彦四郎の中国生活

中国滞在記

世界の未来を考える➋自由というもの—世界各国、報道・インターネットの自由度は今

2021-11-11 08:29:43 | 滞在記

 人類にとっての世界のこれからの未来を考えていく際、最もキーワードとなっていくものが二つある。一つは「米国型能力主義資本主義」や「中国型国家統制資本主義」の双方を乗り越えて、「民衆的資本主義」や「平等的資本主義」に向かえるかどうか。そして、二つ目は「言論・報道」の自由度を増すことができるかどうか。(特に中国など)

 新型コロナウィルスの世界的パンデミックが起きたこの2020年1月から現在に至るまでのこの2年間、世界各国はこのパンデミックに対応するために、国民生活の規制を取り続けた。そして、この規制は大きく大別して、"徹底的な国民への規制を求め実行する超厳しい0コロナ政策の"中国型対策"と"日本のような自粛要請という緩い規制対策のwithコロナ政策"に分けられる。また、台湾のようにITを駆使しながらも、「国民の理解を求め、民主主義を傷つけず」規制対策に成功した例もある。おそらく、この台湾の対策は世界で最も優れた対策なのではないかと思われる。

 コロナ対策での規制は当然に「国民生活」の自由度の制限をいずれにしても伴うものなので、特に昨年2020年5月~11月までの半年間、大型書店のブックコーナーには、この「自由」についての書籍が平積みで置かれることとなった。例えば、『全体主義の克服』(マルクス・ガブリエル、中島隆博著)。この書籍で、ガブリエルは「市民的服従が新たな全体主義の本質です」と指摘する。また、中島は「全体主義とはすべてを"一"へと取り込もうとするものです」と語る。

 『ジョージ・オーエル—人間らしさへの賛歌』(川端康雄著)—ビックデーターによる監視管理社会、「ポスト真実」の政治‥オーエルの憂えた未来に私たちは立っているのだろうか—。ジョージ・オーエルの著名な書籍『1894年』も平積みされていた。『自由の限界』、『自由の奪還』、『コロナ後の世界を語る』、『パンデミック以後—米中激突と日本の最終選択』などの書籍も平積みされていた。

 さまざまな知性たちが、この「自由度」の問題についての見解を語る書籍が多く緊急出版もされ続けていた。この中でも特に『サピエンス全史』や『ホモデウス』などの世界的ベストセラー書籍を出しているイスラエル人のユヴァ・ノア・ハラリの『パンデミック』は読みごたえのあるものだった。この書籍はハラリの一連の世界各国の有名報道機関(※日本では朝日新聞やNHKなど)への寄稿文やインタビューをまとめたもの。

  「脅威に勝つのは、独裁か民主主義か」などについても語る彼の言論は、人類世界の未来を考える際に、とても貴重な示唆を与えてくれる。

 10月9日付朝日新聞には、「強権払う 2記者に平和賞、フィリピン・ロシア」「民主主義封殺危機」という見出し記事が掲載それていた。記事は、今年のノーベル平和賞がフィリピンとロシアの記者に授与されることが決まってことを伝えるものだった。フィリピンのドゥテルテ大統領、ロシアのプーチン大統領の強権政治下、投獄などに遭いながらも、果敢に真実を報道し続ける記者たち。世界の民主主義の危機状況の今日の世情を考えてのノーベル平和賞なのだろう。

 この記事には、—「世界報道 自由度ランキング2021」もグラフ化されて掲載されていた。それによれば、自由度の高い1位の国はノルウェー、2位はフィンランド、3位はスウェーデンの北欧の国々。アメリカは44位で日本は67位となっていた。自由度の低い国としては、フィリピンは138位、ロシアは150位、最も低いベスト3は、178位が中国、179位が北朝鮮、180位がエリトリアだった。(エリトリアはアフリカ東部の紅海に面した小国で、「アフリカの北朝鮮」とも呼ばれる独裁国家)

   —世界のインターネット自由度2020―

 国際NGO「フリーダムハウス/Freedom House」(※1941年に米国で設立された国際NGO団体/1973年から毎年、世界報道自由度ランキングを調査・発表している。前出の朝日新聞記事の世界報道自由度ランキングのグラフは、この団体が発表したものである。2009年からは、毎年、世界のインターネット自由度を調査・発表している。2009年は主要15カ国についての調査発表だったが、昨年2020年には主要65カ国にまで、その調査・発表に拡大している。)

