彦四郎の中国生活

中国滞在記

安倍元首相凶弾テロ❸事件の背景、世界平和統一家庭連合(旧・統一教会)と安倍元首相らとの関り

2022-07-14 09:01:29 | 滞在記

 7月8日に、「特定の宗教団体に深い恨みがあり、その宗教団体とつながりのある安倍元首相を殺害しようと思った」と、事件当日の奈良県警の取り調べに話していた山上徹也容疑者。その特定の宗教団体とは、統一教会(世界基督教統一神霊教会)[2015年に統一教会の日本法人は「世界平和統一家庭連合」と改称]であることが、マスコミ各社にも事件当日中にはほぼわかっていた。そして11日に、「世界平和統一家庭連合」の日本支部会長が、今回の事件に関わっての記者会見を行ったことから、マスコミ各社もこの宗教団体名を事件との関連で報道するようになった。安倍元首相とこの世界平和統一家庭連合(旧・統一教会)とのつながりは、どのようなものだったのだろうか。

 例えば、2006年、安倍晋三氏が内閣官房長官としての閣僚だった時期に、「統一教会の集団結婚・大会—安倍長官らが祝電」の見出し記事がある。統一教会の合同結婚式に祝電を送ったという記事だ。また、2021年9月には、旧統一教会系内の組織・宇宙平和連合(UPF)の大会で、5分間にわたるビデオメッセージ動画を送っている。このことについて、「しんぶん赤旗(日本共産党発行)」は、「旧・統一教会系集会にメッセージ―安倍前首相"総裁に敬意"―宣伝利用で霊感商法拡大の恐れ」の見出し記事を同年9月に掲載している。この大会では、トランプ米国前大統領も安倍前首相に先立ってビデオメッセージ動画を送っている。(「UPF」は統一教会の開祖である文鮮明とその妻である韓鶴子が2005年に創設したNGO団体。)

  このビデオメッセージで安倍氏は、「偏った価値観を社会革命運動として展開する動きに警戒しましょう」と呼びかけている。統一教会・UPFは、「ジャンダー平等は、社会における男女のあり方、そして家庭のあり方を根本から変えてしまおうという危険な思想」ととらえていて、「夫婦別姓」「同性婚」などに対しては「危険な思想」「偏った価値観」として強く反対している。また、この統一教会系月刊誌『世界思想』には、安倍元首相の写真が何度も表紙に使われている。統一教会としては、日本での最も有力な広告塔としての役割を安倍晋三氏に期待し、活用していたことがわかる。

 安倍元首相の祖父である岸信介元首相(故人)、父である安部晋太郎元自民党幹事長(故人)、そして安倍晋三氏と三代にわたって、この統一教会(1954年に文鮮明が韓国で創設)とは長く深い付き合いがあったことが分かっている。

 では、その「統一教会」とはいったいどんな宗教団体なのか。創設された1954年は、自由主義陣営と共産主義陣営との戦争でもあった朝鮮戦争(北朝鮮・中国・ソ連VS米国・南朝鮮)[1950年-53年に休戦協定]が休戦となってまもない時期だ。このこともあり、統一教会は極めて反共主義・政治性の強い宗教団体でもあった。その教義はキリスト教をもとにしているが、「原罪論」や「終末論」、「血統論(聖なる血縁)」などとともに、共産主義をサタン勢力と定義し、極めて政治性が高い特徴をもつ。欧米ではカルト宗教の一種とされている。

 イエス・キリスト(神)の再来とされる文鮮明教祖とその妻である韓鶴子を絶対的な「真の父母」として崇める。その統一教会が最も重要視するのが「合同結婚式(国際合同祝福式・祝福)」だ。教団の教えでは、人類の始祖であるアダム(人類の始祖)とその妻エバ(イブ)が、蛇の姿をしたサタンと性交したことにより、全人類に原罪が生まれたとしている。その「原罪」を神の下(文鮮明)での祝福によって解消するための、教団の最高儀式が「合同結婚式」である。1960年に第1回の合同結婚式が韓国で行われた。

