彦四郎の中国生活

中国滞在記

ロシア、ウクライナ侵略戦争の行方➊—世界が二極化し、中間層の国々の取り込みが活発化する

2022-07-26 05:49:49 | 滞在記

 今月の7月24日、ロシア・プーチン大統領によるウクライナ侵略全面戦争が始まって5カ月間が経過した。この5カ月の間に、ウクライナの人々の命はどれほど奪われたのだろうか。死傷者は、どれほどなのだろうか。一方、ロシア軍の死者も、侵攻4カ月目の6月下旬には約4万人とのウクライナ側の報告もある。

 3月2日、国連総会緊急特別会合が開かれ、「ロシアによるウクライナ侵攻を非難する決議案」が賛成多数で採択された。193ヵ国中、賛成は141カ国、反対は5カ国(ロシア・中国・北朝鮮・ベラルーシ・エリトリア)、棄権は35ケ国(中国・インド・イランなど)。賛成141、反対・棄権は合わせて40という結果。

 だが、1カ月後の4月7日に開催された国連緊急特別会合での、「ロシアの国連人権委員会理事国の資格停止を求める決議案(ウクライナの首都キエフ近郊のブチャなどで、多くの民間人虐殺遺体が見つかったことを受けて、アメリカなどが提案。)」では、決議案の採択はされたものの、賛成は93ヵ国、反対は24ヵ国(中国・ロシア・北朝鮮など)、そして棄権は58ヵ国(インド・ブラジル・メキシコなど)にものぼった。賛成93、反対・棄権は合わせて82という結果。つまり、反対・棄権が3月2日の時よりも2倍となった。

 この5月から6月下旬までにおけるロシア・ウクライナ侵略戦争の戦況、国際情勢をふり返ると次のような報道があった。5月13日付朝日新聞、「NATO拡大 ロシア誤算―"中立"フィンランド加盟支持急伸」「ロシア"NATO拡大"を自ら誘導」の見出し記事。17日付同紙、「フィンランド"歴史的な決断"NATO加盟申請」、「ロシア同盟国 6か国首脳会議―にじむ警戒」の見出し記事。

 5月16日に、ロシアのモスクワにおいて、旧ソ連6カ国でつくる軍事同盟「集団安全保障条約機構(CSTO)」[ロシア・ベラルーシ・カザフスタン・キルギスタン・タジギスタン・アルメニア]が開催されたが、ベラルーシ以外はロシアのウクライナ侵攻に同調はせず、共同声明の発表ができずに終わり、ロシアの中央アジア諸国への求心力低下が露呈しているとの報道内容。

 ドイツはロシアの脅威を受けて、軍事費を2倍化する方針を発表したが、ロシア・中国・北朝鮮の東アジアにおける脅威を受けて、日本でも、軍事費拡大の動きも出始めている。現在は国民総生産(GDP)の1%の軍事費だが、2%に増額していこうという動きだ。もし2%となれば、現在世界で第9位の軍事費は、アメリカ・中国に次いで、ドイツとともに3~4位となる。(現在※年間➡①米国:約8000億ドル、②中国:約3000億ドル、⑨日本:約540億ドル)  [5月29日付『赤旗日曜版』の記事より] 

  6月9日付朝日新聞には、「日本、3正面[中国・ロシア・北朝鮮]の脅威には外交で」の見出し記事。(編集委員・佐藤武嗣執筆)     東アジア情勢のさらなる緊迫化により、憲法改正や防衛費増額の議論が、現実として日本の政治課題として急浮上してきた。安全保障問題は、7月10日に予定されている参議院議員選挙での争点としても大きくなった。

 6月4日付朝日新聞、「100日 戦禍いつまで—誤算ロシア、東部に注力」の見出し記事。ロシア軍は、ウクライナ東部二州への制圧に軍を集中し始めた。ウクライナ侵攻問題などを継続的に報道し続けている、優れた報道番組でもある「報道1930」(BS-TBS)をふり返ると‥。

 6月上旬から中旬にかけて「報道1930」では、「戦争支持の底流にあるもの"愛国教育"と"スターリン再評価"」、「遅れる武器供与—欧米に"ゼレンスキー疲れ"か」、「ウクライナ侵攻と重なる"国恥地図"に覗く中国の領土への野望」などのの特集報道がなされていた。5月から6月・7月にかけて、ロシア軍のウクライナ東部掌握に向けた攻勢が集中的に展開されることとなった。

 この6月のロシアや中国側の外交面での大きな動きとして「BRICS SUMIT(ブリックス サミット)」がある。この「BRICS」とは、2000年代につくられた「新興国5か国」の経済的協力組織。2017年9月上旬にはこのサミットが中国福建省廈門(アモイ)で開催され、このため私が勤める閩江大学なども含め、福建省内にある約90余りの大学の新学期開始が、突然に1週間も遅らされることともなった。(B:ブラジル、R:ロシア、I:インド、C:中国、S:南アフリカ)

