彦四郎の中国生活

中国滞在記

中国のシルクロード戦略とアジア・中東・アフリカからの留学生の急増―AIIBをめぐって―

2015-06-27 04:15:14 | 滞在記

 最近、「インド洋周辺のアジア・中東・アフリカ」からの留学生の姿をよくみかけるようになった。2013年~2014年には、その数は少なかったが、2015年になってから急に増えてきている。大学正門(南門)近くにある会館(大学の宿泊ホテル楼)に居住し、授業がある教室楼に通っている。
 「Hello!What coutry are you from ?」と何人かに聞くと、スリランカ(セイロン)・インドネシアなどのインド洋周辺の国や中東、アフリカからの留学生たちだ。留学期間は3か月~6か月と、短期らしい。留学の学部は、主に「理工系」である。近くにある福建医科大学でも、留学生の姿が急増してきている。

 10年ほど前から、中国はアフリカ諸国へ大規模な経済的結びつき戦略を進めてきていたが、習近平政権成立後、より大規模な世界戦略をもって世界政治・世界経済の中心になろうとしている。国民への宣伝として、「中国的梦(中国の夢)」というポスターがよく見られる。これが、中国の「新シルクロード戦略」(中国名:「丝绸之路经济带和21世纪海上丝绸之路」➡「一带一路」)である。これは、2013年の習近平政権成立後に提唱され、2015年に入り具体化が加速し始めた。この戦略構想実現の核となるのが「AIIB(アジアインフラ投資銀行)」の設立である。
 (※一帯とは、陸路を通じての①中国から中央アジア・ロシアを経てヨーロッパに至る経済的結びつきルート②中国から中央アジア・西アジアを経てペルシャ湾、地中海に至る経済的結びつきルート➂中国から東南アジア、南アジア、インド洋に至る経済的結びつきルート)(※一路とは、海路を通じての①中国の沿海の港から南シナ海を経てインド洋や中東・アフリカ・ヨーロッパに至る経済的結びつきルート②中国の沿海の港から南シナ海を経て南太平洋に至る経済的結びつきルート)

 この構想実現ための中国での重点の拠点省に指定されたのが、陸路新シルクロードが「新疆ウイグル自治区」であり、海路新シルクロードが「福建省」である。福建省の福州港・泉州港などは、マルコポーロの「東方見聞録」によると「海のシルクロード」の時代の中国の海の拠点だった。再び重要な省となっていくのだろう。福州では、地下鉄の建設や港湾の整備などが急ピッチで進められている。また、福州市内では「海のシルクロード展」なども開催された。

 アジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立とその参加国の拡大は、世界史の転換を象徴する出来事かもしれない。第二次世界大戦後、初めてアメリカ以外の国が主導する金融の枠組みが作られたからだ。また、AIIBの設立と拡大は、アジアの中心が日本から中国に移行したことを象徴的に表した出来事でもある。日本人が考えている以上に、アジアの人々は中国主導の世界を受け入れっつあるように思える。
 2015年になってから、イギリス・フランス・ドイツ・イタリア・ロシアなどのG8の国々やオースとラリア・韓国・インドなどがAIIBへの参加を表明し、現在50ケ国以上の国が参加を決めている。(※中国が参加を認めない国は、北朝鮮のみ)
 この世界の動きの中で、参加をしていないのは、主要国としてはアメリカ・カナダ・日本の三国である。この状況に対する日本外交について、日本の新聞などの論調は次のとおりだった。①朝日新聞「世界の趨勢に遅れをとっている。」②赤旗「世界とアジアの大きな動きをとらえていない。アメリカの顔色ばかりをうかがっている。」➂産経新聞「先進国として参加を拒否する理由はない。」④民主党岡田代表「G7の半数以上が参加表明の状況で、なぜ参加しないのか。アメリカが参加しなくても、日本単独で参加すべき。」
 この問題は、日本の外交の最も大きな問題だと国民的にも受け止める必要があるだろうと思う。いままで、日米が主導してきたアジア開発銀行(ADB)ではまかないきれない増大するアジアにおけるインフラ整備のためのニーズ。このニーズをてこにして、中国国内の沿海部と内陸部の経済格差の解消問題、中国の経済成長の停滞問題なども解決できる中国の一石二鳥的な壮大な戦略には「舌を巻かされる。」思いだ。

 1980年代にNHKの番組で足かけ9年の歳月をかけて2つの特別長編ドキュメンタリー番組が作られた。「シルクロード」と「海のシルクロード」である。最近、「海のシルクロード(全12集)」を見る機会があった。これによると、海の要衝である「マラッカ海峡」を抜けるルートの他に、マレーシァ半島のタイ国領地である「クラ地峡(マレー半島で最も狭い地域)」を陸路越えして南シナ海とインド洋を船や物や人を運ぶルートがあったというのだ。このクラ地峡の「インド洋に至る川―陸路(約20Km)―南シナ海に至る川」を使った運送路だったらしい。陸路の約20キロは「象」に小舟や荷物を運ばせたようだ。
 この川と陸路を大規模に掘削して、大運河を造る計画が始まった。タイを貫く「クラ大運河建設計画」に、中国の企業が名乗りをあげ、建設の具体化が始まった。アメリカ軍を中心とした対中国マラッカ海峡封鎖の場合に備えるねらいももっている計画だとも言われている。
 東シナ海や南シナ海の島々を巡る、「尖閣諸島」「南沙諸島」「西沙諸島」などの領有問題。日本、フィリピン、ベトナムと中国との政治問題となっている。なぜこれらの島々を巡る領有を中国がこだわるのか。中国の「シルクロード戦略」に絡んでいることが見えてもくる。
 中国の中央テレビでは、今年の6月になって「日本への警戒や批判」が再び増え始めてきている。新安保法案を巡る自民党安倍政権への批判、安倍首相の「南沙列島問題発言」への警戒、日本とフィリピンの合同演習に対する警戒・批判などがその報道内容である。







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