 それ以降、四十数回にわたり、韓国を中心に、世界各国で開催されている。教祖やその後継者である韓鶴子総裁の祝福を受け結婚し、原罪を解消された人々により、世界平和統一を作ろうとする主旨の教団だ。神の再来である教祖や総裁が指定したカップルによって結婚相手が決められていくというシステムをとる。まあ、これだけみてもオカルト宗教とはいえる。特徴的なのは、独特の方法での洗脳・マインドコントロール手法。後に、地下鉄サリン事件を起こすオウム真理教団がこの統一教会の洗脳方法を参考にしたとも言われている。

 日本では1959年に、日本統一教会が設立され、64年には宗教法人の認可を受けている。その後、教団は、反共主義を掲げる関連政治組織・国際勝共連合(1968年)を設立した。この設立に大きな役割を果たしたのが、安倍晋三氏の祖父・岸信介元首相であった。統一教会はまた、「原理研究会」(原理研)を日本の各大学に組織もしていった。

 1960年代以降、日本において、自民党を中心とした保守系政治家に接近し、秘書や政治・選挙運動員を派遣するなど、活発な政界工作を行うこととなる。1970年に、勝共連合の主催により、日本武道館において「WCAL(世界反共連盟)世界大会」が開催される。74年に文鮮明教祖が帝国ホテルで開いた「希望の日」晩餐会には、岸信介氏の他に、福田赳夫氏(1976~78年首相在任)や安部晋太郎氏ら、40人もの自民党国会議員と財界の要人が出席。その後、1990年代初頭には、統一教会が主導する「勝共推進議員連盟」には、200人余もの国会議員がいたとされる。

 2016年に、UPFは新たな内部組織「世界平和国家議員連盟」を日本で創設した。この日本創設式典には、当時の閣僚5人を含む、100名以上の国会議員(代理出席の秘書含む)が出席している。また、統一教会と関係の深い議員が多数、閣僚や副大臣などに登用されてもきている。

 1980年代には、多額の統一教会への献金、霊感商法による献金(悪霊が取り次いでいるため、運気をあげて除霊をするために、教会が推奨する高価な壺や印鑑を買えというマインドコントロール献金の一種)なども社会問題となった。また、1990年代に入り、当時は歌手で女優でもあった桜田淳子(山口百恵、森昌子とともに三人娘として絶大な人気)などが入信し合同結婚式に参加するなど、大きな社会的話題ともなった。飯星景子(タレント・作家)の入信と、統一教会から娘を取り戻す父親(飯干晃一)の書籍『われら父親闘う―娘・景子を誘い込んだ統一教会の正体』なども話題となった。

 家庭を、家族を破壊にも追い込むことも多く、社会的問題も多々引き起こしていた統一教会。この統一教会に入信し合同結婚式に参加して、家族のもとを去った身近な人が、私の周りにもいた。実家の近くのよく一緒に遊んだ小中学校の同級生とその姉。特に小学生時代はほぼ毎日遊びに行っていた同級生の家に2〜3歳年上の優しい姉がいたが、成人となり家族と決別し合同結婚式に参加、その後の50年間、私はこの人を見たことがない。

 この統一教会(世界平和統一家庭連盟)は、社会問題ともなったことや、1990年代のソ連崩壊による東西冷戦が沈静化したことなどにより、2000年代以降に信者数はかなり減少し衰退してきてはいるが、脈々と活動を続けていて、現在に至っている。現在、世界200カ国に信者数は300万人存在し、そのうち日本には56万人(約300箇所の教会)の信者とされている。(他に韓国30万人、アメリカ・タイ・フィリピン・コンゴ各10万人など)しかし、日本において現在、実際に活動している信者数は約6万人余りと推定もされている。(残りの50万人余りは、脱会同然に近い人とも言われている。) 世界的にも実際活動をしている信者数は10万人程度とも言われている。2008年に教祖文鮮明の妻・韓鶴子氏(現在79歳)が統一教会(世界平和統一家庭連盟)の総裁に就任し現在に至っている。文鮮明教祖(1920年生まれ)は2012年に死去した。(享年92歳)

   (1960年に文鮮明教祖は40歳だった。1960年当時17歳の韓鶴子と結婚。その後、二人のあいだには14人もの子供をもうけている。[文鮮明の子供は17人])