  6月24日〜26日、このBRICSサミット(首脳会議)がオンラインで開催された。この4カ国は、ロシアのウクライナ侵攻を容認している国々でもある。世界的にはこの5カ国で、①面積の約30%、②人口の約43%、③GDPの約24%を占める。BRICSサミットに先立つ5月19日、BRICS外相会談が開催され、9か国の外相(カザフスタン・エジプト・アルゼンチン・セネガル・インドネシア・タイ・ナイジェリア・アラブ首長国連邦・サウジアラビア)が招待された。中国・インドを中心としたBRICSだが、アルゼンチンやイランはBRICS加盟に意欲を示しているとの報道も。

 今回のBRICSサミットでは、「冷戦思考と集団対立を放棄し、一方的な制裁・制裁の濫用に反対する」「人類運命共同体の大きな家族によって、覇権主義の小さなサークルを超越する」との共同声明を出し、欧米日・NATO諸国を批判した。6月24日付読売新聞、「露BRICS重視表明—対欧米でプーチン氏」の見出し記事。

 6月16日、ドイツ・フランス・イタリアの首脳がウクライナを訪問。6月26日~28日に、G7サミットがドイツで開催され、「ウクライナ支援とロシアへの圧力強化」についての議論が行われた。このG7サミットには、6か国の首脳(インド・ウクライナ・アルゼンチン・セネガル・南アフリカ・インドネシア)が招待され参加した。また、6月29日~30日には、NATO首脳会議が30ヵ国の参加で開催され、日本は招待国として参加。「フィンランド・スウエーデンのNATO加盟が議論」された。

 このように、この5月から6月下旬にかけて、中国・ロシアを中心とする勢力と欧米日豪を中心とする勢力は、他の多くの国々を陣営内におくことを巡って、BRICS、G7、NATO、QUAD(クアッド日米豪印首脳会議/2022年は5月に東京で開催)などの会議などで、世界各国への働きかけ・綱引きを目まぐるしく展開した時期でもあった。現代の世界の政治もまた、改めて、実利(経済的関係)を中心として動いていることを実感させられることともなった。ロシアへの経済的制裁の限界というものも見せつけられる‥。世界がブロック経済的な、二極化の動きがより強まったこの5月・6月の2カ月間の展開‥。7月19日、ロシア・プーチン大統領はイランを訪問した。

■ロシアのウクライナ侵略戦争を巡って、「全体主義国家VS民主主義国家との戦い」との位置づけは、間違いだという論調がある。しかし、今回のウクライナ侵略を巡る世界の対立構造の中心にある国々は、この「全体主義国家VS民主主義国家」という面が強いことは、まぎれもない事実だ。そして、中間に位置する多くの国々を自陣営に引き入れるという綱引きが行われているという点では、単純に「全体主義国家VS民主主義国家」(中国・ロシア・イラン・北朝鮮などVS欧米・日韓・豪など)という構図だけでは語れない歴史の流れがあることも事実。

 ―戦争の行方?二つのシナリオ—6月23日、日本のインターネット報道「ウクライナ戦況、戦争の行方?二つのシナリオ」記事。「①ドンバス2州と南部をロシアが制圧、②開戦前までの地域に、ウクライナが押し返す」という二つのシナリオに関する記事。大雑把すぎる、あいまいな記事の印象が‥。

 6月24日付読売新聞には、「露とウクライナ消耗戦—侵攻4カ月 死者数万人」「穀物足止め 価格高騰」「侵攻 先見えず—3つのシナリオ」の見出し記事。この記事での「戦争の行方、3つのシナリオ」とは、「①露がドンバス制圧—占領地域の編入も」、②「ウクライナ反転攻勢—有利な状況で停戦協議」、③「決定打なく戦況停滞—数年にわたる長期戦」

 この記事から1か月間が経過した7月下旬の今、①②③が混在している戦況。

 6月25日(土)のABC(朝日)放送の報道番組「正義のミカタ」。「欧米のゼレンスキー疲れ」についても報道。筑波大学名誉教授の中村逸郎氏は、「"ゼレンスキー疲れ"という言葉の使用には、プーチン大統領の策略が潜んでいる。この言葉をマスコミは安易に使用すべきではなく、むしろ"プーチン疲れ"と使うべきだ」とコメントしていた。プーチン大統領は、国内外からのゼレンスキー大統領離れを狙ってもいると‥。

 「ロシア・ウクライナ—侵攻から4カ月 滞る武器供与/プーチンが狙う"EUの分断"」「迅速な軍事支援が必要だ」「EU、ウクライナ結束をアピール」などについての報道内容も。

■この6月には、ロシアのウクライナ侵略を巡って、戦況の消耗戦、膠着状況から、不用意に「ゼレンスキー疲れ/ウクライナ疲れ」などの言葉が欧米日諸国でも使われたが、6月下旬のG7サミットやNATO諸国首脳会議などを開催し、ウクライナ支援の再確認の動きを見せる。