tetujin's blog

映画の「ネタバレの場合があります。健康のため、読み過ぎにご注意ください。」

クラブ アップル

2006-10-14 20:19:56 | プチ放浪 都会編

「あの黄色い実なんでしょうね?」
土曜日の午後、床屋に行こうと通り抜けた公園で、犬を連れた年配の婦人にたずねられた。
僕が住んでる街は、特に桜の並木の美しいこの公園で、行きかう人々が挨拶し合うふれあいの街を売り物にしている。そして、この公園は僕が好きな散歩コースの一つである。
婦人の指さす先を見上げると、切り立った小高い丘の上に、黄色く色づいた柿の実が太陽を反射して光って見えた。
「あれはしぶ柿じゃないスかね。」
「あの実を採れないものかしらねえ・・・?」
「ちょっと待っててください・・・」
僕は、その丘の急な斜面を四つんばいで登り始めた。

僕は、初めて訪れたコロラドの地を思い出していた。夕食に招かれた大学教授の家で、まだ、食事まで時間があるとのことで、近くの店までノートを買いに行く教授にくっついて散歩がてら出かけた。途中、真っ赤に色づいた実が鈴なりなっている街路樹が、道の両側に何本も植えられているのが見えた。夏の終わりの夕暮れのことである。
「この木は何の木ですか?」
色ついた実を指差して教授に聞くと、立ち止まった教授は長身を利用して木に手を伸ばし、実を2個もぎ取って一個を僕にくれた。教授がその実をズボンにこすって綺麗にして口に入れたのをまねて、同じようにかじって見たが、かすかに渋く、りんごの味がした。あまりおいしくは無かった。
木の実はクラブアップルだった。そう、ターシャの庭で有名な木である。日本では姫りんごと呼ぶ、ちっちゃなリンゴの実をつける木だった。

日本では、公園の木でも、木になっている実を採れば法律違反で罰せられる。立派な窃盗罪、犯罪である。ところがコロラドでは、採って食べようが誰もそんなことは気にしないという。おおらかな土地であった。もっとも、食べてもおいしい実じゃないので、もっぱら街をあげて大切に保護されているリスやアライグマなど野生動物のえさになっているらしい。

急な斜面を登りきり、その柿の木に届くと、手ごろな実を2個もぎ取り、先の年配の婦人のもとへ戻った。2個の柿の実を手渡すと、おこぼれをもらえると思ったのか、パトラッシュを2サイズ小さくしたような連れの犬が尻尾をゆさゆさ振って愛想をまいてくれた。

僕が育った東北の田舎では、柿の実は木の真ん中へんの実しか収穫しない。地上に近いところの実は、近所の子供へのプレゼントである。そして、木の天辺付近の実は、冬の間、雪で餌場の無くなったカラスなど野鳥のために残しておく。もうしばらく帰っていないので、今もそうしているのかは定かではないが、今思えばおおらかな土地であった。

♪とりとめのない気ままなものに
どうしてこんなにひかれるのだろう♪ by ユーミン