tetujin's blog

映画の「ネタバレの場合があります。健康のため、読み過ぎにご注意ください。」

遠い空の向こうに (October Sky)

2006-10-08 23:33:58 | cinema

長旅の道連れに、DVDビデオを5枚だけ選べと言われたら、その内の1枚はこれを選ぶだろう。子供といっしょに是非見たい1本。

この映画は、さびれつつある炭鉱の町で生まれた育った少年が、人類最初の人工衛星スプートニクスをきっかけに本物のロケットをつくりたいと決意し、自分の夢を実現していく過程での、父親、母親、教師、友人などとの関係を描いたドラマである。ドラマでは、夢を実現する上での大きな一歩となるマイルストーンとして全米科学コンテスト(National Science Fair Competition)が描かれている。高校生の少年は、自分の夢をしっかりと描き、何度も失敗を繰り返しながらも粘り強い取り組みを重ね、目標としていたコンテストで優勝して夢の実現に大きく踏み出していく。その後の米国の宇宙開発で躍進を遂げていくNASAの技術者の自伝小説『ロケット・ボーイズ』に基づいたストーリー。最後に彼らが打ち上げた、ミス・ライリー号。恩師の名前を付けたロケットは、どこまでも高く飛んでゆく。人々に見守られながら、そして彼らの希望をのせながら、どこまでも高く・・・・。

"And it's not because l'm so different from you either.
lt's 'cause l'm the same.
l can be just as hardheaded and just as tough.
l only hope l can be as good a man as you are.
l mean, sure, Dr. von Braun's a great scientist...
but he isn't my hero." from "October sky".

「父さんとは、見解がことごとく一致しない。
 でも、僕もひとかどの人物になれるはずだ。
 父さんと異なるからじゃない、同じだからだ。
 同じくらい、分からず屋で強情だ。
 同じくらい、良い人間になりたい。
 確かにブラウン博士は偉大だが、ヒーローじゃない」

一度もロケットを飛ばすところを観に来てくれず、そんなことやめろと言われ、事あるごとに立ちはだかってきた父親。しかしそんな父親も、町の誰からも信頼される炭鉱夫の中の炭鉱夫。そして、父親にも実は、炭鉱にすべてを賭ける理由がある。

そんな父親のことを、主人公は、自分の夢を理解されないつらさと同時に、誰よりも尊敬していた。そして、自分が夢をあきらめずに実現できたのは、親父譲りの頑固さのおかげだと、自分にとっての真のヒーローは他ならぬ親父なんだと。 ・・・なかなか、泣かせてくれますね。

ところで、映画ではロケットボーイズが科学コンテストで優勝し、大学への奨学金を手にしていたが、ホーマー・ヒッカムの原作『ロケット・ボーイズ』では何ももらえず、大学からの誘いすらない・・・。現実はさらに厳しいものなのだ。僕の周りでは、実はこの映画、評判は僕が思ったよりも良くない。誰しもが小さい頃、満月の空を見上げ、いつかは宇宙へと夢見るが、夢をかなえられる人間はほんの一握りであり、ほとんどの人は夢さえ持ち続けることができない現実があるからだろう。

自分が宇宙へ行けなくても、ロケットの材料を開発できたらと思うが、それすら研究ができる場所は非常に少なく選択の余地はない。知り合いのNASAの研究者でさえ、昨今の宇宙開発における予算の縮小から、材料開発に携わるのは難しいとこぼしている。あきらめた夢を、この映画はこうした厳しい現実とともに思い出させてくれる。だからこそ、小さい頃信じたサンタクロースの話が美しいと思えるように、限りなく可能性が低くても、晴れ渡った10月の空を一直線に飛ぶロケットのように、まっすぐに夢を持ち続けることが深い感動をもたらすのだ。

映画の中で、見失ったロケットの着地点を計算で予想する場面が出てきた。技術的には、かなり難しい計算である。発射角度、速度(推進力)、空気抵抗、燃焼時間、風力・風向などの正確な数字が必要になる。・・・なんて、やぼはもう言わないことにしよう。最後に、英語のタイトル”October Sky"はRoket Boysのアナグラム。文字を入れ替えることで、原作の題名から”10月の空”に。

♪あの子の命はひこうき雲♪ by ユーミン