tetujin's blog

映画の「ネタバレの場合があります。健康のため、読み過ぎにご注意ください。」

2 番目のキス(Fever Pitch)

2006-10-11 20:15:30 | cinema

「ああ、人が飛び込む橋ね」(東京弁)
「そう、ひっかけ橋・・・」(大阪弁)

テンポ良く弾む見ず知らずの電車の中の2人の女の子の会話に、僕は思わずふきだしそうになってしまった。 仕事帰りのサラリーマンであふれ帰った総武線の西船橋の駅で、発車のベルに押されるように後ろから、その2人づれの女の子が乗り込んできた。僕の目の前いる、東京は今日がはじめてらしい大きなカバンを胸に抱くその子は、ひとしきり、東京は駅が多いこと、大阪ではちゃりんこでどこへでも行かれるが、東京ではバイクが必要なこと、道頓堀の画廊に勤めていたこと、目の前にグリコの看板が見えること、食い道楽の人形があることなどを東京の友達であろう、もう一人の女の子に矢継ぎ早に話しかけていた。

普段なら、電車の中でくだらない考え事をしている僕は、近くで聞こえるどんな会話でも、たとえそれがまだ見ていない映画のネタであっても、耳に雑音フィルターが入っていて全然聞こえては来ない。 ところが、周りに会話を理解する人間がいないと確信している外人のカップルの会話などが耳にはっきり届くことがあるように、次から次へ大阪弁で話す素直そうな彼女の声は、なんとはなしに聞こえてきた。電車が乗換駅である次の船橋駅まで、1区間。時間にしてわずか3分ぐらいの間、彼女の声は、僕のブログの1か月分に相当するであろう興味深い話で、赤の他人の僕の心を癒してくれていた。
・・・もし、今年、独走する中日を逆転して阪神が優勝したら、大阪の町はすごいことになるだろうな・・・ との連想から、ぼくは、目の前のかわいい大阪の女の子と映画のドリュー・バリモアをダブらせて、メジャー・リーグのファンを描いたこの映画を思い出していた。 

2 番目のキス Fever Pitch は、熱狂的なメジャー・リーグのレッド・ソックスファンである彼氏に振り回されるドリュー・バリモアという設定である。しかし、熱狂するのはどんなスポーツにでも当てはまるため、多くの男どもが、この映画を見て身につまされるに違いない。主人公がレッド・ソックスのシーズン・チケットを持っていることを羨望の眼差しで見て「妻と交換しないか」と言い出す男たち、バックネット裏のシーズン・チケットに陣取るファンたちのチームへの思い入れ、そして映画の撮影中に起こったレッド・ソックスの奇跡のワールドシーリーズ制覇!などベースボールへの溢れるばかりの愛情と、そんなことに熱狂する男のダメさ、馬鹿さが描かれている。女性好みの作品が多いラブ・コメディなのに、この映画はこの点が男をも捉えるのだろう。「俺もそうだよな」などと友情(and/or 反省)が湧き出してくるのだ。

さて、春が到来すると映画の中の2人の関係は、にわかに雲行きが怪しくなり始める。野球シーズンを迎えるや、彼、ベンの生活は全てがレッド・ソックスを中心に回る。大切な恋人リンジー(ドリュー・バリモア)にしても、ベンにとってはあくまでも“2番目”だったのだ。最初は戸惑いながらもベンに合わせてレッド・ソックスを応援するリンジーだったが・・・。当然、それを超える出来事が起こる。「私なの、それともベースボールなの!?」

イングランドの人気サッカークラブ“アーセナル”の熱狂的サポーターを主人公にした人気作家ニック・ホーンビィの自伝的ベストセラー『ぼくのプレミア・ライフ』の2度目の映画化である。しかし、アメリカはサッカーへの関心が驚くほど低い国 であため、サッカーの熱狂的なファンという設定はベースボールへと変えられている。ベースボールにはサッカーと同様に愛情に満ちた映画が多く存在する。ただ、“PITCH”ではなく、“FIELD”だと思うのだが,どうよ?。

ちなみに、この映画では,レッド・ソックスの本拠地、フェンウェイ・パークにおいて「外野席の券では内野席に入れない」という設定が、ストーリーの中で重要な位置を占めている。リンジーが、内野席に座る恋人に話さなければならないと、外野のフェンスから飛び降りてグラウンドを走り回るシーンがあるのだが、実は、フェンウェイ・パークではこの映画の2004年の時点では、その数年前から内野席と外野席の間は自由に行き来ができるように変わっている。というわけで、外野席から内野席に行くためにはグランドに飛び降りなければならなかったという設定は、「嘘」と言わなければならない。なんてね、やぼな突っ込みは置いておいて、映画のストーリーそのものは非常によくできている。
邦題はこれまでのドリュー・バリモアが主演した『25年目のキス』と『50回目のファースト・キス』に合わせたのだろうが、そうした邦題への意図がすべってしまうほど、女性と男性に沁みこんで来るラブ・ストーリーとなっている。この映画のなかで繰り広げられる彼らの会話を身に付けたくて、ネットを探してSubtitle(英語字幕)のテキストを手に入れた。

面白くて笑えて、切なくて泣けて・・・。こんな映画で泣けてしまう自分がちょっと恥ずかしい・・・。

♪何のたしにもならないことに
ムキになれる あなたがいちばん好き♪ by ユーミン

このブログ書き込んだその夜、中日の優勝が決まった。試合中、落合監督は顔を何度もぬぐった。延長12回。一死満塁から福留の適時打で1点、さらにウッズが先制3ランに続く47号満塁本塁打。その裏を守り切り、歓喜の輪へ歩を進めたところで、また泣いた。お立ち台での第一声は「すみません。涙もろくて」。そう言って、またまた泣いた。2年ぶりのリーグ優勝で落合監督が男泣きした夜だった。