 この「世界のインターネット自由度」は、「①アクセスのための障害(インフラや経済や法令など)、②内容の制限(検閲やフィルタリング、ブロッキング、自主規制など)、③個人の権利への侵害(プライバシーへの監視行動や不法対象など)」の三つが調査の観点となっている。昨年2020年度に調査した主要65カ国は、世界のインターネット利用者の87%をカバーできるとしている。調査結果は次のとおりだった。(ポイントの高い国ほど自由度が高い。)

 1位はアイスランド95ポイント。以下‥‥、アメリカは76ポイント、日本は75ポイント、‥。自由度の低い国としては、ロシア30ポイントなど、‥。自由度が最も低いベスト3は、63位シリア17ポイント、64位イラン15ポイント、65位中国10ポイントとなっていた。

 —中国における1000万人超の「五毛党」の存在—簡単に世論誘導が可能

※上記5枚の写真は、2021年3月上旬に日本の民放ABC朝日局の報道番組「大下容子ワイドスクランブル」のもの。

 日本でもテレビ報道や新聞よりもインターネット報道を日常的によく見る人が増加している。それは中国でもそうだが、日本以上にネット報道は報道局がとても多く、視聴者の割合も多い。また、その報道に対する書き込みコメント数はものすごく多い。中国にはネット空間に「五毛党」が存在しているからでもあるようだ。「五毛党」の存在が知られるようになったのは、2015年頃からだった。ネット報道局の配信している報道に対する書き込みだけでなく、個人のSNSやYouTubeに対しての書き込みもさかんに行う謎の集団が「五毛党」だ。

 この「五毛党」は中国共産党政府が主導している「ネット戦略」の一つで、1000万人超が参加していると言われている。中国政府の意向に沿ったコメントをするわけだが、1コメントにつき5毛(1元の半分=8円)が支払われることから「五毛党」と呼ばれる。最近では8毛にアップしているとも伝わる。2017年に米国のハーバード大学が調査したところによると、「五毛党」による書き込みは年間に4億8000万件余りにのぼったと報告されていた。五毛党に参加しているのは中国共産党員が多いと推測されているが、党員以外の人も気軽なアルバイトとして参加している人が多いとも推測されている。

(※中国の共産党員は9000万人以上。また、共青団[中国共産党青年団]も7000万人余りとされる。共青団団員の多くはまだ中国共産党員ではない。これらを合わせると実数としては1億4000万人くらいにはなるだろうか。つまり、中国の人口の10人に1人は、中国共産党員か共青団団員となる。)

 私も日々、この中国のネット配信のニュースを見ているし、これに対するコメントも見ている。各コメントの内容は特に政治的な問題の場合は似ているものが多い。つまり政府寄りのコメントが溢れているということだが、人々が日々これを見続けていると、「みんな、世間は、そのように思っているのか‥」と強く影響を受ける。中国政府にとって世論誘導はこれにより簡単に行えることとなる。

※ネットの自由度が最も低いとされる中国だが、ネットの情報量は日本以上というか、日本とは比べられないほど溢れている。だから一見すると、「ネットの自由度が高い」と国民は思いがちだが、国際NGOのフリーダム・ハウスの3つの観点からすれば、実はまったく違うのだ。中国共産党一党支配下の中国では、憲法上でも、「党が人民を指導する」ということが明記されている。つまり、何事も常に、党が人民を導く先頭(前に)に立つということだ。これを共産党用語では「前衛」とも言う。世論誘導・操作は重要な「前衛任務」ということになる。

 ジョージ・オーエルの著作『1984年』のことは、30代のころから書名は知ってはいたが、実際に本を買って読み始めたのは、最近の2017年のことだった。なんだか、中国で暮らしていると、この本がとても身近なことに感じることが多いからだった。そして、この本は今は中国のアパートに置いてある。

 ジョージ・オーエルは1903年に当時イギリスの植民地だったインドで生まれたイギリス人。全体主義的デストピアの世界を描いた近代小説の傑作『1984年』は1949年に書かれた。そしてその翌年の1950年に46歳で死去している。この本は、新型コロナウィルスの世界的パンデミックに対する国民生活の規制強化、大国の中国という国の国情、アメリカ大統領選挙を巡るトランプ陣営支持者たちによる議会占拠(2021年1月)事件などが起こることにより、再び、世界の多くの人々に読まれ始めることとなった。

 この小説の内容は次のようなものだ。それにしても、1949年という時点で、現代の世界を見通したような、特に中国という国の今を見通したような小説がよく書けたものだと、ほとほと感心させられる。(※この作品は映画化されてもいるので、ネットで一部を視聴して見た。)

