彦四郎の中国生活

中国滞在記

中国・蘇州、日本人学校スクールバス待ち日本人親子襲撃事件—身を挺して立ちはだってくれた中国人女性死去

2024-06-30 19:15:59 | 滞在記

 6月24日(月)の午後、中国江蘇省蘇州市のバス停で、日本人学校のスクールバスを出迎えていた日本人の母親と未就学児の男の子が、中国人の男(52歳)に刃物のようなもので切りつけられた。スクールバス内にいたバス添乗員の中国人女性の胡友平さん(54歳)が身を挺してその男の凶行を後ろから止めようした際に、胡さんも切りつけられたり刺されたりして意識不明の重体となった。(母親と男の子も病院で緊急治療を受け、母と男の子は命に別状はなかった。)

 もし、胡さんが男の犯行を阻止しなければ、日本人の母親と子供だけでなく、スクールバスに乗り込んで、男はバス内の小学生や中学生を殺傷した可能性もあったかもしれない。(※男は逮捕された。凶行の動機については明らかにされていない。)

 胡さんの意識不明重体が続く中、中国外交部報道局の毛寧報道官は25日の会見で、「このようなことが起きたのは遺憾だ」と表明した上で、「初歩的な判断では偶発的な事件」と説明、さらに「中国は、世界が認める最も安全な国の一つ」と強調し、「有効な措置を講じ外国人の安全を守る」と述べた。

 そして、胡さんは意識が戻らずに26日亡くなってしまった。(※28日に葬儀が行われた。)中国国営の新華社通信によると、胡さんは親子を襲った男を引っ張って止めようとし、背後から抱きかかえるようにもして制止して、数か所を刺されたという。蘇州市公安局は「勇気をもって正しい行いをした模範」の称号を贈ると報道、中国の主要メディアもこのことを報道していた。

 胡さんの遺族は、地元メディアを通じて、各方面から哀悼の言葉が寄せられ寄付の申し入れもあったことに感謝しつつ、「正義と思いやりのある人ならば同じ選択をしただろう。寄付は受け取らないことに決めた。静かに故人の冥福を祈りたい」とのコメントを発表した。

 この事件は日本のテレビなどでも大きく報道されていたようだ。(Yahoo Japan!のインターネットニュースで見た。)北京の日本大使館は胡さんを悼んで半旗を掲げた。

 そして、金杉憲治中国大使は「勇気ある行動にあらためて深い敬意を表すとともに、心からのお悔やみを申し上げます」と、哀悼の意を示した。

 中国でこの事件が公的に報道されると、中国国内のSNSウェボーでは、『日本人親子をかばった中国人女性が亡くなった』というキーワードがトレンドの1位にも上がった。次のような書き込みが書かれてもいた。「危険な場面で、勇敢にふるまうことは誰にでもできることではない。あなたはやり遂げました」「あなたは正義のために行動しました。ご冥福をお祈りします」など‥。

 事件のあったバス停に献花に訪れる人も多く、「胡さんに感謝します。バス1台の子供たちを全員助けてくれて‥‥うまく言えないけど本当に感謝です。"感謝"以外の言葉が見つかりません」と、日本人女性の言葉や、バス停の片隅に花を置き、深く頭を下げていた中国人女性の「愛情に国境はありません。私ならその場にいても、胡さんのように勇敢なことはできません‥」との言葉などが報じられていた。

 また、事件が起きたバス停近くには日本人駐在員とその家族が多く居住するようだが、日本人学校の保護者には、「子供を外に出したくない」「動機が分からない点に怖さが残る」などの声も報じられていた。

■中国の日本人学校(小学生と中学生の全日制)—現在11校が次の都市にある。(北京、上海[2校]、大連、天津、青島、蘇州、杭州、香港、広州、深圳) 日本の文科省が指定する授業内容を行っている「文科省認定の在外教育施設」だが、地元の日本商工会などが運営している私立学校という位置づけである。それを中国政府が設立を認可している形をとっている。他の国々の日本人学校も同じような形態だ。現在世界49か国1地域に94校の日本人学校がある。

■私立学校であるため、学費などもかなり高い。蘇州日本人学校の場合(児童・生徒数は200人~250人程度)、「①入学金1万元[約20万円]、②施設費1万元[約20万円]」の合計2万元[約40万円]を入学時に支払う。「➂学費は毎月3000元[約6万円]、④PTA会費は毎月25元[約500円]」、「⑤スクールバス費用は、毎月1000元ほど[約2万円]」。日本人駐在員の場合は、高給取りが多い(年齢や職位によるが平均して月給は3.5万元[約70万円]ほど)と聞く。また、住居費用や会社までの送迎は会社が毎日手配し、中国生活での通訳要員が配備されている駐在員も多い。)

■海外の日本人学校に派遣される教員は、➀日本で在籍している学校の給料と、②日本人学校での給料を合わせて支給されているので、とても大きな収入が得られることとなっている

■中国の補習授業校—全日制ではなく、土曜日などに開校する。普段は地元の学校やインターナショナルスクールなどに通学。このような特定の日に補習を行う学校も中国では次の都市にある。(南京、上海、無錫、寧波、瀋陽、深圳、珠海、成都、雲南、香港) このような補習校もまた世界各国にある。

■この6月10日、中国東北部の吉林省吉林市の公園で、アメリカ人の大学教員(吉林市の北華大学に派遣されていた)4人が男(55歳)に突然に刺され、それを止めに入ろうとした中国人旅行者も刺すという事件が起きていた。(凶行に及んだ男は逮捕された。) 刺された5人は緊急治療を受けて命に別状はなかった。

■この吉林の事件と蘇州の事件の犯人の犯行動機は明らかにされていない。日本でも近年、女性や子供などを無差別に殺傷する事件がよく起きている。中国の今回の事件の背景や動機などは明らかにされていない。しかし、近年の中国とアメリカや日本との政治的緊張関係、そして一部の中国国民のSNSなどでの日本やアメリカへの批判投稿など(※日本人学校への批判も一部ある。)も影響している可能性はあるかもしれない。さらに中国の経済状況の問題なども‥。日本でも中国でも社会の閉塞感の強まりはさまざまな凶行を生み出してしまうのだろうか。


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