬ状況で、ベルリン市内は恐怖と絶望に包まれていた。ナチ党員は、降伏すれば処刑されるのは確実であり、1人でも多くのソ連兵を道連れにして死ぬ覚悟だった。ヒトラーはこの時、ドイツの人種、文化、建造物の全てを灰燼に帰するつもりでいた。
その昔、ハイネは滅びゆく古典的イタリア人をみて「悲観的に夢見ながら廃虚の上に坐っている」と言った。純粋であるがゆえに滅びゆく文化を感じての言葉だという。ベルリンもまた、こうした絶望的な状況では、悲観的に夢見る以外になにができたのであろう。

いよいよ、ソ連軍の砲撃が市内に迫ると、市民の多くはベルリン市内のティーアガルテン、フンボルトハイン公園、フリードリヒスハイン公園の3箇所に建てられた高射砲塔や、コンクリート製の大型防空壕、地下鉄の駅構内、下水道など、身を潜められる所にはどこにでも逃げた。だが、ライフラインはすでに断たれていて、死は常に身近な存在だった。
それでも、多くの市民は生き残ることだけを考えていた。白旗を掲げればSSに狙撃され、何もしなければソ連兵に殺されるので、助かる道は米軍に降伏するより外になかった。

地下壕や病院は負傷兵で一杯だった。医薬品も麻酔薬も不足していた為、負傷兵は傷を負ったまま放置された。そこら中に四肢が欠けて骨がむき出しになった兵士や、血まみれで包帯が巻かれた負傷兵や死体が横たわっていた。まさに、ベルリンは地獄と化していたのである。そんな地獄の中を、メンデルスゾーン・バルトルディ公園の老木の八重桜は、けなげにも花を満開にしようとしていた。

「ああ、そうか。日本では戦時中に桜は切り倒されて燃料になったのだが、ドイツはそれをしなかったのだな」
「よく知っているな。そのとおりだ」
「桜が好きでね」
「嘘をつくな。お前は花見なぞしないだろ」
「失礼な。たまには見るぞ。花柄のパ・・」
「黙ってろ。続けるぞ」


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