 この本のあらすじ—1984年、世界は<オセアニア><ユーラシア><イ―スタシア>という3つの国に分割統治されていた。オセアニアは、ビック・ブラザー率いる一党独裁制。市中には「ビック・ブラザーは見ている」と書かれたポスターが貼られ、国民はテレスクリーンという装置で24時間監視されていた。党員のウインストン・スミスは、党内にある真理省の下級役人で「この国の歴史を改ざんして、党にとって都合のよい人民の歴史を創り出す」部署に勤務していたが、この絶対的統治に疑念を抱き始め、体制の転覆をもくろむとされる秘密結社<ブラザー(兄弟)連合>に興味を持ち始める。(物語の舞台は、オセアニア国の都市の一つであるロンドン)

 そして、美しい女性党員のジュリアと恋仲になり、<ブラザー連合員>と目される男の支援で、隠れ家でひっそりと逢瀬を重ねるようになる。つかの間、自由と生きる喜びを噛みしめる二人。しかし、そこには、冷酷で絶望的な罠がしかけられていたのだった—。つまり、党支配に疑念をもつ者をあぶりだすための捜査的な罠だ。実は、この<ブラザー連合>とは、支配者のビック・ブラザーが人民支配のために現実に存在するかのように仕掛けていた架空の現実には存在しない集団。全土的に人民は定期的にビックスクリーンの前に各地で集団で集まり、この架空の(仮想敵を創り出す)<ブラザー集団>に対して憎悪の声を叫ぶことが日々繰り返され洗脳されていた。そして、人民の多くは、それに幸福感さえ覚えていくのだった‥。そして、この二人も再び愛情省と呼ばれる部署の管轄にある強制収容所などで教育を受けて、党に忠実になるように再び洗脳されていく。

 この3つの超大国には属さない広大な地域がある。ここは3つの国が領有権を巡って争う地帯。3つの国の指導者たちは裏でつながり、時々、この地域で戦争を起こす。それは、軍需産業や資本家、超富裕層(株の売買投資)にとっては儲かるからだ。そして、それによって人民のナショナリズムを巻き起こし、支配を強固にもしていける。よくもこの小説、ここまで近未来を見通せたものだ。

■全体主義が支配する近未来の恐怖を描いた本作品が、1949年に発表されるや、当時の東西冷戦が進む世界情勢を反映し、西側諸国で爆発的に読まれ、支持を得たようだ。1998年「英語で書かれた20世紀の小説ベスト100」に、2002年には「史上最高の文学100」に選出されている。そして、発表された1949年から70年後の今、再び、世界で爆発的に読まれ始めている。(日本ではまだ読者は多くはないようだが‥)  私が読んだ限りでは、この本は、体調のすぐれない時や、何か大きな悩みを抱えている時期には読まない方がいいように思えた。デストピアの世界を読み進めるのがちょっと辛くなるからだ。この小説は徹底して近未来のデストピアを描いているからだ。そして、それが現実になってきている大国もある。(※オセアニアの指導者ビック・ブラザーのモデルは、かってのソビエトの指導者の一人スターリンをイメージしていると言われている。)

 訳者の一人、内田樹はこの本の解説で、「むかし読んだときより むしろ怖い」と記していた。

■今は、2021年11月。これからの50年間、人類の世界はどのように推移していくのだろうか。50年後の2071年11月はどのような人類世界になっているのだろうか。また、30年後の2051年11月にはどのような世界になっているのだろうか。今、子守のサポートをしている孫たちが31歳~35歳になっている時代だ。

 確かに言えることは、「貧富の格差是正/共同富裕」と「言論・報道の自由度」という二つがキーワードとなって紆余曲折を経ながら世界の歴史は、推移していくということだ。前号のブログで紹介した書籍『資本主義だけ残った』の裏表紙には、「われわれの未来についての、重要な問題をすべて提示している」(元イギリス首相G・ブラウン)、「この二つの資本主義が世界を支配している。両者の共進化が今後数十年の歴史を形成することになるだろう」(エコノミスト誌)などが書かれていた。

 『武漢日記』の著者、方方の言葉の一文、「ある国の文明度を測る唯一の基準は、弱者に対して国がどのような態度をとるかだ」と、読者からの「一つの声しかない社会は健全な社会ではない」の一文のコメント。この二つの一文がますます重みを増すだろう、これからの人類の歴史の紆余曲折かと思う。

※次回以降のブログでは、この10月下旬にあった日本の衆議院選挙の結果について、「貧富の格差是正」の観点から、日本国民が選択した行動の意味するところも考えてみたい。この選挙結果は、国民による「格差是正の現状放置」を選択したものとなっていた。なぜ、そうなったのかを‥。

 

 

 

 

 

 

 

 


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