彦四郎の中国生活

中国滞在記

日本三大、大学自治寮➋京都大学「熊野寮」「吉田寮」、北海道大学「恵迪寮」―バンカラ伝統も

2022-10-20 07:22:50 | 滞在記

 —「自由な」イメージと高校3年生が思う大学ランキング(2022年)、全国1位は京都大学—

 リクルートが運営する「リクルート進学総研」が関東、東海、関西の高校3年生を対象に調べた「進学ブランド力調査2022」の調査項目の一つに「自由なイメージの大学は?」という項目がある。この「自由な」イメージ項目が高かった大学をランキング化したところ、関東エリアの高校3年生では、1位青山学院大学、2位早稲田大学、3位京都大学だった。東海エリアでは、1位早稲田大学、2位京都大学、3位は慶応大学。関西エリアでは、1位京都大学、2位立命館大学と東京大学が同率で並ぶだった。全国的には、1位が京都大学、2位が早稲田大学‥となるのかと思われる。この「自由な大学」という学風は、大学にとってとても重要なことだ。

 さて、この「自由度NO1」のイメージがある京都大学には、主に4つの学生寮がある。最も寮生が多いのが、前号で紹介した熊野寮。そして、今号で紹介する吉田寮。三つ目は京都大学女子寮(百万遍にある。個室で入居者人数制限は30名ほどか。)。四つめは大学院生だけが入寮できる室町寮(京大吉田キャンパスからはまあ遠い)。他に、「YMCA地塩寮」(京大近くにある。京都市内の大学生なら入寮できる)というものもある。そして、海外からの留学生は、これらの寮にも入寮できるが、主に留学生・海外研究者用の6箇所余りの寮に入る場合が多いようだ。

 8月28日(日)の午後、熊野寮の見学を終えて、からふねや珈琲店で休憩し、近くの京都大学吉田寮に向かった。時刻は午後4時半頃になっていた。久しぶりに吉田寮に行くことになったのだが、驚いたことに、この吉田寮を囲む石垣沿いの歩道だけには、今もなおたくさんの立て看板が並べられていることだった。

 前号でも述べたが、山極壽一氏が京都大学の学長だった時代の2018年に、京都大学吉田キャンパス周辺の立て看板(タテカン)の撤去が強制的に行われた。これに対し、多くの学生や京都大学教職員組合は、「表現の自由の侵害」などとして、反対をしてきている経過がある。市民の多くも、この強制撤去には、「かなんな、‥。撤去なんて惜しいで‥。さみしゅうなるわ‥」と思ったようだ。2021年4月には、教職員組合は、京都市と大学を相手取り、京都地裁に「強制撤去の取り消し」を求めて訴訟を起こしている。訴状などによると、「立て看板の強制撤去により、表現行為が大きな制約を受けた」としている。そして、この京大タテカンは、「京大名物で、自由な学風を体現する要素として、高い評価を得てきた」と訴える。

 京大出身の俳優・辰巳琢郎さんは学生時代、劇団の活動で自身も立て看板を作っていた。そして、この京大名物のタテカンについて、「互いに『これはすごい』と評価し合い、タテカンの制作自体が大事な活動でした。演劇や音楽と同じ、一つの表現と思っていました」と語る。

 今もなお、この吉田寮周辺のタテカンだけは健在だった。そこに、この寮の表現の自由や自治意識の高さを感じてしまう。こんな大学生たちの集団は、今の日本にはなかなかお目にかかれない希少価値だ。この吉田寮周辺の20枚余りのタテカンを一つ一つ見てみると、「吉田寮祭」、「吉田寮寮生募集(京都大学に在籍する全ての学生及びその者との切実な同居の必要のある者)」、「人民酒場」、「11/28 15:00~—七三一部隊とF研究/京大の戦争犯罪/学問が戦争に協力するとき(主催:学問と植民地主義について考える会・京大戦争遺跡研究会)」「アイヌ民族交流会」などのタテカンが並ぶ。

 吉田寮の歴史は古い。1913年(大正2年)に設立されているので、110年の歴史を持つ。その頃に建てられた建物は今も残る。正面に見える木造の建物だ。(戦後に改修もされて、使い続けられている。)  吉田寮は200人余りが収容可能だが、現在の入寮者は120人余りのようだ。旧館の木造建築の廊下は、薄暗く、さまざまな貼り紙に壁面は覆われる。4〜6人が暮らす部屋は、これまた雑然とした、足の踏み場もない。伝統的な部屋のようすは、熊野寮とよく似ている。

 この旧館の2階建て木造建物の横にある空き地には、山羊(やぎ)🐐やニワトリ🐓などが飼われている。女子学生たちも住んでいる。吉田寮の自治運営委員の一人に出会ったので、寮での生活のことや、この10月に来日予定の国費留学生の入居などについても問合せた。寮費は1か月に2500円(光熱費・水道・ネット代込み)とのこと。留学生も入寮可能のようだ。

 久しぶりに、吉田寮に行ってみたら、大きな新館の建物が4棟あまりできていた。まだ、真新しく、外観が木造のコンクリート建物2棟、コンクリ―ト外壁の近代的な建物が1棟建っていた。(いずれも3階建て)  他に、外観が木造の食堂・共同スペース棟(2階建て)があった。ちなみに、ここ吉田寮には中核派などの看板や貼り紙などはない。寮の自治運営委員会としては、そのような政治団体とは一線を画しているようだった。

 この吉田寮は、大学当局から立ち退きを迫られている。旧館に暮らす寮生たちに対してだ。建物の老朽化のため、この歴史的な建物を取り壊すことを大学側は要求していて、これもまた、訴訟問題になっている。この11月2日には、京都地裁で、第15回口頭弁論が開かれる。「吉田寮自治会主催—学内シンポジューム開催決定!11月2日夕方〜夜」のチラシが置かれていた。

 京都大学の大学祭である「11月祭」は、京都大学全体の大学祭。今年は11月19日~22日の4日間、3年ぶりに対面を中心に開催される予定だ。(全国最大規模)  そして、ここ吉田寮や熊野寮でも独自の「寮祭」が毎年開催される。今年の吉田寮の寮祭は7月2日から10日までの約1週間開催されていた。寮祭の企画内容は、なんと100余りもあった。(中にはバカげたアホな企画もけっこう多いが、「真面目だが、バカげた・アホな」は、それはそれで大事なことではあるとも思う。私は、「真面目だが、こいつアホも入ってるな」という人間が好きだ。私の友人の多くは、「真面目だが、どこかアホが入っているなあ」という人物がほとんどだ‥。)

 現在、吉田寮は、「京大吉田寮通信」なるものを発行し、京都市内の喫茶店や書店などに無料で置いている。立ち退き訴訟などの問題を市民に知ってもらう目的もあるようだ。この4ページものの通信を読むと、とても面白い。この吉田寮での学生たちの暮らしのようすがよくわかりもする。この2022年には、30人余りの新入生の入寮があったようだが、通信を読むと、中にはこの吉田寮に住みたくて京都大学を受験したという学生もいるようだ。

 『京大的アホがなぜ必要か―ムダと変人が世界を変える!』、『京大的文化事典』、『京大変人講座』などの著書が、この2018年~22年にかけて、次々と出版されている。「京大変人講座」は、大学の主催でここ数年前から始まった。内容は講演や講座である。京都大学卒業生などが、この変人講座に登壇している。

※前号のブログで、「1070年代当時」と書いた箇所は、「1970年代当時」の誤りです。訂正します。

 

 

 

 

 

 


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