 教祖である文鮮明の死後、教祖の遺言などもあり、教団の次期総裁の座を巡って、韓鶴子、子供たちの間で、熾烈な後継者争いが起こることとなった。教団内部の争いを経て、後継者と目されていた三男などを追放し、現在は教祖の妻であった韓鶴子が独裁体制を敷き、統一教会(世界平和統一家庭連合)の総裁となっている。そして、三男と七男が分派を形成した。(現在、統一教会側[世界平和統一家庭連合]はこれを分派とは認めず、まったく別の宗教組織としている。)

 七男の文亨進氏が2015年にアメリカを本拠地にして創設したものが、銃に対して崇拝・信仰もする「サンクチュアリ教会」(世界平和統一聖殿)だ。銃弾で作られた王冠を頭に巻き、信者たちは銃をもって礼拝や集団結婚式に参加する。まさに、オカルト的な宗教集団でもある。2021年に起きたトランプ前大統領支持者らによる米国国会議事堂襲撃事件にも、この「サンクチュアリ教会」の信者たちが多数参加したともされる。

 この6月に創設者の七男が日本に10年振りに来日し、「日本大会」が行われた。安倍元首相を襲撃した山上徹也容疑者は、この教団とかかわりがあるのではないかとの噂もあるが、おそらく噂にすぎないかとは思う。同教会の日本支部「日本サンクチュアリ教会(協会)」は、山上容疑者との関係については否定している。

 7月11日の午後2時すぎから、「世界平和統一家庭連合(統一教会)」日本支部の田中富広会長が事件を受けて記者会見を初めて行った。冒頭に10分ほど、報告・説明、その後1時間ほどは、この記者会見に参加を許可された大手メディア記者の、さまざまな質問に答えていた。

 同日午後3時すぎに、インターネットで、この会見1時間10分の会見の様子をほぼリアルタイムで視聴することができた。最初から最後までこの会見の一言一句を視聴した。田中会長の受け答えは、頭が切れるというか賢いというか‥。そつのない会見であった。どこが真実で、どこがごまかしで、どこが嘘で、どこが不都合な真実をはぐらかしているのか、視聴する側も、その賢い発言に翻弄されるようだった。

 翌日の12日、「全国霊感商法対策弁護士連絡会(統一教会による被害者救済のための弁護団)」は、この統一教会の田中会長による会見内容が、著しく事実と異なるとして批判をする会見を開いた。その弁護士集団による会見を視聴していて、その田中会長への反論はとても納得させられるものであった。

■安倍元首相は、日本の政界において、その業績に評価することのできるものも多くあった、指導者の一人でもあった。その死はとても惜しまれ、残念な死でもあった。今後の日本にとっても惜しまれる人材だと思う。だが、統一教会とのかなり深い、関係性など、闇の部分も(負の遺産)も残した人でもあることは、日本国民は見ておかなければならない。米国誌『TIME』は、次号(7月15日発売)で「安倍晋三のレガシー(遺産)」を特集すると発表した。はたして、この「負の遺産」にも言及しているのか注目もしておきたい。

■政教分離を日本国憲法でも明記している。特定の宗教団体が政治を支配するようなことがあってはならないための憲法明記だ。しかし、現実に世界のさまざまな国で、宗教と政治はなかなか切り離せない関係がある。アメリカにおいても宗教団体は政治に大きな影響力をもってる。日本における創価学会教団は公明党という政党を創設もしている。それが、単純、一概に全て悪いとは言わない。信者が政治に対して集団的に発言・発信するのは、それはそれでありうることだ。

 統一教会における、「家族のありかた」に関する価値観のある部分は、それはそれで、安倍元首相が述べているように、私も共感できる部分もないことはない。例えば、「夫婦別姓」や「同性婚」の是非については国民の間にも意見の分かれるところもあるだろう。だが、合同結婚式や霊感商法、異常なまでの献金、信者家庭の崩壊や塗炭の苦しみなどの実態は、オカルト教団としての批判は免れないだろう。これと密接関係を持ち続けてきた自民党や安倍元首相らの「闇の遺産」「不都合な真実」は、今後、早急に是正されなくてはならないものだろうと思う。